リリーの実家
そこからは結構バタバタだった。
人手が足りない事もあり、僕とミーナもお産の準備を手伝った。
ドリーと母様はリリーと手を繋いで励ましてるらしい。
タオルやらお湯やら、僕が魔法で用意したりした。
時折聞こえてくるリリーの悲鳴が聞こえる度に、ミーナと2人でビクついたりもした。
ミーナの顔は真っ青だ。
そうだよね、将来こうなる可能性があるもんね…
さて、これ以上は僕達もやる事はそんなになさそうだ。
後はリリーの体力次第…頑張れ…!!
「…ミーナ、リリーの実家に行って、親御さん呼んでこよう。ドリーの方はいいのかな?」
「ドリーさんは孤児院出身ですから、親御さんはいないんですよ」
「成る程、じゃあリリーの方だけだね」
「…ユージェリス様も参られるおつもりですか?」
「ダメかな?いつもお世話になってるリリーの家族だし、急いでるなら転移魔法でここまで連れてくればいいかと思って」
「…ユージェリス様が有名人な事をお忘れですか?」
「たまには侯爵領を歩いたっていいんじゃない?僕、侯爵子息だよ?ちゃんと仮面はするからさ、同級生いたら困るし」
「…ユージェリス様がよろしいのであれば…」
ミーナは渋々、といった感じで了承する。
ちょっと街の反応見てみたいんだよねぇ。
というわけで、アイテムボックスから何時もの仮面を取り出して装着する。
マントは派手すぎるからやめておこうかな。
玄関から外へ出ようとした瞬間、ミーナに腕を掴まれて止められた。
「ユージェリス様!せめて『クリーン』で身繕いして下さいませ!」
…忘れてた、僕、リリーの羊水とか腕に被ったし、埃とかなんか色々ボロボロで汚れてたね。
指を鳴らして身支度を整える。
よーし、これでいつものイケメンだ!
ついでにミーナも綺麗にしといた。
バタバタしたせいで髪とかほつれてたしね。
「…とても、見られていて、落ち着きません…」
外に出た僕達は並んで歩き出した。
普通は僕の後ろに付き従うメイドさんだけど、今日は道を案内してもらってるから並んでるんだけど…
そんなミーナから、半分ギブアップ宣言。
何故かというと、周りを凄い人の数で囲まれてるから。
でも話しかけてくるわけじゃなく、進路を塞ぐわけでもなく。
ただただ見世物になってると言える。
めっちゃ周りがザワザワしてるなー。
「まぁ僕に話しかけてくる人はいないから、気にしなくていいよ」
「そう言われましても…」
とりあえず僕は少し微笑んで領民に手を振る。
一層黄色い悲鳴が響いた。
というか、仮面してても結構わかってもらえるもんだな。
この髪色のせいだろうか?
愛し子以外ではメッシュのような部分染めはしてはいけないらしい。
したら即死罪なんだとか。
…あの姉妹()は毛先だからセーフなんだろうな。
「ユージェリス様、こちらです」
そんな事を考えていたら、ミーナが1軒の家の前で止まった。
普通のお家よりも大きめだった。
ちょっと裕福な家なのかな?
僕が頷くのを見て、ミーナが扉をノックする。
「はーい!どちら様ー?」
ガチャリ、と扉を開けたのは50代くらいの男性だった。
…リリーのお兄さんの顔はお父さん似だったのかな?
お父さんのガタイはかなりいいから、お兄さんも鍛えたらこうなるのか。
ちなみにミーナを見て首を傾げて、僕を見て固まった。
「ご無沙汰しております。改めましてアイゼンファルド侯爵家メイドのミーナと申します。こちらは…」
「ユージェリス=アイゼンファルドと申します。いつも娘さんにはお世話になっております」
「い、愛し子様っ…?!」
軽く会釈をすると、リリーのお父さんは顔を真っ赤にして両手と頭を横に振った。
「そそそそそそんな恐れ多い!!り、リリーの父でフォームと申します!!元はリリエンハイド王国騎士団に所属しており、怪我を機に退役致しまして現在は荷運びなど別の仕事をしております!!」
「あぁ、騎士をされていたのですね。国のためにご苦労様でした。フォームさん、とお呼びしても?」
「きょっ!!恐縮ですっ!!私めなど、敬称は不要でございます!!」
僕の言葉に騎士の礼をするフォームさん。
あぁそうだ、それどころじゃないわ。
「それより、リリーが先程産気付きまして…」
「えぇ?!リリーが?!予定日は来月のはずでは…!!」
「すでにステラのところへ連れてきていますので、そちらへ向かっていただけますか?」
「勿論です!あ、でも…」
「どうかされましたか?」
「…その、妻が…まだ王城に…」
…そうか、リリーのお母さんってベティ様のところか!!
しまった、ならやっぱりさっき王城に行けば良かったか…
「ミーナ、フォームさんとステラのところへ行ってくれる?」
「ユージェリス様は?」
「僕はリリーのお母さん連れてくるよ。ベティ様に説明すれば連れ出してもなんとかなるでしょ」
「…それ、ユージェリス様だから許されるのであって…」
「ならその権力、フルで使わなきゃね」
あんまり見えないだろうけど、僕はミーナに向かってウィンクする。
何故かため息つかれた、解せぬ。
「んもぅ、僕もう行くっ!《ワープ》!」
呆れた表情のミーナとポカーンとした顔のフォームさんを尻目に、僕は王城の魔法師団室を目指した。