ベティ様は秀才だった
暫くすると、ベティ様とメグ様が魔法師団室に姿を見せた。
メグ様は制服のままだった。
というか、そろそろここ手狭じゃない?
座席に限りがあったので、お2人を座らせるために僕と父様が同時に立ち上がった。
流石父様、考える事は同じでした。
「王妃様、こちらへどうぞ」
「メグ様もこちらへ」
「あら、ルートレールありがとう。流石気が利くわね。誰かさんとは大違い」
「ユージェ、すまぬな」
ベティ様、それは言外に陛下の事を言ってます?
今更気が付いたのか、陛下はオロオロしてる。
ちなみに宰相さんは気にしていない模様。
多分僕達が立つ事を予想してたな?
なんとなくだけど、『2人が立つならいっか』という感じで立たなかったようだ。
意外と細かい事を気にしない人だな、流石ルーファスの父親。
「それで?特に要件は書いてなかったけど、何かあったのかしら?」
「はい、ベティ様」
僕は小首を傾げるベティ様に例のメモ帳を渡した。
受け取ったベティ様は中を開き、目が点になった。
「…何これ、色んな言語が入り乱れてるわね」
「読めます?」
「英語は読めるけど、ロシア語とかはちょっとね…フランス語は専攻してたから、雰囲気だけわかるけど…」
「へぇ、フランス語専攻してたんですか!凄いですねぇ」
「ユージェは?」
「僕、根っからの理系なんで」
「あらあら、じゃあこの英語も読めなかった感じかしら?」
「えへへ、お恥ずかしながら…」
おバカさん、とでも言うように、ベティ様が僕の額を軽く小突く。
そうだよねぇ、ベティ様って看護師さんだったから頭いいんだよねぇ。
「えっと…ベティ、読めるって事でいいのか?」
「一部ですけどね。これは一体なんですの?」
陛下はベティ様にさっきまでの話を説明したので、『メモリー』で僕が見せる事にした。
少ししてから、ベティ様は頷いてメモ帳を改めて持ち直した。
「成る程ねぇ、そんなものが…わかりました、これについては私が解読しましょう。ユージェやマーガレットに関係するみたいですからね」
「よろしく頼む、ベティ」
「ユージェ、結局原因はわかったのか?」
「それをこれから調査するのですよ。大体の仮説は立てましたけどね」
「妾は明日から学院に戻っても平気か?」
「多分平気かと。あぁ、ですがエリア石はここに置いていって下さいませんか?ちょっと確認したい事があるので」
「エリア石?これか?」
メグ様が首からシンプルなペンダントを取り出して僕に渡してくれた。
どうやら普段は制服の中にしまっているらしい。
「はい、ありがとうございます。代わりにこちらをお待ち下さい」
僕は背後で指を鳴らし、アイテムボックスから腕輪を取り出した。
シルバーの細い腕輪は、特に過剰な装飾などしていないものだ。
「これは?」
「私が趣味で作りました。防御系の魔法は大体付与してありますし、メグ様に何かあれば私に連絡が来るようになってます。エリア石がないので『レター』には時間がかかるようになりますが、暫く我慢していただけると幸いです」
「ユージェの手作りか!構わん、こっちの方が嬉しいからな!」
メグ様が嬉々として腕輪を受け取り、左腕に嵌めた。
これでそう簡単には取れない。
僕が所有者が許可しないと外れないようにしてあるからね。
「なぁユージェリス、お前は付与魔法が使えるのか?」
「使えないものの方が少ないかもしれないです」
「『エリア』を付与する事って出来ないものなのか?エリア石の代わりになるように。俺は付与魔法を使えないから勝手がわからんのだ」
「陛下、『エリア』は無属性の中でも特殊な魔法の扱いなのです。すぐ側を指定するのか、国全体を指定するのか、術者次第です。範囲が大まかにも決まってないものは、付与しても1回持つかどうか程度なのですよ。私も付与魔法は使えますが、『エリア』は無理かと存じます」
陛下の問いに、父様が答えてくれる。
多分陛下はエリア石が使えなくなった場合の事を考えてるんだろうなぁ。
「そしてエリア石自体も耐久性が高いとは言い難いですからな。数年前の破損然り、『エリア』とは使い勝手が良くとも付与には向かないものなのです。ちなみに陛下が演説する際にエリア石を使わないのは破損を恐れてなのですよ。破損する前兆のヒビ割れで気付けず使い続ければ、破裂するそうなので」
「そうなのか?!」
「ですから定期的にお伺いしてるじゃないですか、『エリア石は問題ありませんか?』と」
「…理由までは知らなかった…」
おいおい陛下、大丈夫ですか。
にしても、エリア石って破裂するんだ、怖いな。
あ、メグ様も顔色が悪い。
怖くなっちゃったのかな?
とりあえずメグ様から受け取ったエリア石を宰相さんに渡す。
受け取った宰相さんはヒビ割れを確認してから胸ポケットにしまった。
ちょっと嫌そうな顔をしていたのは気のせいですかね?宰相さん。