踊らされる陛下
本日2つ目!
「さてさて、スッキリしたところで、質問はある?」
王妃様が頰に流れてた私の涙をハンカチで拭きながら、笑顔で聞いてくる。
質問…質問かぁ…
「えっと、王妃様は…」
「あぁ、2人きりの時は"愛梨"って呼んで?人前では"ベアトリス様"か"ベティ様"でいいわよ」
「えっと、じゃあ愛梨…さん。さっきスキルがカンストって言ってたけど、スキルのカンストって何レベルなの?」
「999がカンスト値ね。ちなみにあたしも持ってるスキルは全部カンスト。でも普段は手加減スキルでそこそこまで落として使ってるわ」
「手加減スキルは持ってないな…欲しいな…って、999?!」
「え、何、なんかあったの?」
「…私、レベル∞になってるんだけど…」
「えぇー…何それ、どれだけチートなのよぅ…早く手加減スキル手に入れた方が良さそうね。なんか適当な魔物に向かって攻撃魔法をぶつけるんだけど、殺さないようにすれば手に入ると思うわ」
「…え?魔物?」
何それ、魔物なんているの?!
聞いてないんだけど?!
…いや、待てよ。
確か属性の説明で闇属性のところにそんな事書いてあったような…
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【魔物とは】
魔力を取り込んでしまい、凶暴化してしまった動物や人間の死体の事を言う。
魔獣と呼ばれる事もある。
魔物は通常の大きさより数倍大きく、魔法を扱えるようになる。
基本的には狩人が対処するが、難しい場合は騎士団が出動する事になる。
〜参考文献〜
著・ハイドロ=キングラー、"何故魔物は発生するのか"、P2
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いるのかよー…
え、これも王命案件かな?
いや、でも戦争でもなければ災害でもない。
それに狩人か騎士団が出るみたいだし、出会わない限りは専門外かな。
「まぁ魔物は森にでも行けばいるだろうし、早めにスキルを手に入れときなさいな。暗記スキルはある?」
「あ、うん、持ってて、とりあえず屋敷にあった図書室の本は読み込んだ」
「なら後でこの城の図書室にも行って読み込んどきなさい。知識はいくつあっても無駄にはならないわ」
「わかった」
「後は?何かある?」
「…あ、愛梨さんと陛下の馴れ初め聞きたい」
私の一言に、愛梨さんの眉間に皺が寄った。
え、そんなに嫌なの?!
「…面白いもんでもないんだけど」
「さらっと聞いたんだけど、陛下がゾッコンだったんでしょ?」
「…この世界に来て、状況を確認してから、まず行ったのは王妃辞退だったの。なんで王妃になんてならなきゃいけないのよ。その時に初めて陛下に会ってね。まぁなんというか…クソ生意気なガキンチョでさ。ついイラッとして、色んな文句とか言ってやったの。そしたら何故か好かれちゃって…でも、よく考えて?相手、15歳。あたし、中身30歳。犯罪じゃない!確かにイケメンだったけど、ときめけないわぁ…」
あぁ、なんか気持ちはわかる…
そうだよね、年下だと愛でる対象なだけだよね…
「…でもまぁ、それでも5年アタックされれば、絆されてもくるわよねぇ…」
「5年?!」
「5年経てば20歳…カッコよかったわ、悔しいけどね」
少し頰を赤くして、悪態をつく愛梨さん。
うーん、一体どんなアプローチしたんだろう、陛下って。
根掘り葉掘り聞きたい気もするけど、教えてくれないだろうなぁ、これは。
ただちょっとニヤニヤする。
「…ちょっと、笑わないでよ。もうこの話は終わりよ!それで?!他に聞きたい事は?!」
「ええっと…あ、今あるスキルって何基準であるものなの?」
「あぁ、基本的には前世の経験から決まるみたいね。後は体の持ち主の持ってたものが強化されるみたい」
「あぁ、だからか。剣術スキルとか、なんで持ってるのかと思った」
「あたしは料理スキルが欲しかったわねぇ…前世で料理がからっきしで、この世界に来てからは高位令嬢のせいで料理とかさせてもらえなくて…未だに持ってないのよ」
「私持ってるよ、レベル∞で」
「うっそ、マジで?!ちょ、今度作ってよ!!この世界の料理って、不味くはないんだけど、なんか物足りなくてさぁ!!美味しい日本の味が食べたぁい!!」
「わ、わかった、今度ね」
あぁ、15年も耐えてきたんだね…不憫。
そして料理出来ないなら、指摘する事も出来なかったんだろう。
何が悪いかがわかんないんだから。
「…あぁ、そろそろ解除しなきゃまずいかしら。陛下が拗ねてるし、ルートレールが心配そうにこっちを見てるわ」
愛梨さんの言葉に、2人の方を見る。
…本当だ、陛下が僕を恨めしそうに見てる。
父様は…おぉ、ちょっとオロオロしてる。
「あ、最後に。愛梨さん、無詠唱って出来る?」
「出来るわよ?やらないけど」
「え?!」
出来るの?!
