5歳児の回復力
昼食の用意の時間になったので、僕とリリーは厨房を後にした。
結局、最後までセイルは暗い表情のままだった。
…大丈夫かな、ちゃんと昼食作れるかな。
レリックに相談した方がいいだろうか。
「リリー、レリックどこかな?」
「きっと旦那様の書斎で資料整理されてますよ。こちらです」
「ありがとう」
リリーの案内で、父様の書斎までやってきた。
リリーが扉をノックする。
「レリックさん、いらっしゃいますか?」
しばらくすると扉が開き、レリックが顔を出した。
少し驚いた顔をしている。
「おや、リリー、どうしましたか?ユージェリス様も…」
「あのね、レリック。さっきセイルを罰したでしょ?」
「あぁ、お料理されたんですよね。どうでした?怪我などはされませんでしたか?」
「レリックさん、ユージェリス様ってとってもお料理お上手なんですよ!すっごい美味しかったです!」
「貴女も食べたんですか?!それは残念、私もご相伴にあずかりたかった。それではセイルの罰にはならなかったですね」
レリックが苦笑する。
まぁきっと、罰にならなくてもいいと思っていたんだろう。
確かにそんなにめちゃくちゃ悪い事したってわけでもなかったしな。
…見つけたのがフローネだったら、本当に八つ裂きだったかもしれないけど。
「うん、でも逆にセイルがなんかショック受けちゃって、ある意味罰になったというか…」
「はい?」
「セイルさん、ユージェリス様のお料理が美味しすぎて、自信喪失されてましたよ。冗談抜きで、セイルさんが作っているものよりも、ユージェリス様のお料理の方が美味しかったと思います」
「なんですって?!」
レリック、驚愕。
まぁそうだよね、5歳児の料理が料理長に優るってどうかと思う。
「…自己申告ですが、セイルの料理スキルは8だったはず…それでも我が国ではトップクラスで、あんなのでも優秀な料理人だというのに…」
あんなのって…まぁ、そういう評価になっちゃうか、アレじゃ。
「…詮索するようで申し訳ありませんが、ユージェリス様は料理スキルをお持ちで、尚且つレベルは8以上のようですね」
「うん、レベルは言わないけど、料理スキルは持ってるよ。まさかこんな事になるとは…」
「…私も想定外でございます。つまりユージェリス様は、セイルがショックを受けて仕事にならないかもしれないとお伝えにいらして下さったのですね?」
「うん、なんか心ここに在らずだった」
「…少し様子を見て参りますので、ユージェリス様は自室で少しお休みになって下さい。少しお疲れ気味のようですし、昼食の時間になりましたらリリーが起こしに参りますから」
「ん、わかった、そうする。よろしくね、レリック」
「お任せ下さい」
レリックが書斎を閉めて、厨房へ向かう。
これで一安心…かな?
とりあえず部屋に戻ってゆっくりしよう。
魔法を使ったからなのか、ちょっと疲れたもんな。
あとでステータス確認するか。
…そういえば、無詠唱って出来ないのかな?
毎回口で言うのもなぁって思うんだけど…
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【言霊・詠唱について】
魔法を使うには、呪文を唱える事を必要とします。
普段使う場合の短い呪文を『言霊』といい、簡単な魔法を使用する事が出来ます。
効果の強い攻撃魔法や防御魔法を展開したい場合は『詠唱』し、長い呪文を必要とします。
『言霊』も『詠唱』も言葉に魔力を込める事で発動します。
魔力の込め方は体の奥にある魔力を感じ取り、体外へ放出させる事が重要です。
〜参考文献〜
著・フレール=ジャックフルト、"初めての魔法"、P16
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…つまり現時点では無詠唱は出来ない、と。
そうだよな、この世界の魔法の定義は言葉に意味を込める事だもんな。
無詠唱だと、心の中で言葉に意味を込めるって感じか…?
…難しいな、それが可能だと、ふとした時に魔法使っちゃって問題になりそう。
しばらくは無詠唱について研究でもしようかなー。
「…ユージェリス様?またお調べ物ですか?」
「…ん、あぁ、まぁね。もう大丈夫、部屋に戻ろっか」
リリーに心配かけさせちゃった。
調べ物する時にボーッとする癖直さないと、リリーに悪いな。
とりあえず2人で歩き出した。
しばらくして部屋に戻り、リリーと別れてベッドの上に転がった。
「《ステータス》」
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ユージェリス=アイゼンファルド
職業・アイゼンファルド侯爵家次男
称号・精霊の愛し子
年齢・5歳
属性・火/水/地/風/雷/光/闇/聖/時/無
HP・550/725
MP・7740/9500
戦闘スキル・剣術∞、槍術∞、弓術∞、投擲∞、格闘∞
生活スキル・料理∞、清掃∞、作法∞、歌唱∞、舞踊∞、乗馬∞
特殊スキル・気品∞、暗記∞、身体強化∞、鑑定∞、幸運∞
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おぉ、HPとMPが減ってる。
MPは結構魔法使ったからだけど、HPは…あれか、辞書機能の弊害か。
確かにあれはダメージがあった。
寝れば回復するかな?
