ファンクラブとは
あの後、家に帰ってフローネにルーファス妹の事を聞いたら…
「あぁ、お兄様…ついに会われてしまったんですの?」
と疲れ切った顔で言われた。
どうやら家に乗り込んで来るのを、今まで必死で食い止めていてくれてたらしい。
ごめん、フローネ、気付かなくて…
お詫びの気持ちを込めて、新しい髪飾りをプレゼントした。
勿論魔導具です、僕への下心持ちは近付けないようにする魔法付き。
後はフローネの好きなお菓子やご飯を用意してあげた。
よぼと辛かったのか、泣いて喜んでくれたよ。
…ルーファス妹、許すまじ。
次の日、教室は朝から賑わっていた。
なんだなんだ?
「ユズキ、おはよーさん」
「あぁ、ロジェス、おはよう。何かあったの?」
挨拶してくれた彼は、僕の斜め前の席に座ってるロジェス。
つまりメイーナの前。
少し京言葉のような、関西弁のような、とにかく聞き覚えのあるような訛りがある少年だ。
順位は9位で、彼もローグナーと同じく他国から来たらしい。
この国では見ないような明るいオレンジ色の無造作ヘアーに、金色の瞳。
貴族なのかと思って聞いてみたけど、なんと親の代までは亡国の貴族だったそうだ。
戦争で国がなくなり、爵位もなくなったらしい。
今は母親と弟の3人で慎ましやかに暮らしているとの事。
ちなみにコースは文官コースで、何か手柄を立てて陞爵される事を夢見てる。
「ユズキ、昨日王都にいなかったんか?あの話題で持ちきりなんやで」
「いや、いたよ?なんの話?」
「昨日王都に愛し子様が現れはったって話や!」
「あ、あー…うん、らしいね?うん、知ってる知ってる、アハハハハ」
はい、僕の事ですね!
王都民というか、平民の方々の前に姿を見せたのは初めてだもんね。
噂にもなるよねぇ…
「それでな、愛し子様は顔隠されてたんやけど、なんと1人だけ顔を見た子がおったんや!」
「ヘェー…」
「しかもその子がな、メルヒーの妹さんやったんやて!」
なんですって?!
え、あの子、クラスメイトの妹だったの?!
ってかメルヒーって誰?!?!
「…ごめん、ロジェス、メルヒーさんって誰かな?」
「あぁ、知らんのかい。ほれ、あそこの集団の真ん中におる奴や」
ロジェスの指差す先には、7〜8人の女子の集団があった。
…あの真ん中の茶髪ポニーテールの子がそうかな?
あぁ、あれ、確か3位の子だよな?
説明会の時はアッシュ君に睨まれててあんまり見てなかったけど、確かあの時隣に座ってた子だ。
「あの集団は一体…?」
「妹さんから聞いた愛し子様の話を演説のように話しとるんよ。俺もそこから聞いたんや。ユズキも聞いてみる?」
「あー、そうだね、興味ある…」
「ほれ、こっちきぃ!」
ロジェスに引っ張られて、集団のところへ向かう。
すぐ側まで近寄ると、全員がこちらを向いて朝の挨拶をしてくれた。
僕もちゃんと挨拶を返す。
「メルヒー、ユズキが愛し子様の事、聞きたいらしいで」
「えぇ、是非聞いてちょうだい!あたしはメルヒーよ!」
「やぁ、僕はユズキ、よろしくね。妹さんが顔を見たんだって?」
「よろしく、ユズキ君!そうなの、うちの妹ったら母さんの目を盗んで騎士団の方々のところに入り込んでしまったの!それで恐れ多くも愛し子様に話しかけてしまったのよ!本当なら処罰されてもおかしくないのに、愛し子様は優しく接して下さったそうなの!しかも妹の我儘に付き合って下さって、お顔も見たって!本当に羨ましいわ!あたしも一緒に行けば良かった!」
「あぁ、メルヒーさんはいなかったんだ?」
「留守番頼まれてて家にいたのよ…本当に残念!」
「妹さんはなんて言ってたの?」
「とってもカッコ良かったって!まるでお伽話の王子様みたいで、エスコートしてもらったって喜んでたわ」
うん、やっぱり詳細な情報は伝わってなさそうだな、良かった。
「あの後ファンクラブが結成されたから、あたしも妹と母さんと一緒に加入しちゃったわ!」
「ふぁ、ふぁんくらぶ…」
「えぇ、今後貴族様側のファンクラブの傘下に入る形になるけれど、これで詳細な情報とかが入ってくるわ!」
「…貴族様側のファンクラブ?」
「知らないの?すでに貴族様の中では5年前のデビュー後からファンクラブは存在するのよ?未成人の子息令嬢である事が条件でね。そしてそのファンクラブ内でのみ愛し子様の姿絵を購入する事が出来るの!今回傘下に入れるようになったから、近々姿絵を入手してみせるわ!」
そんな話全く知らないんですけどぉー?!?!
え、じゃあ僕、変装した意味全くないじゃん!!
いや、でも姿絵って肖像画か…
『プロジェクト』で写真もどきをばら撒かれるよりマシなのか…?
うーん、この格好で素顔見られると今後困りそうだなぁ…
うわぁ、なんか簡単にバレてこの生活終わりそう…
…こうなったら、何が何でも無関係を貫き通すしかないな。
とにかく『僕じゃない』スタンスでいこう。
というか、販売?
僕、許可なんてしてないけど?
その利益はどうした、何に使ってるんだ?
「ユズキ君?どうかした?」
「あぁ、いや、どんなお顔なのかなぁって。それにこのファンクラブの事、愛し子…様ってご存知なのかなぁって。公式なのかな?」
「うーん、それはわからないけど、ファンクラブ会長は愛し子様と懇意にされてるって方だから、ご存知なんじゃない?多分公式よ」
「え?」
「確か雪組にいらっしゃる、フロなんとか伯爵令嬢様って噂よ。デビューの時に愛し子様と交流したとか。まだお会いした事ないけど、正式に傘下に入ったらご挨拶に伺おうかしら」
よっし、そのファンクラブ潰そう。
または会長交代で。
まずはレオに情報集めてもらうか。
「そうなんだね、教えてくれてありがとう」
「ユズキ君も加入するの?なんでも昨日の討伐が関係してるのか、貴族様側ファンクラブに突然男性が沢山加入されたそうよ?」
「いやぁ、僕はいいかなぁ、アハハハハ」
え、討伐関係してるって、もしかして騎士団とか魔法師団の人が入ったって事?
やめて!そんなところに入らないで!!
僕は密かに指を鳴らし、早々にレオへ『レター』を送る事にした。
たまには役に立って下さい、レオ。
というか、助けて。