ウキウキセリウス
学院長室から戻って、授業を終えた帰りの終会にて、セリウス先生が少し鼻息荒く机を叩いた。
心なしか頰も赤いな、どうした。
「みんな!朗報だぞ!なんと10日に、あの師長様のご子息である愛し子様が学院の視察に訪れるらしい!!時間は昼頃との事だが、運が良ければ愛し子様を間近で見る事が出来るぞ!!」
教室に歓声が響く。
声を出さなかったのは僕とメイーナくらいだった。
他国出身のローグナーやロジェスでさえ驚きの声を上げてたけども。
そして1番声が大きかったのはアッシュ君だね。
怖いくらい瞳孔開いてるんだけど、やめてほしい。
あ、でもメイーナも心なしか嬉しそうな表情してる気がする。
「そこで学院を案内する人物を立てなければならないんだが…」
「先生!!是非僕に愛し子様をご案内させて下さい!!校内は完璧に把握しています!!」
めちゃくちゃ大声で手を出して主張するアッシュ君に、セリウム先生も瞠目した。
いやぁ、僕的にはやめてほしいわ、アッシュ君怖いもん。
「い、いや、アッシュ、話は最後まで聞け?案内する人物なんだがな、愛し子様から既にご指定いただいていて、ご友人でもある花組の4名と決まっているんだ。関わりのない奴は話しかけてはいけないと、学院長からお達しが出ている。それについて話したかったんだよ」
「そ、そんな…」
あからさまに落胆するアッシュ君。
君、僕に擦り寄る気満々だったよね?
まぁある意味わかりやすくていいけど…
「関わりあるって、どない人物なんですか?」
今度はロジェスが挙手しながら、セリウス先生に尋ねる。
セリウス先生は少し考えた素振りを見せる。
「対象人物については詳しく聞いてないんだが、基本的には愛し子様と社交界で会って話した事のある人だろうな。だから平民科にはあまり関係がないとも言える。先程の4名以外で聞いたのは、従兄弟でもあられるマーガレット王女様や、愛し子様の兄上の第3学年のロイヴィス様、その婚約者のルーナ嬢とかの身内だな」
おや、ダティス殿やデイジー嬢達が入ってない。
まぁダティス殿はつい昨日だもんな、知り合ったの。
僕の交友関係って狭いから、学院長も知ってるかと思ってたよ。
「なーんだ、じゃあ本当にただ見るだけかぁ」
ローグナーの少しつまらなそうな声に、セリウス先生がニマニマしながらほくそ笑んだ。
「ふふふふふ…」
「なんだよ、先生、気持ち悪い笑い方しちゃって」
「先生はなぁ、先生特権で、1回だけ愛し子様に話しかけていい権利をもらってるんだよ」
「「「「えぇー?!?!」」」」
教室中から非難の声が上がる。
うるせー!
…ってか、話しかけていい権利?
聞いてないんだが…
「先生、ずりぃ!!」
「職権濫用です!!」
「ふはははは!!なんとでも言うがいい!!俺とて全指導員から勝ち取った権利だ!!」
「先生、それって愛し子…様から提案されたんですか?」
いや、してないけどね。
「俺はそう聞いたぞ?それで指導員の中でジャンケン大会をして、俺が1人勝ちだったんだ」
…それ、ただ嵌められただけじゃ…?
こっちが許可してないのに話しかけたら、最悪処罰もんだぞ?
もしかして、平民出身の指導員って虐められやすいのかなー?
…まぁ、セリウス先生なら気付かずにスルーしてそうだけど。
ちょっと脳筋なところあるから。
「マジかよ、ずるいなぁ。ユズキ、一緒にその瞬間見に行こうぜ!」
「うん、そうだね、楽しみだよ」
セリウス先生を虐める奴が本当にいるなら、見極めないとね。
僕の担任を虐める奴は許さん。
「…ユズキ」
「ん?何かな?メイーナ」
「…私も」
「勿論、みんなで見に行こうよ。ねぇ?ローグナー」
「おう、頑張って拝もうぜ!」
「うん」
やっぱメイーナも気になるんだなぁ。
あ、てか、メイーナに僕素顔見せちゃったじゃん。
マズイなぁ、バレるかなぁ。
隣にいれば大丈夫だよね?ね?
あー、でも、影分身上手く出来るか今からドキドキだなぁ。
そして10日の朝です。
ちゃんと愛し子の正装として、黒いマント羽織ってます。
髪型もちゃんとしたし、服装は白制服に寄せるために白基調の軍服っぽいデザインのものを着てみた。
そして僕の横には影分身体が控えています。
既に僕のフリをしろ、と命令済み。
筆談用のノートを持たせてあるので、とりあえず1ページ目に『声が出ません。声変わりかも?』と書いておいた。
後は上手くやるように影分身体に言ってある。
意外と優秀なので、文字でなら対話が出来た、助かる。
「じゃあ、気をつけて行くんだよ?何かあったらブレスレットのボタンを押すんだよ?」
影分身体が頷く。
今回、彼には3つの魔導具を持たせた。
いつものイヤーカフは色違いにして、音の録音用。
眼鏡には録画機能を付けて、ブレスレットはSOS信号用。
イヤーカフと眼鏡で記録出来たものは、今日の夜に確認しておく。
そうすれば明日みんなに会ってもなんとか会話が出来るからね。
ブレスレットは問題が起きた時に押すと、僕と一時的に視界や音声を共有出来るようになる。
こう、目の前に僕しか見えない画面が現れて、見える的な感じ?
気をつけないと視線がおかしくなるから気をつけないとね。
「はい、いってらっしゃい」
僕は影分身体を送り出した。
さてと、僕は昼休み前に行けばいいから、まだ暫く時間があるな。
お昼にみんなで食べる用のお弁当でも作ろっと!
何にしようかなー?