お茶会の真意
「そ、そういえばダティス殿は学院でどのコースを選択されているのですか?」
ルーファスを誤魔化すように、ダティス殿に話を振る。
ダティス殿は大事そうに小袋をポケットにしまってから、僕に顔を向けた。
「え、えと、文官コースです…父も文官ですから」
「貴族子息、特に長男は文官コースを選ぶ方が多いようですね。次男以降に人気なのは騎士コースだと伺っています」
「腕の立つ者には狩人コースも人気らしいな」
「女性は淑女コースと侍女コースが人気ですね。私も侍女コースと迷いました」
「そういえばナタリーのお姉さんとは会った事なかったね。何をされているの?」
「既に学院を卒業した身ですし、うちには男児がいません。なので爵位を継ぐ為に領地で勉強しているのです。たまに『レター』のやり取りをしていますけど、ユージェ君と仲良くなったと伝えた時は面白かったですね」
「僕と?」
「姉は父似なのです。同じように卒倒したらしいですよ」
マジか、だから今まで話題に上げなかったのか。
という事は、ナタリーはお母さん似なのかな?
「ユージェリス様ぁ!」
「あ、こら、ドロシー、まだお話中よ!」
小走りで双子令嬢がこちらに近付いてくる。
どうやら招待客は全員来て、挨拶が終わったようだ。
「やぁ、ドロシー嬢、どうしたの?」
「さっきのちょっとつまみ食いしたんですけど、とっても美味しかったです!」
「それは良かった、シンディ嬢は?」
「あ、凄い美味しかったです!」
「まぁ…私も食べてみようかしら…でもここで開いたら、結構目立ちそうですよね」
デイジー嬢の言葉に周りを見回すと、殆どの視線がこちらに向いていた。
なんというか…好奇の目?羨望の目?嫉妬の目?
色々あるなぁ…これは3人にも魔導具渡しとくべきかな?
あ、ダティス殿も入れたら4人か。
悪意あるものを阻害する装飾品…ブローチとラペルピンにしようかな。
「まぁ後で食べてみてよ。それで感想はまた今度教えてくれればいいから。そういえば、今日は随分人数の多いお茶会なんだね?ちょっとしたパーティーみたいだ」
そんな僕の言葉に、2人の顔から笑顔が消えた。
あ、瞳のハイライトも消えてる。
「…裏の名目は、私達の婚約者探しですの」
「ほら、だから男性比率が多いでしょう?」
ドロシー嬢の言葉に、僕達は周りを見回す。
さっきまでは女性の視線に目がいってたけど、確かに男性が多いな。
だから同年代が多いのか。
「ダティス様みたいな婚約者同伴は2〜3人だけですわ」
「他はぜーんぶお父様が呼んだ方々です…女性の殆どは私達が呼んだのですけど…」
「本当は、今回のお茶会にルーファス様とユージェリス様をお呼びするつもりじゃなかったのですわ」
「え?そうなの?」「ん?そうなのか?」
「婚約者選びとわかっていて、その場に呼ぶほど愚かではありませんわ。実はお2人への招待状は、父が私達の名を騙って出したのです…」
マジか、いつもお誘いもらってたから気にしてなかったわ。
普通に疑わずに参加の返事しちゃったし。
「ユージェリス様からお返事いただいて、驚きました…」
「一瞬意味がわからなかったよね…」
「それでどうしようかナタリー様にご相談したんですけど、そのまま呼んでしまえばいい、と…」
ナタリー?どういう事?
僕とルーファスはナタリーに視線で問いかける。
「この場に来て、こうやって事情を説明された方が良いと思ったのです。多分ルーファス君は『まぁそういう親もいるよな』的な諦めで済むでしょうけど、ユージェ君はきっとそうじゃないと思いまして。いっそこの場をぶち壊してもらうのもありかな、と」
ナタリーがなんか笑顔で過激な事言ってる。
ちなみにルーファスは本当にそう思ってたみたいで、目線が少し泳いでいた。
それにしてもまぁ、僕の事もよく理解されてる事で。
生憎僕、自分を利用されるの嫌いなんだよね。
特に、親しくもない知らない人とかに。
実はこの5年間、何回か2人主催のお茶会には呼んでもらっていたけど、親御さんには会った事がなかった。
理由は2人が親御さん不在時とかにやっていたから。
しかもメンバーはいつもの5人と令嬢3人の超内輪会。
ちなみにデイジー嬢の家でもやった事ある。
その時にはお父さんに会った。
実はレオのお父さんであるハロルド様の部下だそうだ。
つまり表向きは文官って事だね。
今まで詳しく親御さんの話を聞いてこなかったけど…
何か問題あるのかな?
あー、もしかして…
「間違ってたら悪いんだけど…もしかして、2人のどちらかと愛し子が結婚したらいいなと思ってるタイプ?」
「「…フフフフフ」」
怖っ!!
死んだ魚の目で口だけ笑ってハモってる双子、怖っ!!
「…ある日、仲が良い事を知って、1人で舞い上がってましたわ…」
「職場や街で吹聴しようとしていたから、全力で止めました…」
「『愛し子様は事実と異なる噂話を嫌うから、少しでも誇張すれば精霊様の罰が下る』って言いましたわ…」
「冗談だと受け止めて親戚に誇張して話そうとしたから、覚えたばかりの魔法を駆使して天罰っぽい事してやりましたわ…」
「そしたら『娘が愛し子様と友人になった』という事だけ言い回っていました…」
「なのに今回こんな事を仕出かして…本当に申し訳ありません」
「ごめんなさい…」
2人がしょんぼりして頭を下げる。
いやぁ、全く2人は悪くないんだけど。
というか、僕の配慮ミスだったな。
この2人や他のみんなの親が理解あったから、失念してたよ。
そんな人ばっかじゃないよね。
やっぱり魔導具贈ろう、しっかりしたやつ。
「謝らないで、2人に非はないんだから。寧ろ僕の事を理解してくれててありがとう」
「ユージェリス様の嫌がる事は致しませんわ、お友達ですもの」
「嫌な思いはしてほしくないですから、お友達には」
マジでいい子っ…!!
どうしてそういう父親から人の事を思いやれる子が育つんだろう、反面教師ってやつかな…?
あー、そろそろこの3人にも学院でお忍び入学してる事話そうかなぁ…
なんか隠し事したくなくなってきた、いい子達すぎて。
ダティス殿は今日会ったばっかだし、隠し事が出来るタイプにも見えないから、まだ一旦保留です。