引き金
6名の師団員が結界を張り、アレックス様が張った小さな結界の檻に父様はねずみを放つ。
ちなみに僕は父様の横で周りを警戒中。
とりあえず今は近くに魔物はいなそう。
「では、始める」
父様は懐からザラメくらいの小さな小さなエリア石のカケラとパンのカケラを取り出した。
そしてパンの中にエリア石を詰めて、ねずみに与える。
暫くすると、ねずみはなんの疑いもなくパンを丸呑みした。
待つ事、5分。
「…なんも変わんないっすね」
「…変わらんな」
そう、まさかの変わらなかった。
普通に元気そうに檻の中をチョロチョロしてるねずみ。
「師長、アレックス様、只今戻りました…って、どうかしました?」
暴れる麻袋を持った背の高いお兄さんが戻ってきた。
ねずみの巣の駆除、終わったのかな?
「特に何も変わらなくてな…」
「坊ちゃんの仮説、外れてたんすかねぇ…」
チラリ、と横目で僕を見るアレックス様。
いやぁ、そんな事言われてもなぁ…
あくまで仮説だったわけだし。
それとも何か、条件が足りないんだろうか。
僕は檻に近付き、ねずみを凝視した。
【ねずみ(変化系)→健康、平静、腹部にエリア石あり】
…ん?『変化系』…?
僕は首を傾げてから、麻袋に入ってる方のねずみ達を凝視した。
【ねずみ→健康、興奮】
…ねずみ。
「…ねずみ」
「どうした?ジェリス」
「…ねずみです」
「そりゃねずみっすけど…」
「ただのねずみです」
「普通のねずみですが…」
「ジェリス?」
『変化系』って、何?
念の6系統?なわけないか。
魔物が生きてる時に1度でも鑑定しておけば良かった!
差がわかんないけど、なんか比べればわかりそうなのに!!
「申し訳ありません、旦那様。少し失礼します。《ワープ》」
「え?」
父様に一言断って僕はその場から転移し、森の奥へとやってきた。
そこにいたのは…
〈DugAaAalllruaaAaaaa!!!!!〉
魔物、それも虎の。
【虎の魔物(自然級)→憤怒、額に魔石あり】
…憤怒、平静、興奮。
あぁ、もしかしたら…
僕は虎の魔物の額を割って瞬殺し、魔石を取り出す。
さっさと『サンクチュアリィ』で封じて、父様達の所へ戻った。
「ゆ…ジェリス!どこへ行ってたんだ!」
「申し訳ありません。こちらを確認し、仕留めて参りました」
父様へ魔石を差し出すと、少し驚いた表情をしてから受け取ってくれた。
「なんだ、近くにいたのか?」
「いえ、少し離れていましたし、こちらに気付いてもいないようでした。ですが確認したい事がありましたので」
「確認したい事?」
「…鑑定をしたのです、検証中のねずみと、そちらのねずみを。すると、鑑定結果に差異がありました。その差異と魔物を比べたかったのです」
「え、鑑定スキルあるんすか?」
「少々特殊ですが、ございます。そこから導き出された仮定を、お伝えしてもよろしいでしょうか?」
「あ、あぁ、頼む」
検証中のねずみは、食事をしたからか『平静』だった。
予備のねずみは捕まったばかりで、『興奮』していた。
虎の魔物はまだ攻撃もしてなかったのに、『憤怒』していた。
つまり、そこから導き出されたことは…
「トリガーは…『怒り』かもしれません」
父様達が目を見開く。
それもそうだ、そんな事が引き金になるなんて思いもしないだろう。
2人は神妙な面持ちで見合い、それから僕を見つめた。
「「…トリガーって、なんだ?」」
…って、そっちかーい!!!!