妹、襲来
入園、入学、進学、入社の時期ですね。
皆様、おめでとうございます。
「お兄様!失礼しますわ!」
バーン!と勢い良く音を立てて、扉が開く。
入ってきたのは…お、おぉ…
髪の色と瞳の色は宰相さんと全く一緒だ。
黄色に近い金髪は天パなのかくるっくるで、それを高い位置でツインテールにしている。
あれだ、プードルっぽい。
茶色の瞳を持つ目は少しツリ目で、多分眉間に皺を寄せたらルーファス以上に怖い顔になりそうだな。
可愛いか美人かで言えば…うん、美人系?
まだ10歳だし、美少女とも言える。
でもなんていうか…ナタリーじゃないけど、悪役令嬢感が漂ってるんだよなぁ…
これ、性格がアレなら正さないと本当に問題児になるんじゃないの?
「…お兄様、愛し子様はどちらに行かれたの?」
「なんでそんな事教えなきゃいけないんだ。それよりまずはここにいるみんなに挨拶しろ」
「…どうして私よりも身分が下の者に、私から挨拶しなければならないの?」
「このっ…!」
「まぁまぁ、ルーちゃん。ルルーシュ様、お久しぶりにございます」
「あら、レオナルド様、ご機嫌よう」
「お初にお目にかかります。スタンリッジ伯爵令嬢、ナタリー=スタンリッジと申します」
「ふ、フラメンティール士爵令嬢、ニコラ=フラメンティールと申します!」
ナタリーとニコラが立ち上がり、カテーシーを取りながら挨拶する。
ニコラはちょっとぎこちないな、慌ててるし。
そんな2人をルーファスの妹はジロジロと見ている。
「…オルテス公爵令嬢、ルルーシュ=オルテスですわ。貴女方がお兄様や愛し子様と仲良くされてるという噂の方々ね…ふん、大した事ないじゃない」
「ルル!!」
「それよりお兄様、愛し子様は?さっきばあやからお兄様のお友達が来てると聞いて、絶対にいると思ってましたのに!」
「…スタンピードがあっただろう。王命でそちらに向かった」
うん、まぁ、嘘じゃない。
すでに帰ってきてるだけで。
「…ならここで待てば、戻っていらっしゃるの?」
「お前がここにいるなら、呼ぶ事はしない」
「どうしてですの?!昔からずっとお会いしたいと申し上げていますのに!!」
「ユージェに迷惑がかかるからだ!アイツはお前みたいな奴が苦手なんだ!!」
「失礼ですわね!ちゃんと上手くやりますわよ!!」
「それがダメなんだ!!」
おう、兄妹喧嘩始まったわ。
うーん、とりあえず、ここで見てる限り、根が悪い子ではなさそう。
さっきの部屋への入り方やモノの言い方は悪かったけど、確かに公爵令嬢なんだから、先に挨拶するべきはナタリー達だ。
10歳で身分制度をきちんと把握しているところは褒められる。
ただ貴族が偉くて平民が下、みたいな考えを持ってそうな感じがするなぁ、なんとなくだけど。
「私が愛し子様と結婚すれば、お兄様だって嬉しいでしょう?!」
「まずその前提がダメなんだ!碌にユージェの事を知りもしないで、なんで結婚の話になる!それにお前は絶対にユージェの好みではない!!」
よくわかってるな、ルーファス。
確かに顔の好み云々じゃなくて、話した事ない人に最初からそういう気持ちで向かってこられるのは苦手だ。
せめて僕の性格を知ってから言ってくれよ。
ナタリーやニコラみたいに長年一緒にいてからそういう気持ちになって告白してくれた方が嬉しいわ、2人はないだろうけど。
「ちゃんとお顔も拝見致しましたし、性格だって話を聞いて知っていますわ!後は実際に会ってお話するだけですもの!」
「あぁ?」
「デビューの際にいらしてたのを見ましたもの!それに愛し子様の妹のフローネから色々聞き込みしてますのよ!とてもお優しい方だと伺ってますもの!」
フローネぇ?!
