恋の嵐
あの頃は身長も幻影魔法で盛ってたけど、今の身長ならそのままで問題ない。
ただ髪色と長さを変えて、服装を侯爵家のメイド服に。
触ったらホログラムみたいに通り過ぎちゃうけど、まぁ今はそれでいいでしょ。
化粧もしてるようにしておこうかな。
アイラインにシャドウ、まつ毛もクルン。
チークは薄っすら、口にはグロス。
さぁ、どうだ?!
「「「「…」」」」
…え、なんで4人とも黙ってんの?
ベティ様はめっちゃ笑い堪えてるし。
「ちょっ、めっかわー!!!何それ詐欺レベルじゃん!!!ウケるぅー!!!」
「べ、ベティ?ど、どうしたんだ?」
ベティ様、口調が前世に戻ってます。
落ち着いて。
そして室内にいた他の師団の方々は僕の変わり様に驚きを隠せないようで、何人かが手に持っていた物を落として足の甲に直撃し、悶えていた。
「ベアトリス王妃様、落ち着いて下さいませ。陛下が大変驚かれております。私に何か至らぬ点などありましたでしょうか?」
声を意識して高めに、軽く頭を下げながらベティ様に話しかける。
ベティ様は引き笑いになりながらも、息を整えてから咳払いをした。
「んっん…いえ、なんでもないわ、んふっ」
「ベティ…いや、それにしてもユージェリス、見た目は完璧な女性だな」
「恐れ入ります」
「ユージェ…綺麗じゃのう…」
「一応、ユージェリスがこの格好の時は『ジェリス』と名乗っておりましたので、調査期間中はそちらで呼ぶようにしましょう」
「アイゼンファルド侯爵家特殊メイド、という立場にでもしておくか?普段侯爵家にいるメイドとは別で、ルートから特殊任務を命じられてるって感じのやつで。出入りするには許可証でも発行しないとだな。勝手に入ってくるなよ?ユージェリス…じゃなくて、ジェリス」
「承知致しました。基本的には旦那様と一緒に登城させていただきたいと思っております」
「だ、旦那様っ…!!」
あ、またベティ様の笑いが再発しちゃった。
「それにしても…見事に女性のようですな。全く違和感がない」
「恐れ入ります、オルテス宰相様」
「…違和感はないが、不思議な感覚だな」
「ジェリス、可愛いのぅ。次にお忍びする機会があれば、その格好で一緒に歩きたいものじゃな」
「確かに可愛い、というより美人だな。昔のマリエールに似ている」
みんなが執拗に褒めてくれるから、段々と複雑な気持ちになってきた。
うーん、別に前世が女だったから、気にならないと思ったけど…
やっぱり僕って、男なんだなぁ。
「こちらでしたか、師長…あ、失礼しました!」
心の中で少しぼーっとしていると、魔法師団室に急ぎめで入室してきた男性2人のうち、1人が父様に近寄りながら声をかけてきた。
あれ?この人達、ロイド様の部下のランフェス様とマタール様だ。
さっき学院で僕を見て少し怯えてた人達。
ランフェス様は最初は父様しか目に入ってなかったみたいだな、陛下達を見つけてすぐさま頭を90度に下げた。
「気にするな、ルートに用があるのだろう?」
「は、温情感謝致します。師長、先程の調査結果の続報になるのですが…あ…」
ふと、父様の隣に立っていた僕と目が合った。
すると見る見るうちに顔が真っ赤になり、口を金魚のようにパクパクと動かし始めた。
え、何?どうしたの?
「…う、美しい…」
「「「「「は?」」」」」
「なんて綺麗な人なんだ…」
「あ、ありがとうございます…」
…複雑。
「わ、私は第3師団所属、ランフェスと申します。お嬢さん、お名前は?」
「…アイゼンファルド侯爵家メイドのジェリスと申します」
「ジェリスさん!お名前まで美しい!師長のお屋敷に貴女のような美人がいらっしゃったなんて!!」
「…あの、ランフェス様、旦那様へご報告があるのでは?」
「…あっ!!」
僕のセリフで、真っ赤だった顔を真っ青にして横目で父様を見るランフェス様。
そんな父様の表情は…背後にブリザードを吹雪かせた、笑顔だった。