未来の私兵
あー、大人の男達を弄ぶのたーのしーい。
なんちゃって。
項垂れた大人9人の後ろに付き従う僕は、はたから見ればただの従順なメイドさんだろう。
そんな状態で森を抜けて、停めてあった馬車と馬の所までやってきた。
父様が結界を張っていたので、勿論盗賊とかの心配はなし。
…うん、行きみたいな視線は感じられないな。どうやら監視されてたわけじゃなくて、興味で後をつけてきた王都民とかだったみたいだ。
「これより王都へ帰還する。王城へ戻り次第、アレックスは今回の報告書を作成するように。残りの7名はアレックスの補佐と片付けを頼む」
「承知しました」
「「「「「「「はっ!」」」」」」」
「ジェリスは…これ以上は付き合わせるわけにはいかないな。王城へ戻る前に屋敷に立ち寄り、ジェリスを置いていくか」
「承知致しました、旦那様」
うん、まぁ僕は今回の検証の保険として連れてきただけだもんね。
お家に帰って後はゆっくりさせてもらおう。
こうして僕達はまず屋敷へと戻る事になった。
道中も特に問題はなく、強いて言うなら王都へ戻って門で申請を出してる時に周りを少し囲まれたくらいだ。
まぁ父様とアレックス様が乗ってるし、魔法師団は憧れの職業だからねぇ。
僕は馬車の中でじっと息を潜めていますとも。
「…おや、ジェリス、あれは学院の生徒じゃないか?」
「え?」
父様の声に、窓の端から外を見る。
確かに門の所には黒と白の制服を着た少年達が立っていた。
彼らも興奮気味にこちらを見ている。
「あぁ、コース選択の一環っすよ。確か兵士コースや衛兵・私兵コースとかだと、職業体験みたいな感じで王城や門の兵士の所に行ったりするから」
「あぁ、そういえばそんな授業もあったな。私は騎士コースだったから、学院時代に王城へ行った事がある」
「まぁ、旦那様は文官コースではなかったのですか?」
「文官コースで習うものは、基本家で学んでたからな。剣の腕を磨くためにも騎士コースにしたんだ」
成る程、だから父様はスタンピードの時にも剣を振るってたのか。
「にしても、今日は随分手続きが長いなぁ」
「学院生にも見せているからだろう。まぁ仕方がないさ」
確かに中々終わらないな。
というか、質問してる学院生とかもいる。
まだ時間かかるかなー?
…なんて思ってたら、1人の少年と目が合った。
…なんとなーく、見覚えがあるような…
「…姉ちゃん?!」
…その呼び方は。
「…ジーン君?」
おぉ、まさかのジーン少年じゃないか!
随分身長が伸びて大人びたもんだ!
鍛えてるのか、しっかりした体つきになってるなぁ。
僕はオロオロしてるジーン少年に向けて手招きをした。
少し驚いた顔をしてから、そろりそろりとこちらに近付いてくる。
「ジーン君、お久しぶりね」
「姉ちゃん…なんか、全然変わってないな。前に会ったのは7年くらい前だってのに…」
「ふふふ、レディに年齢の話はご法度よ?」
「いや、レディって…」
呆れたような声のアレックス様からツッコミが入ったので、目線で黙らせておく。
しょうがないじゃないか、よく考えると昔と背格好が変わらないような感じになっちゃったんだから。
「うわ…アレックス様、本物…」
なんかちょっと感動してるようなジーン少年。
そうか、アレックス様ってこんなんだけど、第1師団長だもんな。
師団の強さの順番は別に関係ないらしいけど、『第1』ってだけで憧れる人も少なくないようだ。
「ジェリスちゃん、この子とどんな関係?」
「侯爵領の領民で、7年前の黒死病事件発覚のきっかけになった子ですよ。彼が屋敷に教えにきてくれたんです」
「あぁ、あの事件の!」
「…君か、あの時の少年は。随分大きくなったんだな、お母さんは元気かい?」
アレックス様は驚いたように声を上げ、父様は思い出したようで窓から顔を出してジーン少年に話しかけた。
どうやら父様がいたと気付いてなかったようで、ジーン少年の顔が見る見るうちに真っ赤になっていった。
うーん、どうやら父様のファンみたいだな。
「こ、侯爵様っ…!!お、俺、いや私の事を覚えて下さっていたんですか?!」
「勿論だ。君のお陰で我が領だけでなく王都や周辺の領地が助かったんだ。それに1番症状が酷かったのが君のお母さんだったからね」
「は、母は今も元気です!特に大きな病気もなく、兵士を引退した父と一緒に領地で暮らしてます!!」
「そうか、それは良かった。君は学院生として王都に住んでいるだろうが、領地に戻った際にはまた問題がないか確認を頼むよ。何かあればすぐに知らせてくれ」
「は、はいっ!!精霊様の名にかけて、必ず!!」
「聞き届けたよ」
微笑む父様に、感極まったようなジーン少年。
いやぁ微笑ましいねぇ。
そうしてジーン少年は僕達に一礼して、学院生達のところへと戻っていった。
あ、めっちゃ群がられてる。
羨ましい的な感じかな?
「中々いい青年になってきたじゃないか。ロイヴィスと同じくらいか?あの子の私兵として勧誘してみようか」
父様がジーン少年を見ながら頷く。
しかし父様、それは聞き捨てなりませんね。
「恐れ入ります、旦那様。彼は『私』を守るためにアイゼンファルド侯爵家の私兵になりたいそうですよ?」
「…そうか、『ジェリス』を、か」
「えぇ、ロイヴィス様でもユージェリス様でもなく、『私』だそうです」
「ならまぁ…任せる」
「はい、旦那様」
そうそう、ジーン少年は僕に任せて下さいな!
ちょっと時間はかかったけども、昼前には屋敷に戻ってこれた。
玄関の外で出迎えてくれたレリックは随分と驚いた表情をしていた。
「旦那様!ゆ…いえ、ジェリスさんも、お早いお帰りでしたね…」
「私はまだ仕事が残っているから王城へ戻る。ジェリスを置きに来たんだ」
「左様でございますか。ジェリスさん、お怪我はありませんでしたか?」
「はい、かすり傷程度です。それでもアレックス様に治していただきましたから、なんともありません」
「いや、あれはかすり傷っていうか…」
アレックス様が小声で呟く。
いいんだよ、痛くなかったんだから。