平穏な昼《side ルートレール》
基本的に月水金の更新になります。
余裕があればもっと上げたい!!
今日は特に事件もなく、立て込んだ仕事もない、穏やかな1日だった。
通常の仕事も順調で、光の12刻ぴったりに昼休憩に入る事が出来た。
そして、今日の昼はいつもと違う。
なんとユージェリスが作ってくれた弁当なのだ。
友人と食べるついでだと言ってくれたのだが、こうやって蓋を開けてみるとつい笑みが零れる。
確かに友人達の好物が入っているようだが…
「…天ぷらは、あっちの箱には入ってなかっただろうに」
厨房を覗いた時には、ちょうど友人達用の弁当を詰めている時だった。
ハンバーグに、卵焼きに、フライドポテトに…
ユージェリスの言うところの、定番のおかずというやつだった。
確かに、あの中には天ぷらなど入っていなかったのだ。
態々、私のために揚げてくれたのか。
ユージェリス、それは『ついで』とは言えないんじゃないか?
全く、うちの息子が可愛くて困る。
…いや、たまに『あれ?うちの息子、娘だったかな?』と錯覚する時がある。
特にフローネと2人で厨房でお菓子を作っていた時なんかは、娘2人だったかな?と思うほどに微笑ましい光景だった。
普段はちゃんと男らしい時もあって、ロイを慕う姿なんかは兄に憧れる弟そのものなんだがなぁ…
「…全く、不思議な子だよ、あの子は」
「師長、どうしたんですか?独り言なんて珍しい」
私の呟きが聞こえたようで、近くにいたアレックスが声をかけてきた。
いかんな、気が緩んでいたようだ。
「いや、なんでもない。それより、お前は休憩しないのか?」
「この書類を提出してきたら入りますよ。あれ?もしかして、それ坊ちゃんのですか?!いいなー!!」
「やらんぞ、私のだ」
「…師長って、子煩悩ですよね。絶対くれた事ない」
「ユージェリスのだから、という理由もあるが、態々私の為にくれたものを他の奴に渡すはずがなかろう」
「まぁ確かに、坊ちゃんのは特殊ですけど…でもいいなぁ、俺も坊ちゃんの作ったもん食べたいです。最近食べてない…」
「私はいただきましたよ、先日ケーキを」
「は?!なんで?!」
ロイドの勝ち誇ったかのような声に、アレックスが過剰に反応する。
…なんだかんだ、ロイドもユージェリスの事、好きだよな。
娘と仲がいいからなのか、ちょっと親目線の時がある。
勿論愛し子様としての尊敬もあるようだが。
そういえば先日の騒動で、ユージェリスの乗っていた馬車の部下達がユージェリスを恐れて距離を置いていたらしい。
その時にもその気配を察し、ユージェリスが場内に入った後に教育的指導をしたとの事。
後でされた側の人間に会ったが、中々顔色が悪かった。
…いっそ、ロイドの娘が嫁に来てくれないかな。
それなら心配しなくて済むし。
「なんでケーキ食ったんだよ!!」
「我が家に遊びに来ていただいてね、手土産としていただいたんだ。いやぁ、あれは実に美味しかった。今まで食べたケーキはケーキではなかったな」
ニヤニヤしながらアレックスを煽るロイド。
アレックスは何やらロイドに詰め寄っていた。
そんな2人を横目に弁当を頬張る。
…やはり、美味い。
じっくり味わって食べていたが、ついに食べ終わってしまった。
デザートについていたのは小さなケーキで、アレックスは私が飲み込むまでじっと見ていた。
ちなみに飲み込んだら涙目で項垂れていたな。
「師長、この後のご予定は?」
「今日は急ぎの仕事もないし、早く上がって学院に行くつもりだ」
「学院に、ですか?なんで?」
「ユージェリス様がいらっしゃってるんだよ。学院のご見学だそうだ」
「へぇ、じゃあお迎えって事ですか?」
「あぁ」
明日は私も休みだし、たまにはどこかに出かけてみるのもいいな。
ユージェリスとは一緒に出かける機会が少ないし、ちょうどいいだろう。
…なんて考えていたら、ロイドの目の前に1通の『レター』が届いた。
おや?この魔力は…
「…え、ユージェリス様から?」
「やはりか。何故ロイドに送ったんだ?私ではなく」
「…まさか娘に何かあったんでしょうか…今日は一緒にいるはずなんですが…」
ロイドが少し緊張した面持ちで封を開けて、中身を確認する。
目を通し終わった後、ロイドは少し小首を傾げた。
「どうした?ユージェリスはなんと?」
「…師長、行ってらっしゃいませ」
「「は?」」
アレックスと声が重なる。
ロイドは少し不思議そうな顔をしつつ、私に頭を下げてきた。
な、なんだ?なんて書いてあったんだ?
「ロイド、一体なんて…」
そこで、私の周りが強い光に包まれた。
驚きのあまり、魔法を発動するのが遅れてしまった。
しかし、ユージェリスから貰っている魔導具に反応はない。
つまり、危険なものではないという事か?!
「師長?!」
「あ、成る程、こういう…」
ロイドの納得したような声が最後に聞こえて、私の視界は黒くなった。
間髪入れずに周りが明るくなり、私は恐る恐る目を開くと…
「あ、父様」
「…ユージェリス?」
何故か笑顔の愛息子が目の前にいる、謎現象が起こっていた。