エドワーズとユージェリス
「…《エリア》《サイレント》」
みんながゼリーに群がってる間に、僕と王子様の周りに防音魔法を施す。
幸い、今の発言を聞いていた人は他にはいないようだ。
範囲外のルーファス達や取り巻き達が驚いた顔をしてこちらを見ている。
「…発言にはお気をつけ下さい、王子様。どこで誰が聞いてるかもわからないのです。貴方様が愛し子をどう思おうとも、現在のこの国でその発言は、自身の首を絞める行為だとご自覚下さい。王太子になりたくないわけではないのでしょう?まぁなりたくないのでしたら、今から私と一戦交えますか?その脅威だという圧倒的な力で瞬殺して差し上げますよ」
「…っ!!」
王子様の顔色が悪くなる。
やっぱり王族でしっかりしているとはいえ、まだまだ子供だね。
自分の気持ちは簡単に口にしてはいけないんだよ、君達のような権力者は、さ。
「今の話を聞いていると、ただただ王子様は愛し子が嫌いなのだな、と思いました。貴方様の母であるベティ様だって愛し子であるにも関わらず。そんなにベティ様がお嫌いですか?」
「っそんなわけあるか!!」
間髪入れずに王子様が否定する。
あー、良かった、ベティ様が嫌いとか言ったら、本当にへし折ってやろうかと思った。
…どこを、とは言わないけど。
「…私は、母が嫌いなのではない。母の肩書きの『愛し子』が嫌いなんだ」
「肩書き…?」
「…貴公だって、『愛し子』ではなく『ユージェリス=アイゼンファルド』であろう?母だって、『愛し子』ではない。『王妃』なのは、母が決めた事だからいいのだが…」
…その言葉に、王子様の言いたい事がストンと心に響いた。
あぁ、なるほど、この人は…気付いていたんだ。
愛し子が、ベティ様が、『愛し子』でいる事に納得していないと、気付いているんだ。
僕らは望んで『愛し子』になったわけじゃない事を。
「…ふふふ」
「…何がおかしい」
「さすが、ベティ様のお子だと。そこに気付かれるとは、将来が楽しみですね。先程の言葉は訂正させていただく事になるかもしれません」
中々面白い逸材だ、個人的に仲良くしてもいいかもしれないな。
「陛下ですら気付かれていない事を気付ける王子様…ははは…エドワーズ様、今までベティ様以外の誰にも言った事のない事ですが、気付いたご褒美として貴方様にだけお話しましょう。そう、私達は愛し子になりたかったわけじゃない。どちらかと言うと、愛し子にした精霊とやらを恨んでいる節がある」
「!!」
「気付いた時には愛し子で、不思議な力を手に入れていて、記憶もないのにそれを受け入れなければならない。どうして喜ぶ事が出来ましょう?」
「それは…」
「先程、この力は脅威だとおっしゃいましたね。そう、脅威ですよ、こんな力。ちょっとの力で天災級なんて瞬殺です。そうやって物事を疑う心は持っていた方がよろしいかと思います。なんでも鵜呑みなのは王としていただけません。ですが、なんでも否定する人間に人は付き従いません。相手の気持ちを考え、理解し、上手く立ち回る事です。お得意なのでしょう?そういう事が」
「…母から聞いたのか?」
「えぇ、私の事も利用する可能性があるから気をつけろ、と。ですが、まぁ、杞憂のようですね。エドワーズ様はただ、私が気に食わなかっただけのようだ。いや、『愛し子』という存在が、ですね」
「…その通りだ。別に貴公の事を悪く思ってるわけではない。寧ろ極力、愛し子の力など使いたくはなかったんだ。だから、貴公がどんな人間か見てみたかった」
「利用するために?」
「…否定はしない」
まぁ、自分が王になった時の駒の整理でもしてるんだろうな。
あれは使える、使えない、という…
まぁ、王になる者ならその考えもしょうがない、か。
「私は使える駒ですか?」
「…貴公は、私にとってのスペードの3だよ」
「は?」
「母から昔、精霊の遊びといって様々なゲームを教えてもらった。その中で大富豪というものがあったんだ。その中で、貴公はスペードの3だと思ったんだよ」
「…普段は必要のない手札でも、KやQなんて目ではなく、最強と言われる切り札ジョーカーにも唯一勝てる存在、ですか…」
「おぉ、やはり知っていたのか」
「あまりやった事のない縛りですけどね。そして私は『大貧民』派でしたし」
