影分身の術
「あ、ちょっとすみません、友人がいたので挨拶してきますね!」
「あ、はい…」
噂のソースを言わずに、ダティス殿が離脱した。
僕とルーファスとナタリーは、なんだか冷や汗が止まらない。
一体どこからそんな噂が回ってるんだろう…
「あの…」
「ん?どうかした?デイジー嬢」
「もしかして、何かありましたか…?」
「顔色があまりよろしくないようですけれど…」
「もしお力になれる事があるなら、おっしゃって下さいね!」
…本当にいい子達だ…!
この3人には話しちゃおうかなぁ、折角だし。
周りの人とは距離があるので、多分小声で話せば聞こえないだろ。
「…実は、ここだけの話なんだけどさ。本当は僕、平民科で学院に通ってるんだ」
「「「えぇ?!」」」
「学院内で知ってるのはいつもの4人と、兄と学院長だけなんだ。変装後の姿を知ってるのは兄様だけかな?他の人には秘密にしといてね?」
「は、はい、わかりましたわ。ダティにもまだ話さないでおきます」
「ではダティス様のおっしゃってた噂って…」
「どこから漏れたのでしょうね…?」
「まぁ確証もない噂かもしれないがな。それでどうするんだ、ユージェ。噂は放置するのか?」
「うーん、それも不安だよねぇ…」
「いっそこの前の愛し子様の正装で学院に来てみたらどうですか?ほら、マントと仮面を付けた状態の…」
「え、まさか分身しろって?さすがにそんな魔法…」
…いや、僕の場合は想像力でなんとでもなるから、やろうと思えばいけそうな気がしてきた。
イメージとしては某忍者漫画の影分身の術で、実体がある感じで…
家に帰ったら試してみよう。
「どうした?」
「いや、なんか行けそうな気がした。学院長に相談して、視察とか見学とかの名目で行こうかな」
「ではその時は私達が案内役として付き添いますね。そうすれば何かあっても対処出来るでしょう?」
「そうだな、友人だからという理由で案内役に立候補は出来るだろうし」
「じゃあ私達はすぐ近くで待機してましょうか」
「そうですわね、学院生の反応を見ておきましょう」
「偵察ですね!」
「ふふふ、みんな、ありがとう」
本当にいい友達が出来て良かったよ。
感謝してます。
その後お茶会が終わって、僕は家に帰ってきた。
とりあえず例の影分身の練習をしようと思います。
えーと、同じ姿の自分がもう1人いる状態をイメージして…指を鳴らす!
「…おっ?成功か?」
僕の隣に、少し驚いた顔の僕が立っている。
触ろうとしたら…ん?なんか同じ動きしてないか?
踊って、ターンして、キメ顔。
…同じ動きしてるじゃん、鏡かよ。
しかも手を伸ばして触れてみようとしたら触れないし。
完全に失敗だわ。
なら次、別の自分がいるイメージで…ぱっちん!
現れた僕と向かい合って、踊る。
…おぉ、今度は動かない!
いや、動けないのか?
ただそこに映されただけって感じだわ、触れないし。
はい、また失敗。
そんなこんなで失敗を繰り返して、やっと成功した14回目。
実体はあるし、僕の命令を聞く事も出来る。
歩けと言えば歩くし、本棚から指定した本を取ってくる事も出来た。
ただ問題は喋る事が出来ないみたいで、口が開かない。
喋ろって命令しても、全く発声されない。
パクパクしてるだけ、コイ◯ングか!
「まぁ、これでなんとかするしかないかなぁ…」
マスクして、風邪引いて声出ないとか言えばなんとかなるでしょ。
いや、待てよ、魔法で治せとかそういうパターンになっちゃう?
どうしようか…
「ユージェリス様、そろそろご夕食のお時間ですが、お召し上がりになりますか?」
ノックの後に、リリーの声が聞こえた。
そうだ、リリーに相談してみようか。
「リリー、入って」
「はい、失礼します…って、え?ユージェリス様がお2人?」
あ、かなり驚いてる。
あんまり胎教に良くなかったかな?
僕はさっさと説明をして、喋らなくてもいい言い訳のアイデアを聞く事にした。
「なるほど…でしたら、ちょうどいいものがありますよ!」
「え?何々?」
「声変わりだと言えばいいのです。成長痛や筋肉痛や声変わりなどの体調不良は、基本的に魔法を使って治す事は致しません。本人の成長の過程ですから、魔法を用いると正しく成長する事が出来なくなる事もあるのです。ですから『突然声が出なくなった、もしかしたら声変わりかもしれない』と周りには伝えればいいのです。それでその日は乗り切り、次の日とかに『ただの喉風邪だったみたいだから、魔法で治した』と言えば問題ありません。ユージェリス様はまだ声変わりがお済みでないので、1回くらいならこの言い訳も大丈夫だと思いますよ!」
「さすがリリー!それに決めた!ありがとう!」
めちゃくちゃ使える言い訳だ!
それでその日は喋らなくても平気だから、分身体には僕のフリをしろって命令すればOKだね!
よーし、頑張ってみんなを欺くぞー!