ちょっと一休み…
…ん、あれ、本当に寝ちゃったのか。
昼食に呼ばれてないから、1時間くらいかな?
体の調子は良さそうだ。
「《ステータス》」
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ユージェリス=アイゼンファルド
職業・アイゼンファルド侯爵家次男
称号・精霊の愛し子
年齢・5歳
属性・火/水/地/風/雷/光/闇/聖/時/無
HP・725/725
MP・9200/9500
戦闘スキル・剣術∞、槍術∞、弓術∞、投擲∞、格闘∞
生活スキル・料理∞、清掃∞、作法∞、歌唱∞、舞踊∞、乗馬∞
特殊スキル・気品∞、暗記∞、身体強化∞、鑑定∞、幸運∞
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おぉ、回復してる!
寝れば治るとか、5歳児の回復力すげぇ。
いや、もしかして愛し子だからなのか?
そこはわかんないなぁ、まぁいっか。
「ユージェリス様、起きてらっしゃいますか?」
「ん、さっき起きたよ。どうかした?お昼?」
リリーが扉の外から声をかけてきた。
僕が返事すると、頭を下げつつ入室する。
すると後ろに、何故か出かけたはずの父様がいた。
あれ?なんで?
「休んでたところ悪いな、ユージェリス」
「お帰りなさい、父様。早かったね?」
「あぁ、その事なんだが…今すぐ支度をして、一緒に王城に行く事になった」
「へ?」
え、もう?早すぎない?
「登城してすぐに陛下と王妃様に謁見してな。事情を話したら、陛下は明日にでも来るようにとおっしゃったんだが…王妃様がな。『今すぐ連れて来て!』って。陛下は王妃様に甘いところがあるから、ユージェリスの体調がいいなら一緒に昼食でもどうか、と」
…そんなに愛し子の僕に会いたいのかな。
やっぱり王妃様も転生者なのかも。
「寝たら回復したから、僕は大丈夫だよ。リリー、服選んでそこに出しといてくれる?お城に着てく服はわかんないから、任せたよ」
「承知しました」
リリーがクローゼットに向かう。
父様はため息をついて、ベッドに腰掛けた。
「全く、王妃様もどうしたんだか…今まではそんな感じじゃなかったのに…陛下も諌めないし…」
「父様は陛下と王妃様と親しいの?」
「あぁ、陛下とは学友だからな。王妃様は1つ上だから直接ではないが、愛し子様になられてからはよく知っているよ」
「学友なんだ!というか、陛下ってまだお若いんだね」
「3年前に即位したばかりだからな。先代陛下と先代王妃様は早々に引退して、諸国を周る旅をされている」
アグレッシブだな、先代は。
まぁまだ50代くらいだろうし、楽しみたくなったのかな。
「そうだ、一応説明しておこう。陛下と王妃様には4人のお子様がおられる。上から第一王子のエドワーズ様が8歳、第一王女のマーガレット様が6歳、第二王子のアルバート様と第二王女のローズマリー様が4歳の双子だ。見事にうちと同じだから、学院では同級生になるな」
おぉ、それは覚えやすい。
にしても、学院か…
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【リリエンハイド王立学院】
貴族と平民の両方が通う、王国一の学院です。
貴族科と平民科があり、東棟と西棟に分かれています。
13歳になる歳から3年間通う事になります。
貴族科に平民が入る事は出来ませんが、平民科に貴族がお忍びで入る事は出来ます。
その場合、学院内で本当の身分を知るのは学院長だけになります。
貴族科では通常の勉強の他にも、騎士コースや文官コースなどに分かれて授業を行ったり、王国の成り立ちや貴族としての役割なども勉強していきます。
平民科では通常の勉強の他にも、農業コースや騎士コースなどに分かれて授業を行ったり、王国の歴史なども勉強していきます。
貴族科も平民科も、コース選択で被るものは一緒の部屋で勉強します。
ちなみに学院内では身分を振りかざす事を禁止しているので、破れば様々な罰を受けます。
学院を卒業する事で大人の仲間入りとなります。
〜参考文献〜
著・セドリック=ロール、"貴族の一生"、P24
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なるほど、中学校か。
7歳で社交界デビュー。
13歳から15歳で学院。
卒業(成人の儀)で大人の仲間入りね。
「父様、王妃様が愛し子様だと発覚したのはいつ?」
「陛下が15歳の時、卒業の直前だな。王妃様は卒業済みで王妃教育を受けている最中だったんだ。陛下の卒業後に式を挙げる予定だったからな、本当に大変だったんだ…」
あ、また父様の目が遠くなった。
…話から察するに、きっと父様はその頃から陛下の側近だったんだろう。
んで、王妃様に惚れた陛下のアシストをしていた、とか?
無理難題とか吹っかけられたのだろうか、そんな表情してる。
詳しく聞きたいけど、今日はやめといてあげよう。