デビューの時見たってのは、フローネの社交界デビューの時、会場にいたからだろう。
是非フローネの可愛い姿を見たくて、来賓という形でベティ様に呼んでもらったんだった。
でもカーテンで僕の顔は見えないようになってたし、僕がいるって説明もしなかったのになぁ…
にしても、え、どういう事?
フローネと仲良いの?
…いや待て、『聞き込み』したって事は、まさか無理矢理聞いたんじゃないのか?
しかも公爵令嬢だからって、侯爵令嬢のフローネに強要したんじゃ…?
そういえばたまにお茶会から帰ってくると、疲れた顔してたような…?
そういう日は甘いものとか強請られてたけど、もしかして僕が原因だったの?!
…帰ったらちゃんと聞こう。
それに対策も立てよう。
そういう輩が寄ってこないような魔導具作ろうかな。
うん、そうしよう。
「お兄様の妹で、愛し子様の妹と友人で、後は出会えれば完璧ですのよ?!会話のネタはばっちりですわ!!」
「いっそお前から話しかけて不敬として処罰されろ!!」
「だからこうやって挨拶せざるを得ない状況が望ましいんじゃないですか!!」
「させるわけないだろう?!」
「お兄様の意地悪!!妹が可愛くないんですの?!」
「お前のどこに可愛げがあるんだ!!お前よりもユージェの方が友達として大事だ!!」
ルーファスぅー!!!!!
僕もルーファスが大事で大好きだよぉー!!!!!
…多分、ルーファス、僕がここにいる事忘れてるんだろうな。
頭に血が上っちゃってる感じだわ。
なんとなくレオの顔が真剣な表情してるようで、笑ってる。
付き合い長いからわかるんだよね。
んでナタリーは、大した事ないって発言を地味に気にしてる。
ニコラは…うん、見た目通り兄妹喧嘩を見てオロオロしてるね。
うーん、このままここにいられると、僕も姿見せられないんだよねぇ…
早く出て行ってもらおうか。
僕は聞こえない程度に指を鳴らす。
するとレオの目の前に『レター』の封筒が現れた。
少し驚いた顔をしてから、封筒を取って封を開ける。
「ルーちゃん、ユージェからだよぉ」
「は?ユージェ?ユージェなら…いや、なんでもない。なんだって?」
あ、やっと僕がここにいるって思い出したな?
今更照れたって遅いぞ。
「えーとねぇ、今日は王城に報告とかあるから、戻ってこれないってさ。また今度遊ぼうって」
「そんな!」
レオの言葉に、妹さんがショックを受けたように固まる。
「…わかっただろう?ユージェは来ない。さっさと俺の部屋から出て行け」
「…っお兄様の意地悪!!」
捨て台詞を吐いて、また勢い良く扉を開いて出て行く妹さん。
うーん、嵐のような子だな。
ちょっとヒステリーというか。
もうちょっと周りが見えるようになればいいんだろうに…
「…ユージェ、もういいんじゃない?」
「ん、そうだね」
レオに促されて、姿を現わす。
いやぁ、疲れたなぁ。
ソファを乗り越えて、レオとルーファスの間に座る。
そしてルーファスが持ってきてくれていたジュースを飲んだ。
…アップルジュース、うまー。
「…その、見苦しいものを見せてすまなかったな…」
「いいよいいよ、代わりにルーファスからの愛を感じられたから」
「…くそっ、聞き流してくれればよかったのに…!」
「いやぁ、ユージェが羨ましいなぁ。僕もルーちゃんから想われたーい」
「茶化すな、レオ」
「それにしても、その、中々ご自分に自信のある妹さんですね」
「うんうん、なんか見下された感じが凄かった。まぁあたしは殆ど平民みたいなものだしなぁ」
「アイツは少し選民意識が強いんだ。お祖母様がそうだったからかもしれない」
「そのお祖母様はどこにいるの?」
「父上が引き離した。今どこにいるのかは知らん」
「お、おぉ…」
殺伐としてるなぁ、心配じゃないのか?
いや、ルーファスはお祖母さんの事、嫌いなのかもな…
あの妹さんの元凶だし。
というか、お祖母様方が孫娘に与える影響が強すぎるて、僕の周りが荒れてる疑惑浮上だよね。
本当にやめてほしい。
私もお仕事頑張ります(嘘)