「ん?どういう事だ?」
「お気になさらず、ただの独り言ですよ」
まぁつまり、エドワーズ様の中で僕は、普段は必要のないけど、特殊な条件下で力を発揮させる駒って事ね。
まぁ愛し子って寧ろそれが普通なんだよな。
「エドワーズ様、私と契約致しませんか?」
「契約?」
「私と『友人関係』になりましょう。次期国王となる貴方様にとって、絶対の後ろ盾になって差し上げます。使えない貴族を動かす餌として使ってもいいです。但し、実際には動きませんけどね」
「…貴公にとって、メリットはあるのか?」
「私は貴方様に一個人として扱ってもらえればそれでいいです。ここにいるルーファス達は、僕を一個人として見てくれています。『愛し子』ではなく『ユージェリス=アイゼンファルド』として。なのでエドワーズ様が国王になられた際には、私を一臣下として扱って下さい。例の王命以外に、『愛し子だから』という理由でなければ、私に任せたい仕事を申し付けて下さって構わない」
「…成る程、貴公は『普通の人』として生活したいのだな」
「えぇ、流石はエドワーズ様、その通りです」
エドワーズ様は少し考えたように目を閉じ、そして微笑みながら僕と目を合わせる。
その微笑みは、やっぱりどこかベティ様に似ていた。
キリッとしてるところは陛下の仕事モードの時に似てるけど。
「…それなら、貴公が宰相か師長として私の側にいてくれたら良さそうだな」
「ルーファスと兄で十分ですよ。なんならレオだって貴方様の影として動いてくれる。こんな優秀な人材、滅多に揃いませんよ?」
「それもそうか。そして貴公が友として私の側にいてくれる…最高で最強の布陣だな」
そしてエドワーズ様が、僕に向かって今度は右手を差し出す。
「…良かろう、ユージェリス。私の友となり、一臣下として私に仕えよ」
「御意」
僕はエドワーズ様と握手をする。
ルーファス達は驚愕の表情でこちらを見ていた。
僕は指を鳴らし、防音魔法を解く。
「「「ユージェ?!」」」「ユージェ君?!」
「どうかした?みんな」
「いや、お前…」
アワアワする4人と、オロオロする取り巻き達。
そんな様子を見て、エドワーズ様は僕から手を離して出口の方へと体を向ける。
「…ユージェリス、今度は母のところだけでなく、私の所にも遊びに来い。茶くらい入れてやる」
「それは楽しみですね。是非お伺い致します、エドワーズ様」
エドワーズ様が僕の返事を聞いて、ヒラヒラと手を振りながら立ち去っていく。
取り巻き達は慌てるように追いかけていった。
エドワーズ様達が食堂から立ち去り、僕は突然両肩と両腕を掴まれた。
恐る恐る振り返ると…4人が中々いい笑顔で、ギリギリと力一杯掴んでいた、うへぇ。
「「「「…で?」」」」
「…別に、友達になっただけだよ。中々面白い逸材だからね」
「…ユージェ、気をつけろ。エドワーズ様は、臣下を駒として考えるタイプの人間だ」
「そうでもなかったよ。というか、僕は最初から駒ではなかったみたいだ」
「どういう事?」
「そこは僕達の秘密だけど…まぁ、ベティ様の次に、僕を理解していた人って感じかな?」
「わ、私達もユージェ君を理解…してる、つもりはあるんですけど…」
「勿論、みんなほど僕を想ってくれてる人なんて家族くらいか、なんなら同等なんだから。でもそうじゃなくて…正しく『愛し子』を理解していたんだよね、エドワーズ様って」
「『愛し子』を理解?」
「みんなは僕を『愛し子』として扱ってないでしょ?それが嬉しいんだけど、エドワーズ様は逆で『愛し子』という根本を理解してくれていた。そこはずっとベティ様を側で見ていたからだろうね。だからこそ僕は、信用出来たんだよ」
「…ユージェがそういうなら、いいんだが…」
「ルーファスもあの方を毛嫌いしないで大丈夫だよ。中々いい性格してそうだ。一体誰に似たんだろうねぇ?」
「親父殿は、まともな時の先代陛下と亡くなったバールドール公爵を足して割ってベティ様成分を纏わせた感じって言ってたよぉ」
「何それ、よくわかんないやつじゃん」
「少なくとも、今の陛下成分はほぼないのですね…」
「それっていいの、かな?」
先代陛下はいいけど、バールドール公爵は知らないからなぁ…
今度学院長に聞いてみようかな?