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王妃様のヒ・ミ・ツ

シリアス?回です。

「ささがわ…あいり…」


王妃様の発言に、僕の思考が停止した。

無邪気に、どことなくいたずらっぽく笑う王妃様は、僕の頭を撫でた。


「先にあたしから話そうか。前世は享年30歳の看護師で、悲しいかな独身だったわ。まーったくモテなくてねぇ、仕事に明け暮れてたの。ある日夜勤が終わって帰る途中に、車に轢かれそうになった女の子を庇ってバーン!!そして愛梨は帰らぬ人になりました」


よよよ、と泣くフリをしながら身の上話をする王妃様。

そんな話を聞いてると、段々と思考が回復してきた。

女の子を庇ってバーン…?

それって、『私』と同じじゃないの…?


「きっと貴方も同じでしょう?さて、今度は貴方の事を教えてちょうだい?」

「…"相楽柚月"…です…27歳で、OLしてて…仕事中の外出で女の子を庇って…」

「あー、やっぱり女の子庇ってのかぁ!やめてほしいよねぇ、道路に飛び出すの」

「うん…いや、そうじゃなくて、えっと…」

「…いいのよ、柚月ちゃん。ゆっくりでいいの。ちゃんと説明してあげるから、ほら、深呼吸してみて?」


…あぁ、本当だ、息が止まってたみたい。

深呼吸をすると、一気に気持ちが落ち着いてきた。

王妃様がまた頭を撫でてくれる。


「実はね、あの女の子ってこの世界の精霊なの。この世界には最低でも2人の愛し子が存在するんだけど、残り1人になると精霊が新しい子を探しに行くの。自分を助けてくれるような、心優しい子をね。魂をこの世界に連れて来るのは、地球に余ってる魔力を持ってくるため。その入れ物として使われるのよ。だから愛し子はスキルのレベルとかがカンストしてたりするの。それでその魂を定着させるために、この世界で偶然にもタイミングよく死んでしまった子を選んで、その子の体に連れてきた子の魂を入れていくのよ。それが、愛し子の真実」

「…じゃあ、"ユージェリス"は…」

「…もう、この世のどこにもいないわ。元々、この子の寿命だったのよ。もちろん、柚月ちゃんが来る事になったから死んじゃったとかそういう事じゃないからね?それで自分を責めないように。あたしだって…"ベアトリス"は、病気だったの。心臓に問題があったみたいね。残された日記に書いてあったわ。『最近ずっと胸が苦しい。聖魔法を持っている人に見てもらおうかしら。もうすぐ王妃になるのに、どうしよう』って…ある日、突然倒れたらしいわ。そして気付いた時には、"あたし"だった」


…"ユージェリス"君は、確か階段から落ちて頭を打っていた。

きっと、それで死んでしまったんだ。

こんな事、フローネには言えない、言えるわけない。

知られれば、フローネが壊れかねない。

止まりかけた思考でも、それだけはわかった。


「それでね、もちろん偶然なわけだから、この世界の体の性別が同じとは限らないの。あたしは女の子だったけど…柚月ちゃんは男の子だったのね」

「…そう、目が覚めたら男の子で…どうしてこうなったのかわからなくて…でも誰に伝えていいか、相談していいかわからなくて…」

「…実はね、あたしに色々教えてくれたのは、数年前に亡くなった愛し子の人だったの。その人もね、女性から男の子になった人だったわ」

「え…?」

「その人もとても悩んだって言ってた。無理に男っぽい発言したり、行動したり…でも、しっくりこなかったみたい。それで心を病んでしまって…そんな時に出会ったのが、他の愛し子だった。その人は逆に、男性から女の子になった人だったそうよ。悩みを聞いて、話して…それでやっと、気持ちの区切りがついたみたい。それからは自分のやりたいようにやって、男とか女とか、気にせず過ごすようになったんだって。そして大切な伴侶を見つけて、最後まで幸せに暮らしていたわ」

「…その人の、伴侶って…性別は…」

「それは秘密よ、調べればわかるかもしれないけど。でも知ってしまえば、柚月ちゃんが辛くなるわ。選択肢を自ら消す必要はないの。いい?柚月ちゃん。貴方はもう"ユージェリス=アイゼンファルド"なの。でも、"相楽柚月"を忘れる必要はない。好きに生きていいの。好きに生きて、好きに過ごして、そして見つければいい。貴方は貴女なのよ」


…好きに、生きる。


「…ドキドキ、しなかったの」

「うん」

「…女の子と接しても、カッコいい人を見ても」

「うん」

「自分の性が、わからなくて…」

「うん」

「突然死んで、転生して…しかも5歳の男の子で…」

「うん」

「…叫びたかった、泣き喚きたかった。でも、変に理性が働いちゃって…」

「うん」

「…どうしたら、よかったんだろう…」

「泣けばいいじゃない。ほら、今ならお姉さんがふっかふかのお胸を貸してあげましょう!前世にはなかったナイスバデーよ!」


茶化すように、王妃様が両手を広げた。

何をバカな事を言ってるんだと思ったけど、体は正直だった。

気付いた時には王妃様に抱きついていて、口から出てくるのは嗚咽だけだった。


「ほーらほら、もっと盛大に泣いてしまいなさい。泣いて泣いて、スッキリしたら、可愛い笑顔を見せてちょうだい?随分いい顔してるわよね、イケメンになりそうだわー!」

「うっ…ふぅ…ううぅぅぅ…!!!」


王妃様は変わらない。

きっと前世でもこういう人だったのだろう。

そうだ、変わる必要はない。

だってこれが『私』だったんだから。


ギュッと抱きしめられて、その暖かさに涙が止まらなくなる。

ただただそれからは、慟哭した。

今までの不安や不満が溢れ出した。


どうして私が死ななきゃいけなかったんだろう。

どうして私がこんな目に遭わなきゃいけなかったんだろう。


どうして…こんな事になっちゃったんだろう。


お腹の中で渦巻いてた黒いモノが、涙とともに出ていった。

少しずつ少しずつ、心が軽くなっていく。


『僕』は『私』だ。

"相楽柚月"であった事を消す必要はないんだ。


繕うのはやめよう。

ありのままでいよう。

終わるはずの"ユージェリス"の人生をもらったんだから。

悪い人生にはしない。

今度こそ、生き抜いてみせる。

精霊?知ったこっちゃない。


…いっそ、会ったら殴ってやる。

勝手に人を殺すんじゃない。

説明次第では身辺整理してから逝ったのに。

…いや、さすがに死ねないよね。

やっぱ説教して殴ってでも泣かせてやる。


精霊にイライラしてきたら、ある意味スッキリした。

八つ当たり先を見つけたからかな?

涙も止まってきた。


「…なんか、ちょっと恥ずかしくなってきた。泣き過ぎたな…どんな顔していいか…」

「…笑えば、いいと思うよ?」

「…エ○ァかよ」


王妃様の言葉に、つい突っ込んでしまった。

というか、この人、結構アニメとか知ってそうだな。

話が合いそうだ。

…この人がいてくれてよかった。


つい、2人してお互いの顔を見る。

そして、どっちからともなく声を出して笑い出した。

なんだろう、この世界に来て、1番心の底から笑えたような気がする。


悩みを共有して、笑い合える人がいるっていいね。

独りじゃなくてよかった。

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