わんこ系婚約者
「ユージェ、こっちだ」
ルーファスが手を上げてくれたので、迷わずにみんなのところへ合流出来た。
ちなみにここまで僕に話しかけてくる人はいなかったが、視線はヤバかった。
でも意外とご令嬢方の視線は少なかったような?
「お待たせ、義姉様がいたから挨拶してきたよ」
「そうか、それはしょうがないな」
「デイジー嬢、久しぶり。この前は迷惑かけてごめんね」
「いいえ、ユージェリス様のお役に立てたなら光栄ですわ。あぁ、そうだ、紹介させて下さいませ。こちら、私の婚約者のダティス=ファラフスです」
デイジー嬢が横に立っていた男の子に目線をやる。
赤毛に黒い瞳の緊張した面持ちの男の子は、なんだか大型犬を彷彿とさせた。
金髪だったらゴールデンレトリバーって感じにもっと近かったな。
「は、ははははは初めましてっ!!ふぁ、ファラフしゅ子爵子息、ダティス=ファラフスと申しましゅっ!!」
めっちゃ噛んでるし。
「アイゼンファルド侯爵子息、ユージェリス=アイゼンファルドです。よろしく」
「ダティ、噛みすぎですわ。ユージェリス様はお優しい方ですから、そんなに緊張されなくても…」
いやいや、デイジー嬢だって最初は噛み噛みだったじゃん。
「で、でででででもでもデイジー、あの愛し子様だよ?!君が友人なんて、それこそ信じられなかったのに、まさかこんな目の前で、しかもお話出来るなんて思いもしなかったんだから!!」
「まぁ、私の事信じていなかったのですね?酷いお人だわ」
「あ、いや、そうじゃなくて!!」
「ダティス殿、自分以外の男が婚約者と仲が良いのはお嫌でしょうが、どうかデイジー嬢とはこのままご友人でいさせていただければと思うのですが…」
「そそそそそそんな滅相もない!!こ、こちらこそ彼女をよろしくお願い致しますです!!!」
滅茶苦茶挙動不審だな。
ずっと頭下げてるし。
「俺達と話した時はここまでじゃなかったんだがな」
「きっとユージェ君だからですね」
「これでもダティは私達の1つ上なんですよ。同じく学院に通っています。今までは用事があってお茶会などに参加出来ませんでしたけど、今日はやっと一緒に来れたんです」
「は、はい、その通りでございます…」
1つ上、という事はアリス嬢やマーロ先輩と同い年か。
もしかしたらアリス嬢とはクラスも一緒かもな、聞けないけど。
「そうなんですか、ではまたお会いする事もあるでしょうね。その時はよろしくお願い致します」
「こ、こちらこそ…!!」
僕の差し出した手をおっかなびっくり握るダティス殿。
うーん、中々気の弱そうな感じだ。
まぁデイジー嬢は姉御系というかしっかり者だから、お似合いではあるよね。
「あぁ、そうだ、デイジー嬢。これ、この前のお礼。双子のお2人にも同じものを渡してあるんだ」
「まぁ、そんなよろしいのに。でもお断りするのも失礼ですから、頂きますわね。こちらはなんですの?」
「僕が作ったクッキーだよ。お口に合えばいいんだけど」
「まぁ!そんな貴重なものを!ほ、本当によろしいんですの?」
「勿論」
「りょ、『領域の料理』…?そ、そんなものをいただけるほど、デイジーって仲が良いの…?」
「さすがにこれは初めてですわ。うふふ、なんだかまた仲良くなれたようで嬉しいです。ありがとうございます」
「これからも付き合いは長くなりそうだからね。よろしければお2人でお召し上がり下さい、多めに入ってますから」
「え?!よ、よろしいんでしゅか?!?!」
また噛んでるよ、ダティス殿。
なんというか、可愛がりたい衝動に駆られる。
あれかなぁ、人を警戒する大型犬を手懐けてる感覚?
餌付けしたいわぁ、してるんだけどさ。
「勿論です、どうぞ」
「あ、ありがとうございます!!!!」
「良かったですねぇ、私があげるとは限りませんけど」
「え?」
あぁ、デイジー嬢はダティス殿を虐めたいタイプか。
その気持ちもわからんでもないが。
僕はまたポケットから小袋を取り出す。
「なんならこちらをどうぞ、少ないですが小分けにしてあるものです」
「え?!あ、ありがとうございます!!!」
「どういたしまして」
目を潤ませながら、小袋を掲げて感動しているダティス殿。
うんうん、なんか可愛いなぁ。
「…ユージェ君が上かしら?」
「もしかしたら大穴狙いでダティが上かもしれませんわ…」
おいそこ、腐ィルター外せ。
なんて事言ってんだ、ダティス殿には聞こえてないみたいだから良かったものの。
「ん?何が上なんだ?身分ならばユージェが上なのは当たり前だろう?」
ルーファスぅー!!!!!
お願い、黙ってぇー!!!!!