大切な友達の頼み《side レオナルド》
そろそろ授業が始まるなぁ、とぼんやり考えていたら、目の前に封筒が現れた。
突然の『レター』に、僕は図らずも教室中の注目を集めてしまったようだ。
さっきまでユージェの話題で盛り上がってたのにねぇ…
おや?
「…ユージェからだぁ」
まさかのご本人からだった。
僕の呟きが聞こえた人が数人、興味津々に封筒を見つめていた。
ちなみに隣に座っていたルーちゃんと後ろのナタリーは少し驚いた顔をしてる。
あ、ニコラはいつも遅刻ギリギリに来るからまだいませーん。
「ユージェから?お前にか?」
「まぁ、何かあったのでしょうか」
「うーん、なんだろう?見てみるねぇ」
空中に浮いていた封筒を摘み、中を確認する。
えーっと、なになにぃ…?
『レオへ
至急確認してほしい。
僕のファンクラブってやつについて。
クラスメイトが平民側のファンクラブが貴族側のファンクラブの傘下に入るんだって教えてくれてさ。
どうやら貴族側の会長ってのがあのデビュー時に絡んできたピンクモンスターらしい。
しかも僕と懇意にしてる、と言ってる模様。
知らんよ、僕、あんな奴。
あとなんか姿絵が販売されてるらしい。
僕、販売許可なんて出してないし、まず今知ったんだけど?
その資金ってどこで何に使われてるの?
なんか結構な人数が加入してるみたい。
昨日今日で騎士団や魔法師団の人も加入したっぽいし。
なので詳細情報を急ぎめで。
僕の希望としてはファンクラブの解散、または会長交代。
それに必要な情報よろしく!
わかったら昼休みか放課後に東棟図書館内の特別個室を1部屋予約して押さえておいて。
予約されたの確認したら、その時間に向かうから。
ユージェリスより』
…へーえ、なんか面白い事になってたんだなぁ。
ファンクラブねぇ…さすがに平民からの憧れの人の数だけあるから細かいところまでは確認してなかったけど。
というか、貴族間でのファンクラブって作らない事が暗黙の了解じゃなかったっけぇ?
貴族と滅多に会えない平民はしょうがないにしても、貴族同士で作る必要はないって…
あと貴族間だと派閥とかそういうのが絡んできてめんどくさいからって、そんな理由だったはず。
学院内のファンクラブは学院が平等謳ってるから貴族間でも免除されてたと思うけど…
いやまぁ、本当に禁止されてるわけじゃないからなんとも言えないけどさ。
でも物の売買が絡んでるなら、それは違法行為だなぁ。
貴族が別の貴族の姿絵(しかも愛し子様の)を無断で売って収入を得ている…うん、ダメなやつ、あはは。
それであの伯爵令嬢かぁ…
うーん、あんまりいい予感がしない。
これは早々になんとかしないと、ユージェだけじゃなくて僕達にも影響ありそうだよねぇ。
「しょうがない、確認するかぁ」
「ユージェはなんだって?」
「はい」
2人にも中身を見せる。
まぁ僕宛てだけど、問題ないでしょ。
寧ろ協力してもらおう。
ルーちゃんに至っては公爵子息だし、権力もあるからねぇ。
2人は眉間に皺を寄せてから、小声で話し始めた。
僕も小声にしておこう、まだ他の人に聞かれない方が良さそうだ。
「…ピンク…あぁ、アレか…」
「まぁ…まだ諦めてなかったんですか…」
「ナタリー、何か聞いてない?」
「実はファンクラブの存在は知ってましたけど、会長については知りませんでした。加入を誘われた事があるんですけど、お断りしてましたし…というより、本当はあまりよろしくない集まりですものね?禁止はされてませんけど」
「誘われてたのか?というか、ファンクラブってあるんだな、知らなかった」
「後で詳しく説明するよ。基本男子は知らないかもねぇ、女性主体だし」
「ユージェ君と親しいですから、細かい情報が欲しかったみたいです。好きなものとか、そういう感じの…勿論ニコラちゃんも誘われて、断ってました」
「まぁ2人なら断るよねぇ」
「後はデイジーさん達もお断りしたようですね。というより、本当にユージェ君と付き合いのある人達は挙ってお断りしてるといいますか。王女様には恐れ多くてお声をかけていないようでしたよ」
「あぁ、あの3人ね。まぁユージェの事がわかってれば入ろうとはしないよねぇ」
なんせユージェは、そういう好意を向けられる事を苦手としている。
本人から聞いたわけじゃないけど、5年でよくわかった。
別に好かれる事を嫌がってるわけじゃなくて、ユージェ本人を見極めないで向けてくる好意が嫌いのようだ。
まぁその気持ちもわかる。
結局ユージェ本人じゃなくて、肩書きとか顔だけとかなんだよね、相手の判断基準が。
なのでまさにそういう人の集まりであるファンクラブなんかに、僕らが入るはずがない。
「さて、僕は情報集めるかなぁ。もうすぐ授業だけど、今から『レター』出せば昼休みくらいにはわかるかな?」
「俺も父上に連絡をしておこう。不正な金の巡りは見過ごせん、取り締まり対象の可能性があるからな」
「では私はデイジーさん達にもお話を聞いてみますね」
「おっはよー!何々、なんの話?」
「おはよぉ、ニコラ。ニコラにも手伝ってもらうよ」
不思議そうに小首を傾げて問うニコラに、ユージェからの手紙を見せる。
暫く読んで考えた後に、ニコラは少し真剣な面持ちで頷いた。
「わかった、何すればいいの?」
「ニコラのお父上に、昨日今日でどれくらいの騎士団や魔法師団の人がファンクラブに入ったか確認してもらって。それと姿絵とかの商品系は買わないように通達を。まぁ買っただけで処罰対象に入る事はないと思うけど…」
「え、処罰?!」
「なんせ対象がユージェだし。王妃様が出てくるかもしれないし、何が起こるかわかんないんだよねぇ。もしかしたらこれを機にファンクラブ制度禁止になるかも?」
まぁさすがにお叱り程度だと思うけど。
買う前にユージェのお父上の師長様に確認を取ってればわかるだろうけど…まぁ取らないよね、普通。
貴族間のファンクラブってダメなわけじゃないけど、やっちゃいけないもの、みたいな扱いだし。
うーん、忙しくなりそうだなぁ。
まぁ大切な友達の為だし、一肌脱ぎましょう。
ちなみに特別個室とは鍵付きの図書室内にある小部屋を指します。
東棟に10個、西棟に5個あります。
部屋には机と椅子と黒板があり、図書室の本を持ち込んで勉強などが可能。
扉は磨りガラスなので中に人がいるか外側からシルエットで確認可能、但し中の話し声は聞こえません。
試験前は予約殺到です。