元凶について
「…俺の父上と母上が旅に出ている事は皆が知ってるな?それは間違いではないんだが、真実でもない。正しくは『国にいられると困るから他所に行ってこい』という一種の追い出しだ」
「「「は?」」」
僕と副団長さんとメグ様の声が重なる。
「…父上は、とても仕事も出来て、王国民の事も考えて行動出来る、素晴らしい方だった。ただ1つの欠点を除いて」
「欠点…ですか?」
「欠点というか、弱点というか…それはな、母上の事だ。何故かは知らんが、父上は母上にあり得ないくらいベタ惚れだった。母上が他国の小さな島を欲しがれば、その国に戦争吹っかけて奪ってこようとするくらいには」
「「「え」」」
「全く好戦的な方ではなかったんだかなぁ…」
「…先代の時代の宰相は私の父でしたが、それはもう止めるのが大変だったと聞いております…」
父様はため息をつき、宰相さんの顔に影が指す。
どんだけ親世代から色々聞かされてきたんだろう。
「母上はな、なんというか…自分が1番なんだ。欲しいものは欲しい、手に入れれないものはないと思っていた節があったな。元々が公爵令嬢でなんでも叶ってしまっていたし、様々な我儘も学生時代から全て許してしまった父上が側にいて…諌められる者もいなかったようだ。なんせ母上が父上に泣きついてしまえば一瞬で片付けられたんだからな」
それ、物理的に片付けられてたんじゃ…?
怖くて聞けません。
「父上も普段は普通なんだ、母上の発言さえなければ。だから昔は母上用の離宮があって、2日に1回しか父上が会いに行けないようにしていたらしい。そしてそんな母上では外交が務まらないから、他国の王女であったアマーリア様を側室として迎え入れたと聞いている。それがマリエールの母上、ユージェリスの祖母にあたるな。俺も基本的にはアマーリア様に育てていただいていた」
…そうか、忘れてたけど、先代陛下って僕のお祖父ちゃんか!
そしてお祖母ちゃんがここで出てきたのね。
にしても、そんなにラブラブならもっと子供がいてもおかしくなかっただろうに…
確か陛下は母様以外に兄弟がいない。
もしかして、先代王妃様に薬でも盛ってた人でもいたのかもな…
「俺が即位するまで、アマーリア様の心労は計り知れないものだったようだ。即位して数ヶ月後に亡くなられたよ、まるで役目を終えたと言わんばかりにな。ちょうどフローネが生まれる直前くらいだったか?マリエールも辛い中出産してたよ」
あ…お祖母ちゃん、死んじゃってたのか…
会いたかったなぁ…
「それで、父上達を押さえつける人がいなくなってな。どうしようか困っていた時に、ベティが大発見をしたんだ。なんと母上の体には好意を持つ相手にのみ発動する『チャーム』の魔法が魔法印として刻まれていたそうでな、それで父上がおかしくなってしまっていたんだ。秘密裏にその魔法印を封印する事になって、先代宮廷魔術師長とベティの2人で対応した。勿論父上には話したが、母上には黙っておいたよ。それ以来、父上は母上を多少諌められるようになった」
まさかの体に魔法印!
誰だよ、そんな事したの!
しかも先代宮廷魔術師長って、もう1人のお祖父ちゃんじゃね?
そういえば父様側の祖父母にも会った事ないな…
まさか、こっちも亡くなってるのか?!
「でも王国にいればなんでも叶うと思い込んで過ごしてきた母上だったからな。ずっとここにいるより、『他国だから無理なんだよ』という言い訳の効く場所に行ってもらう事になった、という訳だ。護衛に先代宮廷魔術師長、侍女教育を受けていた先代侯爵夫人、先代宰相という豪華な一行で諸国を自由に旅してるよ」
「父上…ユージェリスのお祖父様とはたまに『レター』で近況を報告しているんだ。お前の事も伝えてある。いつか会いたいと言っていたぞ」
まさかの祖父母はご存命だけど会えない感じか!
うーん、残念だ…
「皆様お戻りになる予定はないのですか?」
「一応何かしらの行事以外は戻らないという事になってるんだ。次に戻れるとすれば…エドワーズの王太子任命式だな」
エドワーズ…ロイ兄様と同い年の第1王子だね。
まだ会った事ないや、メグ様の兄弟だからって出来るだけ避けてきたし。
という事は来年帰ってくるかもなのか!
会えるの楽しみだなぁ!
…待て待て、問題はそこじゃないんだ。
「…で、そんな凄い先代王妃様とメグ様がいつの間にか連絡を取り合っていた、と…」
「…デビューの日、式典が終わって自室に戻ったら、突然『レター』が届いたのじゃ。お祝いの言葉なんかが書いてあって、記憶にはないがお祖母様からだと思うと嬉しくてのぅ。そこから毎週のようにやり取りをして、色々相談なんかをするようになったのじゃ…」
「どうして私達に言わなかったの?『レター』が届いたなんて聞いてなかったわよ?」
「お祖母様が『女同士の秘密』じゃと言うので、つい…それでユージェについて話して、お祖母様がお祖父様に実践したやり方とかを聞いて、妾も試していたのじゃ…ユージェは少し困った顔をしながらも拒否しなかったから、てっきり成功しているものと…」
「相談する相手を間違えたわね…そして微妙に『チャーム』が有効になってる気がするわ…封印が解けかかってるのかしら」
「俺も母上と似ている部分があるが、やはりメグもだったか…これは間違いに気付かずにいれば、大変な事になっていたな…」
あー、なるほど、たまにある陛下のKYなとことか、自分本位に話しちゃう感じは母親譲りだったわけね。
んで、王妃様にベタ惚れってところは父親譲り、と。
真面目にやれば出来るってところも父親譲りってか?
「多分ソフィア様は善意でやってるつもりなのでしょうな。滅多に会えない孫娘と関わりが持ちたくて、自分の経験談から助言をする。但し前提条件が異なる事で全く役に立たない助言と化している」
「前提条件が異なる、じゃと?」
「まず、先代陛下…ガルフィ様が先にソフィア様へ一目惚れなされたんです。そしてソフィア様がその後懸想なされ、そして『チャーム』が発動した。その状態で我儘を言えば…それは上手くいくでしょうな。対してユージェリス殿がマーガレット王女様を従兄弟又は王女様としてしか見ていない状態で我儘を言えば…まぁ、その、お言葉ですが好意を持たれる可能性は薄まりますな」
「うぅっ…」
「恋愛感情持ってない相手から我儘言われても、めんどくさいだけよねぇ…私もそうだったけど」
「ベティ?!まさかそれって俺の事か?!」
「ユージェは優しいから、マーガレットとの約束で悪い事をしたら諌めてから頭を撫でて褒める、というやり取りをしていたし、マーガレットの勘違いを助長させていた、と」
「ねぇ聞いてる?!」
「お、お祖母様にユージェの態度を伝えたら、絶対大丈夫だって言うから…」
「ベティが無視する…あぁ、そういえば父上もよく『しょうがないなぁ、ソフィアは可愛いんだから』とか言いながら頭を撫でてたなぁ。今思い返せば2人と似ていなくもない」
「…変なところが似てしまったのかもな、ユージェリスも」
もう…なんなのこの状態…
みんなが生暖かい目で僕を見てくる。
ハヤクカエリタイ。