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学院長

先週はバタバタしててUP出来ませんでした、すみません…

翌日の昼休み、僕は学院長室の前に来ていた。

実は学院長室って、アポを取った人だけが行ける場所だったりする。

普段は隠蔽されている学院長室に続く隠し通路が事務室の奥に存在するので、基本は行けない場所なんだよね。

僕は父様経由で昨日のうちにアポを取ったから、ちゃんと通れます。

でも先生達に見られると困るので、ここまで姿隠してきた。

ベティ様のお母さん…初対面だな、緊張する。

扉をノックして、返事を待つ。


「はぁい、どちら様かしら?」

「第1学年月組、ユズキと申します」

「あぁ、どうぞ、入ってらして?」

「失礼します」


優しそうな声に促されて、僕は扉を開けて中に入る。

正面の机の近くで立っている女性は、一目でベティ様のお母さんだとわかるくらい似ていた。

白髪混じりの灰色の髪に、緑の瞳。

きっとベティ様がもっと年取ったらこんな感じなんだろうなぁ…


「ようこそ、学院長室へ。お会いするのは初めてね、愛し子ユージェリス=アイゼンファルド様?学院長のレティシア=バールドールと申します」


学院長がカテーシーと共に名乗る。

ここはきちんと挨拶するべきだなと思って、僕は徐にペンダントと眼鏡を外して、髪を軽く整えた。

そして貴族の礼を一礼。


「改めまして、ユージェリス=アイゼンファルドと申します。よろしくお願い致します」

「まぁ、マリエール様とアイゼンファルド侯によく似てらっしゃるわ!こちらこそよろしくお願い致しますわね。それで、本日はどのようなご用件でいらしたのかしら?学院生活で何か問題でも?」


少し不安げな面持ちで、学院長が僕に尋ねる。

僕はダティス殿から聞いた噂の話と、学院訪問の件について話した。

やっぱり上の人にはお伺いを立てないといけないからねぇ。


「ふんふん、なるほど、そんな噂があるのねぇ。承知しました、では日程はいつにしましょうか?」

「近いうちがいいと思うのですが…10日はどうでしょうか?」

「その日なら特に予定もないので、私は大丈夫よ。時間はどうなさる?」

「昼休みにしようと思います。貴族科にいる友人達に案内を頼む予定ですので、学院長には出迎えていただければと」

「そうね、では到着時と送迎時のみ玄関にてお会い致しましょう。それ以外はご友人と存分に楽しんでちょうだいね。何かあれば『レター』なり下されば推参致しましょう」

「ありがとうございます、よろしくお願いします」


よし、これで裏工作も大丈夫だ!

さっさと平和な学院生活を送りたいなぁ…


「それでは、失礼します」

「あ、ちょっとお待ちになって?」

「はい?」


何か他にあったかな?

学院長が僕を呼び止めた後、少し目線を落として小声で何かを呟いている。

…いや、聞こえないっす。


「あの…?」

「…あの、ユージェリス様は、アイゼンファルド侯やマリエール様と仲がよろしいとお聞きしているんですが…」

「えぇ、家族仲は良好です」

「…ユージェリス様も、その、以前の記憶がないのでしょう?」


…あぁ、これはベティ様との話がしたいのかな?

確かそんなに仲が良いわけじゃないんだよね…


「確かに、私には愛し子になる前の『ユージェリス』の記憶はありません。どんな風に育ててもらっていたのか、どんな言葉をもらったのかも知りません。ですが、私は家族と向き合ってきました。だってみんなが私を家族として見てくれていたから。変わってしまった私に対しても、変わらずに接してくれたから。あんなに優しい人達を、家族じゃないだなんて言えませんよ」

「…そう、あの方達は、貴方に対して態度を変えなかったのね…私は、変えてしまった。娘が、娘じゃないと思ってしまった。記憶がなくても、私がお腹を痛めて産んだ子に変わりなかったのに…主人との事や、愛し子様という肩書きのせいで、真っ直ぐに愛せなくなってしまった…人には言えませんでしたけど、精霊様を恨んだりもしたんですよ?私の娘を返してって、毎晩のように泣きました。だから、私は未だに『彼女』と向き合う事が出来ていないんです…」


そう言って、悲しそうに微笑む学院長の頬に涙が伝った。


…ベティ様の事を、『彼女』と呼ぶ他人行儀な母親。

これは未だに、ベティ様を娘だと認めたくないんだろうな。

というより、母親の勘とでも言うべきなのか、ベティ様が正しく娘でないと心のどこかで気付いているんだろう。

これはうちの母様にも言える。

きっと母様は僕が自分の知っている『ユージェリス』でないと気付いていた。

でも、それでも僕を愛して、その事には触れずに慈しんでくれた。

それに応えないほど、僕は非情な人間じゃないんだよね。


「…ベティ様は、素敵な女性です。私の事を心配してくれて、大切に想ってくれる、優しい方です。1度でいいから、学院長の気持ちを正直に伝えてみるのもいいかもしれません。例え学院長がベティ様を娘だと思えなくても、大切に想う気持ちがあるのなら…」

「…大切よ、とても。そして『彼女』の産んだ子供だって、大切な孫なの。立場上、あの方々に学院で個人的な話は出来ないし、祖母と孫の関係でいる事も今まで出来なかったけれど…」

「第1王子様はお会いした事がないのでわかりませんが、第1王女様のメグ様…マーガレット様は、多分学院長とお話したいと思ってますよ。もう1人のお祖母様とも仲が良いみたいですし、きっと仲良くなれます」

「…ユージェリス様は、2人を愛称で呼ぶほど仲が良いのね…羨ましいわ。私も…そうやって呼べるようになるかしら…」

「なれますよ、絶対」


僕の言葉に、涙を拭った学院長が少し嬉しそうに微笑んだ。

…今気付いたけど、学院長とベティ様、それにメグ様の微笑み方が凄い似てる。

うーん、ただ顔だけが似てるんじゃなくて、微笑み方が似てるなんて、親子だねぇ。


早く、ベティ様と学院長の蟠りがなくなるといいな。

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