「というより、言葉との差し替えと言えばいいのかしら。この世界の魔法は言葉で使うと思われてるけど、実際には意味のある『音』が重要なのよ。だからハ○レンのお手手パーンでも指パッチンでも、意味を込めれば同じように出来るわ」
「…リアルハ○レンが可能なのか…それはすげぇ…でもなんでやらないの?」
「態々他の人間に教える必要もないのよ。この世界は言葉で表す分、ぶっちゃけどんな魔法を使うか丸わかりなのよ。対処もしやすいわ。そこに無詠唱もどきなんて広めてみなさい、悪い事に使う人が急増よ?戦争でも起こったら、長引く事間違いなしね」
なるほど、一理ある。
何を使ってるかわかるからこそ、対処も出来る。
なら使わない方がいいのかなぁ…
無詠唱、憧れるのに。
「でもまぁ、愛し子しか使えないとか言えばいいのかもしれないけどね。見ただけじゃやり方や原理なんてわかんないんだろうし。あたしが普段魔法使わないから、広めてないとも言える」
「え、使わないの?王命のやつとかは?」
「王妃様なんて、周りがみんなやってくれるからね。王命2つに関しては、この国で戦争はここ何十年か起きてないもの。災害は小規模なら起きてるけど、あたしは王妃でもあるからすぐには行けないの。数年前まではもう1人の愛し子が行ってたけど…これからは柚月ちゃんがその役目を負う事になるかもね」
「じゃあ、別に無詠唱もどきを実践してもいいの?」
「いいわよ、寧ろそれで他の人がどんな反応するか気になるわね。使ったら教えてね!」
よし、なら帰ったら練習してみよう!
楽しみだなぁ!
「まぁこんな感じね」
パチン、と軽い音が愛梨さんの指から聞こえた。
その音と同時に、周りの透明な膜がまるでシャボン玉のように消える。
おぉ、こっちの方がカッコいいじゃん!
絶対極めてやる。
「ベティ!!」「ユージェリス!!」
膜がなくなると、陛下と父様が側に駆け寄ってきた。
陛下は愛梨さん…ベティ様を抱きしめて、父様は僕の肩に手を置いた。
「ベティ!なんで俺を除け者にするんだよぉ!」
「あらあら、愛し子同士で話さなきゃならない事があったのよ。秘密の会話だもの」
「だからって男と2人きりなんて!」
「5歳児と何しろってのよ。私ってばそんなに信用がないのね、ならば今からでも王妃を辞めたっていいのよ?」
「嫌だ!ベティが王妃辞めるなら俺だって王様辞める!!」
「馬鹿な事言わないで。そういう無責任な男は嫌いよ。貴方はいつからそんな馬鹿な男になってしまったのかしら、残念だわ」
「うぐぅ…!!ベティが虐める…俺の事嫌い…?」
「そういうヘタレは嫌いよ。真っ当な政治をするカッコいい王様は好きよ」
「俺、仕事頑張る!!」
うわぁ、陛下、ベティ様の掌で踊らされてる…
やっぱベティ様が年上な分、主導権握ってるんだなぁ…
…悪い言い方をするのであれば、陛下がマザコンとか夜の蝶に翻弄される男に見えて、至極残念だ。
「ユージェリス、大丈夫か?何か辛い事でもあったのか?その、あんなに泣いて…」
「大丈夫だよ、父様。心配してくれてありがとう」
「心配するのは当たり前だ。私はお前の父親なんだからな」
…ごめんね、父様。
本当のユージェリスはもういないんだ。
でも、これからは僕がいるから。
「父様」
「ん?なんだ?」
「…なんでもない。お腹空いたね!」
「あぁ、そうだな。そろそろ昼食を持ってきてもらおうか。《エリア》《コール:料理長フェルナンド》」
父様が魔法で誰かを呼ぶ。
「父様、誰を呼んだの?」
「この部屋の下にある厨房にいる、城の料理長だよ。少ししたら食事が運ばれてくる。さすがに私では遠くの人は呼べないからな、この部屋がちょうど良かったんだ」
なるほど、『エリア』の範囲外だとすぐに呼べないから、近場にしたんだね。
しばらくすると、部屋の扉がノックされた。
「失礼します。料理長フェルナンド=ターナー、他2名、入室します」
「許可する」
入ってきたのは、セイルみたいにガタイのいい、髭を生やしたお爺さんだった。
眼鏡かけたら厳ついカー○ルサンダースみたいだ。
…料理長って貫禄あるんだなぁ。
その後ろから、メイドさんがついてくる。
「陛下、お食事をお持ち致しました」
「ご苦労」
うわぁ、さっきまでのヘタレマザコン野郎はどこいったんだよ。
別人じゃねぇか。
「…こちらが、新たな愛し子様で?」
「あぁ、我が甥にあたる。ユージェリス、挨拶を」
「アイゼンファルド侯爵子息、ユージェリス=アイゼンファルドと申します。今後ともよろしくお願い致します」
「これはご丁寧に。リリエンハイド王城にて料理長を勤めております、フェルナンド=ターナーと申します。愛し子様にお会い出来て、とても光栄です。どうぞ、フェルとお呼び下さい」
席を立ち、頭を下げると、フェルは優しい目をして微笑みながら頭を下げてくれた。
おぉ、優しいお爺ちゃんだ!
「フェルナンド、ユージェリスの事は明日発表する。それまでは他言無用だ。後ろの2人もよいな?」
「「「はい、承知致しました」」」
明日発表かぁ、随分早いよなぁ…
うーん、どうなるんだろ。
でもそれより何より、王城の料理が気になります。
何が出てくるのかなーっと!
3つ目は夕方以降かなー?