癒しが欲しい
「…とにかく、私はこれから父上に『レター』を出して状況を説明してくる。後は向こうでなんとかしてくれるだろう」
「メグは母上から手紙が届いても、あまり鵜呑みにしないように」
「うぬ…」
しょんぼりするメグ様。
ため息をつく大人4人。
目が点になる副団長さん。
そして、なんか疲れがドッと出てしまったので、僕もメグ様座っているソファの隣に腰を落とした。
「…ユージェ、その、今まですまなかったのじゃ…」
「…いえ、お気になさらず」
もう、それ以外言う事ないよ。
なんだかもう凄く疲れた。
早くみんなのところに帰りたい。
誰か僕を癒して。
つーか帰っていいかな?
「…もう退出してもよろしいですか?」
「あぁ、ご苦労だったな。後はこっちでなんとかするから、下がっていいぞ」
「ユージェリス殿、我が屋敷に戻られるのか?」
「えぇ、みんなが待っててくれてますからね。このまま転移魔法で失礼します」
「お疲れ様、ユージェ」
「ありがとうございます、ベティ様」
「ユージェ、その…またな」
「はい、メグ様、御前失礼します」
「夜には帰るつもりだから、また後でな」
「後でね、父様」
「あ、ゆ、ユージェリス様。本当にあの男が大変失礼致しました」
「いえいえ、副団長様も大変でしたよね。これからはよろしくお願いします」
「あ、あの、よろしければ名前で呼んでいただけると…副団長は2人いますので…様とかじゃなくていいですし…」
それもそうか。
いや、でも『右翼の』って付ければいいだけのような…
まぁいっか。
「承知しました、アイカット嬢」
「はぅ…」
おや、顔が赤くなった。
もしかして本当に惚れられちゃった感じですか?
それともアイドル的扱いなのかな…?
そこんとこの判断は難しい。
でもメグ様はそんな僕達を見て少し不満げだった。
とりあえず、僕は全員に向けて一礼してから『ワープ』でこの場を去りまーす。
早く誰か癒して!!
「「「ユージェ!」」」「ユージェ君!」
「あ、ただいまぁ」
ルーファスの部屋に転移すると、全員ソファに座って待っててくれていたようだった。
僕の姿を確認すると全員が僕に駆け寄ってきて、軽く詰め寄られる。
「怪我はしてないか?大丈夫か?」
「魔物はどうだった?どれくらいいた?」
「王都の方々に顔は見られていませんか?」
「とにかく全部引っくるめて大丈夫だった?!」
「お、おぅ、みんな落ち着いて…怪我はしてないし、死人もいないよ。魔物は全部討伐して、内訳は天災級20災害級12自然級47…だったかな?この変装のお陰で素顔は晒してないよ。小さな女の子1人には見たいって言われたから見せたけど。まぁちょっと王城で問題が起きたりもしたけど、そこはもう僕は知らん」
先代王妃様問題は丸投げです、僕は関わりません。
僕ははしたないと言われても構わないと、マントを外してしまってからソファにダイブした。
あー、ルーファスの部屋のソファってフッカフカ。
「そんなに魔物が出たのか…疲れただろう、何か飲むか?」
「んー、なんか甘いの欲しい…ジュースとか…紅茶なら今日は砂糖付けてー」
「わかった、待ってろ、ちょっと行ってくる」
そう言ってルーファスは部屋を出て行った。
「あれ?誰か廊下にいるんじゃないの?」
「人払いしてたんだよねぇ、いつ帰ってくるかわかんなかったし、ユージェの転移魔法については僕らしか知らないから。ユージェのメイドさん達も僕らからの説明と使いの人が来て、一旦帰ってる。もし戻ってきたら連絡するって言ったら、迎えに来るって言ってたよぉ」
「あー、わかった」
「ユージェ君、おでこに汚れが付いてますわ。拭きますね」
「ありがとー」
「ユージェ、ほら、今日はあたしも砂糖菓子持ってきたんだよ!あーん!」
「あーん…んまーい、あまーい」
ナタリーがハンカチで顔を優しく拭いてくれて、ニコラが金平糖のような砂糖菓子を口に入れてくれる。
あー、いいね、めっちゃ癒される。
ちなみにレオも頭ポンポンってやってくれてて、地味に癒されるわー。
そんな優しいひと時を過ごしてたところへ、ルーファスが血相を変えて部屋に戻ってきた。
あ、手にはジュース持ってる、わーい。
にしても、顔色悪いな、どうした?
「ルーちゃん、早いねぇ。どうかしたの?」
「…マズい…ユージェ、今すぐ隠れるか転移してくれ!」
「え、ど、どうしたの?」
「…妹が帰ってきてる、見つかった、バレた」
「「「「妹?」」」」
妹って、ルーファスが嫌いなあの妹さん?
確かデブハゲ伯爵令嬢と似てるとかいう…
そういえば今まで会った事なかったな。
これだけ一緒にいて、たまにこの屋敷に遊びに来てたのに。
「…今までは、妹が不在の日にみんなを呼んでたんだ…今日もお茶会に呼ばれてて出かけてたから呼んだんだが、どうやらスタンピードのせいで早く終わったらしくてな。もう戻ってきてるんだ」
「あぁ、だから会った事なかったんだ」
「僕はあるよぉ、なんというか、僕も苦手だなぁ。ユージェは会わない方がいい」
「私達は?」
「うーん、敵視されるかも?あっちの方が身分上だし。あの子って高い身分を鼻にかけてるんだよねぇ」
「ルーファス、注意しなかったの?そんなんじゃ学院行ったら浮いちゃうじゃん。ほら、うちの組にもそういう人いるけどさぁ」
「いくら注意しても、俺の話は聞かないんだよ。妹は体の弱い母上が領地で療養してる分、お祖母様に育てられたんだが…これがめちゃくちゃ甘やかされてな。父上は忙しくてあまり家の事は出来なかったし、家にいる時は俺への宰相教育で忙しかったから…」
あららぁ、放ったらかしにして失敗しちゃったのか。
宰相さん、すでに王城でも子供のお守りがあるから…
「というわけで、アイツとユージェを会わせるわけにはいかない。隠れてくれ。なんなら横の衣装部屋に入るか?」
「いや、それなら透明化でもして見えないようにしとくから大丈夫だよ。レオの後ろにでも立って見てようかな」
「じゃあみんなで座り直そっかぁ」
というわけで、僕はソファから起き上がって座席移動。
扉側にルーファスで、隣にレオ。
ルーファスの向かいがニコラで、レオの向かいがナタリー。
僕はレオの後ろに立ってます。
1番見渡せる場所だね。
…おや、なんかめっちゃ足音聞こえる。
さっさと指を鳴らして、体を見えないようにした。
「どう?見える?」
「いや、声が聞こえる程度だな。後はなんとなく気配を感じる程度」
「あぁ、気配も消すべきだった?」
「いやぁ、大丈夫でしょ」
「うん、あたしわかんない」
「私も声が聞こえるからわかる程度です」
「じゃあいっか、やばそうならそこから魔法を重ねがけするから」
あ、足音が扉の前で止まったっぽい。
そして強めのノックが聞こえる。
はい、黙ってまーす。




