可哀想な陛下
3つ目!
今日はこれで終わりですー
正直、期待外れというか、思ってた通りというか。
可もなく不可もなくなお味でした。
いや、強いて言うなら不可なのかもしれない。
ステーキは少し硬めで、味付けは塩胡椒のみ。
付け合わせは蒸したじゃがいもとにんじんのソテー。
スープはかぼちゃのポタージュ、多分かぼちゃと生クリームだけで作った感じ。
サラダとパンは侯爵家と同じ感じ。
ドレッシングがないのと、パンという名のスコーン。
…食べれるけど、満足感はない。
あ、ベティ様、遠い目してる。
15年耐えたんだもんなぁ、不味くはなくても自分の好みじゃない料理を…
「今日の食事も美味いな。さすがはフェルナンド」
「お褒めの言葉、恐縮です」
マージーかぁー…
つい、ベティ様と同じ顔をしてしまう。
「ん?ベティ、ユージェリス、どうかしたのか?」
「いえ、あの…なんでもありませんわ。ねぇ、ユージェ?」
「え、えぇ、そうですね、ベティ様」
「…なんだお前達、いつの間にそんな愛称で呼び合うほど仲良くなったんだ」
「愛し子には愛し子の絆や縁がありますのよ。性格や嗜好なんかも似ている点が多いのです。お気になさる必要はありませんわ」
物は言いようだな、ベティ様。
あ、適当にあしらわれて、ちょっと凹んでる。
「…ねぇ、ユージェ。今度私に『領域の料理』を作ってちょうだいね?」
「はい?」
「なんと、ユージェリスは作れるのか?!それは是非食べてみたいものだな!」
「え、いや、えっと」
「それは知らなかったな。では先程屋敷で作っていたと言うのは、もしや『領域の料理』だったのか?」
「なんだと?!もうすでに誰かが食べているのか!それはずるいぞ!」
え、『領域の料理』って何さ?!
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【隠語について】
『精霊の愛し子』様についての謎は多いです。
理由としては、歴代の『精霊の愛し子』様方が詮索されるのを嫌い、王命であろうとも拒否出来る立場のため、謎が解明されない事によります。
また『精霊の愛し子』様に関して、いくつかの隠語が存在します。
一般市民ではあまり知られていない内容でもあります。
・領域の料理→この世界に存在しない、未知の料理。『精霊の愛し子』様はその存在を知っており、実際に作り出す事も出来る方もいる。一説には精霊界で食べられている料理とされている。
・領域の言語→この世界に存在しない、未知の言葉。『精霊の愛し子』様同士では会話が成り立つ。一説には精霊界で使われる言語とされる。
〜参考文献〜
著・ハイドロ=キングラー、"『精霊の愛し子』の謎"、P13
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…うん、あの、そういう事ね。
昔いた何人かは、飯テロ起こそうと思ったのかな。
でも突然出された料理について説明出来ないから、暈してたらそういう認識にされた、と…
えぇー、そんなぁ…
「…確かに先程屋敷で料理をしましたが…特に周りには『領域の料理』と言われたりはしませんでした」
「それはそうだろう。『領域の料理』だなんてただの通称だ。貴族位についている者の間で囁かれている噂のようなものだ。気付く者の方が少なかろう」
「はぁ…」
「それで?実際には『領域の料理』とは一体どういうものなのだ?どこでその知識を知り得て、どうして実際に作る事が出来る?他にも…」
「陛下、それ以上の質問は精霊様への侮辱行為と見做し、ユージェ共々この場から姿を消させていただきますよ?」
ベティ様が陛下の言葉を遮り、持っていたカトラリーのナイフを陛下に向けた。
え、そんな事していいの?!
相手陛下だよ?!
すると陛下は気分を害したわけでもなく、慌てるように頭を下げた。
「すまなかった、ベティ!そうではないのだ、少し好奇心から口が滑って…!!決して精霊様を侮辱したわけではないんだ、以後気をつける!!だから精霊界へ行かないでくれ!!」
「わかればいいのです、お気をつけ下さいませ」
ベティ様がカトラリーを下げる。
陛下はホッとしたかのようにため息をついた。
気付けば周りの人達もみんな怖い顔して固まっていたようだった。
…どういう事?
ベティ様を見ると、軽くウィンクをした後、指をパチンと鳴らした。
あれはもしかして、無詠唱もどき?
(柚月ちゃん、覚えておいてね。さっきのは突っ込まれて困る事を聞かれてしまった場合の返し方だから。この国で愛し子は、ぶっちゃけ陛下よりも上の存在なのよ。愛し子がいるから平和が保たれているとさえ思われてるわ。だから困った時は『侮辱されたんで消えます』って言えばみんな突っ込んでこなくなるの。実際にあたしは昔、陛下に突っ込まれて困ったから、姿を消した事があるの。あの時は面白かったわぁ、泣きながらあたしを探すんだもん。ちなみに姿消すと、みんな精霊界へ行ってしまったと思うみたいだから、必死よね。参考にしてちょうだい!)
…おぉう、これは『テレパシー』を無詠唱もどきで実行したのか。
なるほど、そういう事ね。
便利な逃げ方だなぁ。
参考にさせていただきます。
「それはそうと、『領域の料理』とはとても興味がありますね。是非ご相伴にあずかりたいところですな」
張り詰めた空気を変えたいのか、フェルが明るく話しかけてきた。
「そうですね、機会があれば」
「なんだったらこれから作ってもいいんだぞ?!昼食は食べてしまったが、夕食でも…!」
「陛下?ご自分の意見を優先しないでいただけます?ユージェにも都合がありますのよ?」
「す、すまん…」
あぁ、またヘタレ陛下になってきちゃった…!!
どうしよう、すごい可哀想。
でも今日はロイ兄様とフローネと約束があるし…
それに社交界デビュー前にお城の中を彷徨くのはご法度なんでしょ?
あんまり特別扱いも嫌だしな…
「申し訳ありません。本日は先約がありますし、私はまだ5歳です。城の中にいる事自体が許されざる事ですので、もし作らせていただくとしても、社交界デビューが終わってからにしたいと思います」
「そ、そうか…残念だ…」
「…ユージェリス、私には屋敷で作ってくれるかい?」
「もちろんです、父様!」
「ユージェ、私も待ってますよ」
「はい、ベティ様。今度父様に持ってってもらいますので、楽しみにしていて下さい!」
「俺は?!」
「陛下はいいのです、関係ありませんから。ルートレールは父親、私は同じ愛し子なのです。優先度が違います」
「俺は王だぞ?!それに叔父でもあるのに?!」
「関係ありません、権力を振りかざさないで下さい」
あぁ、陛下がどんどん可哀想な感じになっていく…!!
…でもちょっと、このノリは面白いかも。
陛下ってあれだ、見事な弄られキャラなんだ。
あ、父様もワザとみたいだ、ちょっと口が笑ってる。
いつも陛下に振り回されてるみたいだから、意趣返しだったのかな?
お役に立てたようで何よりです、父様!
続きはまた明日。