先輩とお話
とりあえずお昼はアイテムボックスに入れていた非常食のハンバーガーセットを取り出して食べた。
ここが飲食禁止じゃなくて良かった。
ちなみに4人もお昼はまだだって言うから、全員分ね。
改めて4人にはお礼として何か作る事になった。
食べ終わって最初に僕が特別個室を出て、本棚の陰で姿を戻す。
そのまま何事もなかったかのように図書室を出ると、なんだか廊下が騒がしかった。
「…ユズキ君?」
聞いた事のある声に振り返ると、そこにいたのはアリス嬢だった。
「ご無沙汰しております、アリス様」
「図書室にいらしたんですか?勉強熱心なんですね」
「ちょっと気になる事があったので。それより、なんの騒ぎですか?」
「あぁ…なんでも、第1学年の令嬢が何かしたそうで…」
「離して!!離しなさい!!!私を誰だと思ってるの?!」
甲高い声で騎士に連行されていたのは、例の伯爵令嬢だった。
…おーう、ナイスタイミング。
あ、向こうの柱の後ろにシンディ嬢とナタリー嬢がいる。
一応監視続行してくれてるんだな。
本当にありがとうございます。
「まぁ、大きな声で…一体どうされたんでしょうか?」
「あぁ、アリス様、こんにちは」
アリス嬢を呼ぶ声に2人で振り返ると、そこには黒制服の少年が立っていた。
暗い茶髪に黒い瞳の、なんというかやんちゃ感がある。
「あら、マーロさん、ご機嫌よう」
「ん?こっちは黒制服?どういうご関係で?」
「以前ちょっと助けていただいて…ユズキ君、こちら第2学年星組のマーロさんです。身分は違いますが、お友達なのです」
「初めまして、マーロ先輩。第1学年月組のユズキです」
「後輩君か、よろしくな!にしても、月組なんて頭いいんだなぁ、羨ましい」
「マーロさんはどうしてこちらに?」
「噂を聞いて見に来たんですよ。なんでも愛し子様を害した令嬢がいたとか」
「まぁ、愛し子様に?!なんて無礼な…」
「アリス様、聞いた事ありません?愛し子様のファンクラブの話」
「え、えぇ、確かにそのようなものがあるとは聞いた事がありますけど…」
「男だから詳しく知らないし、平民だから余計に知らなかったんですけど、それ、違法なものだったらしいですよ」
「あぁ…確かに貴族間でのファンクラブはあまり褒められたものではありませんけど…」
「ユズキはファンクラブって知ってたか?」
「さっき同級生から聞きました」
クラスメイトと、レオ達からね。
にしても、結構派手に連れてくんだなぁ。
あれか、愛し子に手出ししたらこうなりますよ的なデモンストレーションか?
なんかここまで派手にされると、ちょっと良心が痛むというか…
「ユズキ君?どうかしました?」
「え、あ、いえ、愛し子…様が対象だと大ごとになるんだなぁと思いまして」
「まぁ愛し子様は国で1番尊い方だからなぁ。それに2人目の愛し子様は陛下の甥だろ?身分も高いから、余計にだよなぁ」
「確かアイゼンファルド侯爵子息様は、私達の1つ下でしたね。ユズキ君と同い年だとか」
「本当なら入学されるはずが、騒動になる事を懸念されてご辞退されたんですよね。屋敷に篭ってるとか」
「…こういう言い方はアレかもしれませんが、少し寂しいですね。ご友人も欲しいでしょうに、屋敷に篭ってるなんて…」
アリス嬢が少し眉を下げてため息をつく。
優しいなぁ、わかってくれるんだね。
「まぁ今までって基本的に学院を卒業されてから愛し子様となられてますもんね。学院に愛し子様が通うとなれば初の試みですし、どうなるかわかりませんからねぇ。案外、姿を隠して学院をフラついてたりして」
ぎっくーん!!!!
マーロ先輩、鋭い!!
正確には姿を偽って、ですけどね!!
「まさか、それはあり得ませんよ。結界がある限り、簡単には入れないんですよ?」
「でもお父上様の侯爵様は師長様ですし、なんとかなるんじゃないですか?学院長だって愛し子様の親御様ですし」
「まぁ…確かにあり得そうですけども…」
やめて、それ以上推理しないで!
というか、僕まだ学院長に会ってないんだよなぁ…
いないのかな?
話を逸らすついでに、聞いてみよう。
「あの、学院長ってどちらにいらっしゃるんですか?入学式にもいなくて…」
「あぁ、なんでも前学院長の命日で、暫く領地に帰ってるんだよ。だから基本的に入学式前後はいらっしゃらないんだ」
あぁ、なるほど、ベティ様のお父さんの。
それは知らなかった。
ベティ様…きっと気にしてすらいないだろうな。
「あ、あの令嬢連れていかれた。あのまま王城かな?」
「詳細は後日指導員の方々から連絡が来るでしょうね。これだけ騒ぎになったんですから」
「早く知りたいっすねぇ、かなり気になる」
「そうですね…あぁ、いけない。私、図書室に用事があるんですの。お先に失礼しますわ」
「ではまた、アリス様」
「失礼します」
アリス嬢は一礼してから、図書室へと入っていった。
残ったマーロ先輩と僕は西棟へ戻る。
結構人が多かったけど、殆どが東棟の方々だったので、渡り廊下までくれば随分人気がなくなった。
「ユズキは月組だっけ?何位だったんだ?」
「一応次席です」
「マジで?!めっちゃ頭いいじゃん!!俺なんて下から数えた方が早いくらいなのに…」
「あはは…マーロ先輩、コースは何を選択されてるんですか?」
「騎士コースだよ、これでもね。勉強はそれなりに出来ればいいし、最悪騎士になれなくても、兵士や衛兵にもなれるチャンスがあるからな。ユズキは?文官?」
「いえ、狩人コースです」
「え、その見た目で?いや、次席なんだし、実はかなり強いのか…?でも勿体無いな、それだけ頭良ければ平民でもいい位の文官になれるだろうに」
ははは、そうもいかないのが愛し子なんだよねぇ。
個人的に出来るものが狩人だったってだけなんだけどな。
まぁ諸国を旅して、放浪狩人ってのもいいよねぇ。