ツンデレ片想い
「ユージェリス…」
「ユージェリス様…」
父様とロイド様がジト目で僕を見る。
いや、確かに僕のせいだろうけど、そんな目で見ないでっ…!!
「え、えぇと、イザベル様、申し訳ありません…」
「ふわぁぁぁぁぁん!!!!」
やっべ、がっつり号泣。
20代後半…いや、30代前半?くらいの女性のガチ泣きとか焦るしかないんですけど。
あたしだってこんなに泣いたりしなかった…と思う…んだけど…
「…ユージェリス、どういう事なんだ?悪気があったわけじゃないんだろう?そんな顔して…」
父様がため息をつきながら僕の頭を撫でる。
そんなに困り果てた顔してた…?
「え、えっと…《メモリー》」
とりあえずここに着いてからの記憶を2人に見せる事にした。
見終わった2人はもう1度ため息をつき、ロイド様はイザベル様の前にしゃがみ込んでからハンカチを手渡した。
「イザベルさん、もう泣き止みなさい。あれは君の言い方も悪いですよ」
「う…うぅっ…ろいどしゃん…」
「確かにユージェリスもやり過ぎたところはあるが、あの言い方では仕方がないだろう。一応まだこの子は12歳だぞ?城内の事も貴族の事もそこまで詳しいわけではないんだから、もう少し言葉を選びなさい」
「うぅ…しちょぉ…」
…うん?僕の過失ではないって事?
「父様?」
「あー、ユージェリス、イザベルはな、言葉が足りない事で有名なんだ。見た目からは考えられない強い口調で言ってしまう癖があってな…そして伝えられないもどかしさから、限界を越えるとこうやって泣き出す」
…うわ、めんどくせぇ…
社会人なんだからもうちょっと言葉を伝えられるようになっててよ…
いや、まぁそういう人もいるんだろうけどさ。
よくこの人師団長になれたな…
一応師団長ってのは、前任の師団長が辞める時に次の人を指名してなるものらしい。
だから若かろうが年老いていようがなれる時はなれるのだとか。
確か今だと最年長は還暦近くて、最年少は20代後半だって聞いている。
基本的には父様の年齢に近い人が多いらしい。
…もしかしてイザベル様は最年少の師団長なのかな?
「さっきの言葉も、一応お前を心配して言ってるんだ」
「え?」
「『行動が簡単に世間へ知れ渡る』というのは、お前が何か不利な行動をすれば、すぐに貴族間に噂として伝わってしまう、という事だ。確かに王城への転移は不法侵入と言われても仕方がない。評判が下がる前に、助言しておきたかったんだろう」
…なんと、そんな言葉が隠されていたのか。
まぁ確かに愛し子って無条件で尊敬の対象だったりするけど、他国出身の人からすれば意味不明な立ち位置だもんね。
ほら、あのクソ騎士団長もそうだったし。
…『仕事場だから遊びに来るな』って言うのも、僕を想っての事だったのか。
それは、なんというか、悪い事したな。
言葉を逆手に取って、彼女の評判が下がるような事をしてしまった気がする。
『愛し子を城内に入れないようにした』って、かなりマズイよね?
「…イザベル様、そうとは知らず、申し訳ありませんでした。貴女は悪くありません、不法侵入していた私が悪いのです。これからは一貴族としての自覚を持って過ごしていきます、ご忠告ありがとうございました」
僕はイザベル様の前で膝をつき、手を差し伸べる。
ぐちゃぐちゃに泣き腫らした顔のイザベル様は、ポカンとしてから少し眉間に皺を寄せて、僕の手を取った。
「…わ、分かればよろしいのです…私、も…申し訳ありません…でした…」
…成る程、イザベル様はツンデレか。
ツン要素が強そうだけど。
「全く、いくらユージェリス様のためとは言え、お気をつけて下さいね?イザベルさん」
「は、は、はい…ロイドさん…」
…おや?イザベル様が顔を真っ赤にして、プルプルしてる。
うっわ、眉間の皺やべぇ。
…うん?もしかして…
僕はイザベル様を引っ張って立ち上がらせてから、父様の隣に立った。
そして小声で問いかける。
「父様、気のせいかもしれないけど、イザベル様って…」
「あー、うーん、まぁ、そうだな…黙っててやれ、ロイドは気付いてないんだ…」
…完全なる一方通行ですか…
というか、ロイド様って既婚者だよね?
あ、でも奥さん…ニコラのお母さんは亡くなられてるんだっけ。
ならまぁ、アリかもしれないけど…
「あらあらあら、ユージェったら女の子泣かせちゃって!悪い男ねぇ、うふふふふ。あ、それとも悪女の方かしら?男も翻弄させちゃうんだものね」
声に驚いて父様と一緒に振り返ると、そこにはめちゃくちゃ笑顔のベティ様が立っていた。
口元扇子で隠してますけど、ニヤニヤしてんのバレてますからね?!