ジェリスの実験
ちょっと残酷なシーンがあるといいますか…
多少なので!
「えぇと…まぁ、きっかけです、きっかけ」
「きっかけか…つまり、ジェリスちゃんの仮説はエリア石を服用した上で怒らせる、って事?」
頭に手を当てながら、難しい表情で確認するアレックス様。
なんか『ちゃん』付けだけど、まぁ気にしないでおこう。
「左様でございます。マーガレット王女様やぼ…坊っちゃまの黒い瘴気も、発生時には『怒り』の感情が少なからずあったと伺っております」
「ユージェリスもか?確か夢見が悪かったとは聞いていたが…」
「…まぁ、気に食わない相手から暴言を吐かれた夢だったと言いましょうか…とにかく、『殺意』のような『怒り』の感情だったようです。対して王女様は『嫉妬』のような『怒り』に感じられたとか。先程倒した虎の魔物は鑑定結果が『憤怒』でした。何に対してかはわかりかねますが、確認してみるのも手かと」
「なるほど…ではこのねずみにはどうしたらいいっすかね?」
アレックス様が檻を突きつつねずみの様子を確認する。
ねずみが怒る事って言われると難しいな…
「死なない程度の攻撃とかでしょうか?」
「目の前で食べ物食べ続けるとか?」
「仲間を盾にする?」
「ねずみってちゃんと仲間意識あるのか?」
「子供を奪い取るとか」
「もう巣を駆除済みだからそういうのは無理だと…」
周りの団員さん達もわちゃわちゃと話し始める。
だよねぇ、ねずみって何したら怒るんだろ。
こうなったら…
「…『ナイトメア』で、今の案を全部夢で見せてみます?」
「あぁ、闇属性か…使ってるところは周りに見えないように『ブラインド』しておこう。あまり使える人はいないからな、特定されやすい」
「はい、よろしくお願いします」
父様の指示で、団員さん達が会話をやめて結界魔法を張り直す。
ついでにアレックス様が周りに『ブラインド』をかけてくれた。
さてと、確か…食べ物を横取りし続けて、仲間を盾にして、目の前で駆除すればいいのかな?
うーん、想像しにくい。
「えぇっと…《エリア》《ナイトメア》」
ねずみを指定して、先程考えた内容を思い描く。
あんまりこう、怖い感じというかイマイチ考えがまとまらなかったので、最初はアニメ感満載なイメージになってしまった。
とりあえずねずみをジッと見てみる。
【ねずみ(変化系)→混乱、困惑、腹部にエリア石あり】
…『混乱』は『ナイトメア』中だからかな。
きっと『平静』だったのが『困惑』に変わっただけだ。
『困惑』じゃないんだよなぁ…
「うーん…」
「どうした?」
「…悪夢の想像がしづらくて。ねずみを虐めた事はないもので…」
「…まぁ、そりゃそうっすね。さっきの駆除現場でも見てからやってもらうべきだったか」
「あまりそういう場面に遭遇しない立場だからな、ゆ…ジェリスは」
そうなんだよねぇ、意外と血生臭い現場には出くわした事がないんだよ。
この前のスタンピードくらいかな?乱闘したのだって。
一応貴族子息だし。
前世の記憶、はないけど、知識で何かないかな。
なんか惨殺系…ホラーとか…?
あ。
「《エリア》《ナイトメア》」
スプラッタホラーといえば、細菌災害系ゲームでしょ!
という事で、通常ねずみがねずみゾンビに追いかけ回されて、段々仲間がゾンビと化していく映像をご用意!!
するとどうでしょう!!
【ねずみ(変化系)→混乱、恐慌、腹部にエリア石あり】
…あ、怖がらせちゃった…
そうじゃん、怒らせなきゃいけないのに、スプラッタホラーとか怖くなるだけだ!!
うわぁ、方向性間違えた…
よく考えてやれよ、僕…
しょうがない、ダメ元でこのまま続けよう。
「ジェリスちゃん、なんかねずみの様子おかしくない?」
「現在恐怖で支配されてます」
「…何見せたんだ」
「禁則事項です」
「どういう事?!」
「とにかく、追い討ちをかけて怒りにシフトチェンジさせてみます」
「お、おぅ…?」
「すみませんが、予備のねずみを1匹いただけますか?」
「は、はい!どうぞ!」
背の高いお兄さんが、焦ったように僕に麻の袋を渡す。
受け取った僕は中に手を入れて、ねずみを取り出した。
そして恐慌状態のねずみの目の前に差し出して、太腿に隠していた小型のナイフを間に差し込む。
恐慌状態のねずみは錯乱しているようで、必死に僕の持っているねずみに向かって鳴き声を上げていた。
…ごめんね。
「両者とも、恨むなら、私を恨んで下さいませね」
ナイフを勢いよく横に引く。
恐慌状態のねずみに、赤い液体が少し飛び散ってかかる。
その瞬間、微かに震えていたねずみがピタッと止まった。
「…貴方が弱いから、この子は死ぬのです。貴方が強ければ、私を倒す事も出来たでしょうに」
言葉が通じるのかわからないが、話を続ける。
その間にも、僕の手を伝うように血が流れ出ていた。
「大切な仲間や家族は全員死に、最早貴方は1匹きり。それもこれも、貴方が弱いねずみだからですわね」
…気のせいだろうか、ねずみの雰囲気が変わったようだった。
僕は改めてねずみを凝視する。
【ねずみ(変化中)→混乱、憤怒、胸部にエリア石あり】
『憤怒』になった!!
しかも形態状態が変わってる。
…あれ?石の場所も移動してる?
なんでだろ。
さてさてさーて、このまま変化し切れるのかな?