縮まる距離
父様達は周りに防音魔法を張り、学院長に簡単な説明を始めた。
昔の僕の事例と、今回起きた現象についてを話すと、初めて聞いたメグ様やルーファス達が僕に目線で『なんで黙ってた!』みたいに責め立ててくる。
だってぇ、みんなと出会う前だったし、原因も分からなかったんだもぉん!!
「…というわけで、マーガレット様にはこのまま王城に戻っていただき、簡単な検診などを受けていただく予定です」
「そうですか…わかりました、指導員には私からお伝えしておきましょう。ユージェリス様は如何なさいますか?」
「ユージェリスは…多分、まだ帰るつもりはなさそうなので、このまま暫くいさせていただければと思うのですが…」
父様が少し眉を下げながら僕を見て話す。
さすが父様、よくわかってる!
もうちょっとみんなと学院生活を過ごしてみたいんだよねぇ。
メグ様は心配だけど、父様達がいるなら大丈夫だろうし、僕も後で会いに行くしね。
「それは構いませんわ。なんなら王女様のお席で授業受けてもよろしいんですよ?第1学年の3限目は魔術ですから」
「え?メグ様の?」
「…ユージェリスが妾の席で…そしてその席に妾が明日から座る…それも良いな、ふふふ…」
メグ様、乗り気かい。
でもまぁ、それもありだな。
魔術なら座学か実技になるし、見てるだけでも問題ないわけで。
ルーファス達と同じクラスで授業を受けるなんて、出来る事じゃないしな!
「よろしければ参加させて下さい!」
「承りました。ではその旨も伝えておきますね」
そう言って学院長は一礼し、校内へと戻ろうと背を向ける。
メグ様は僕の腕を少し掴んでから、大きく息を吸った。
「…っお祖母様!!」
「っ!!」
学院長が驚きの表情を浮かべて、勢いよくこちらに振り向いた。
そして段々と瞳を潤ませ、ポロポロと涙を流す。
メグ様はそんな学院長を見てオロオロとしてから、意を決したように僕の腕を掴み直した。
「…え、えと、あ、こ、今度、いや、明日!昼の休み時間に学院長室に行っても良いじゃろうか?!」
あ、メグ様顔真っ赤。
呼んだはいいけど、何言うかわかんなくなっちゃったのかな?
可愛い…
「…えぇ、是非、お待ちしておりますわ…」
学院長が涙を流しながら嬉しそうに微笑む。
その表情を見たメグ様は少し驚いて、それからニカっと笑った。
「お祖母様、その笑い方、母上そっくりじゃな!」
「…貴女様も、その笑い方、あの子にそっくりですわよ…」
そう言って学院長は、また校内に向けて歩き始めた。
良かった、少しは2人の距離が縮まったみたいだ。
これでベティ様も少しは進めるといいんだけどなぁ…
「…では、マーガレット様、参りましょうか」
微笑ましそうに見ていた父様が、メグ様に手を差し出す。
メグ様は頷き、父様の手を取った。
「ユージェリス、あまり迷惑をかけないようにな」
「失礼な、迷惑なんてかけないよ!」
「…どうだか…ロイド、ランフェス、マタール、ここの調査を頼む。あらかた確認が済んだら戻ってきてくれ」
「「「はっ」」」
ほう、ロイド様の部下さんはランフェス様とマタール様ね。
…確かこの人達、スタンピードの帰りの馬車に乗ってたような…
あ、目が合った。
…え、なんでそんなに怯えられてるの?!
顔色も悪いし!!
「…ではユージェリス様、またお会いしましょう。ニコラ、きちんとお役目を果たすんだぞ」
「うん、父さん、任せてよ!」
横目で部下を確認しつつ、ロイド様がいつもの笑顔で僕に挨拶をしてくれた。
続いてニコラに声をかけてから、中庭の中心部に立ち入り禁止の魔法を張り始める。
「では、後で王城に来てくれ、ユージェリス」
「またな、ユージェ」
「わかった、後で行くね。メグ様もまた後で」
2人に手を振りながら、見送る。
きっと王族専用の学院から王城へ繋がる隠し通路を使うんだろう。
前に母様が教えてくれたんだよね、僕も王族のようなものだからって。
まぁ僕は使わなくても『ワープ』すればいいんだけどさ。
そして残された僕達は、顔を見合わせる。
「…食堂行く?」
「「「「その前に、もっと説明を」」」」
えー、めんどくさい。