正直な気持ち
さすがに今の発言はいただけない。
ベティ様は親だぞ?
しかも王妃でもある。
そんな態度を取っていいはずがない。
「メグ様、今のお言葉はよろしくありません。ベティ様に謝って下さい」
「で、でも妾とユージェの話を遮った母上が悪いのじゃぞ?!」
「それを言うのであれば、メグ様は私や陛下方との会話を遮って入室しております。しかも挨拶もなしに。淑女にあるまじき行いです」
「…そ、それは…」
「…メグ様、私は、そういう自分勝手な行動しか出来ない女性に嫌悪感を抱きます。いつまでもそのような態度を取られるのであれば、メグ様と距離を置く事も考えさせていただきます」
「そんなっ…!!」
メグ様が涙を目に溜めながら僕を見る。
さすがにメグ様が悪いからか、陛下やベティ様も僕を責めるような事はしなかった。
「…なんで、なんでじゃ…こうすればユージェと結ばれると言っておったのに…なんで…」
…うん?なんかメグ様が気になる事を呟いてる。
それはベティ様にも聞こえていたようで、少し眉間に皺を寄せながらメグ様の肩を掴んだ。
「マーガレット、今の発言はどういう事ですか?」
「は、母上…?」
「誰にそんな事を言われたのです?こうやって我儘を言えば、ユージェと結ばれるですって?馬鹿を仰い」
「そ、それは…秘密なのじゃ…」
「…このまま、ユージェに嫌われてもいいというのね?」
「嫌じゃ!妾はユージェが欲しい!」
「…メグ、ユージェリスは物じゃないぞ?そういう独占欲は夫婦や婚約者の関係になってからでないと」
おぉ、珍しく陛下までメグ様に突っ込んでる。
たまにはまともな事言うじゃないですか!
「そうよ、陛下だって私と婚約解消してる間に似たような発言して、私から距離を置かれたんだから」
「ベティ…」
あ、経験者は語る、でしたか。
陛下も涙目になってるよ。
そしてメグ様は顔を真っ青にして僕の方を見る。
「…ユージェ…妾の事が嫌いなのか…?」
「…今ここでハッキリ言わせていただきますと、全くと言っていいほど、思慕の念は抱いておりません。メグ様のお忍びに付き合っていたのも、貴女が従兄弟であり、この国の王女様だったからです。愛し子とは言え、私も一応臣下の息子ですからね。王族からの命令に従ったまでです。後はベティ様から頼まれたから、というのもありますが」
「…妾を、女として…異性として、見てくれた事はない、のか…?」
「恐れながら、1度も」
「じゃ、じゃあ…妾が今までしてきた事は…」
「どちらかと言えば、逆効果かと」
「…そんな…」
メグ様はふらつき、側にあったソファに座り込んだ。
うーん、誰かがメグ様に吹き込んでたみたいだな…
そんな事して、誰が得をするんだろ?
陛下とベティ様は違うし、僕がメグ様と結婚する事になって喜ばしい人…いなくね?
メグ様を次代で即位させたいと思ってる一派でもいるのかな?
それなら僕との繋がりを欲する理由もわかるんだけど…
でも基本的には第1王子が学院卒業して、正式に王太子に任命されれば、それを覆す事なんて難しいのに…
「…マーガレット、どうしてあんな行動をしていたのです?」
「…お祖母様が…」
「「お祖母様?」」「「「「はぁ?!」」」」
様々な声が重なる。
僕と副団長さんはお祖母様という単語に疑問を持って発したけど、どうやら他の4人は軽くキレ気味のようだった。
え、お祖母様って、どういう事?
メグ様のお祖母様って、例のベティ様と仲が微妙な学院長と先代王妃様のどっちかだよね?
「…お祖母様って、まさか先代王妃様の事…?」
「う、うぬ、ソフィアお祖母様じゃ」
メグ様の言葉に、4人の反応はそれぞれ異なっていた。
陛下は机に突っ伏し、ベティ様は青筋を立てながら口元が笑顔のままヒクヒクしてる。
宰相さんは持っていた本?を落として、父様は頭を抱えて唸っていた。
というか宰相さん、眼鏡にヒビ入ってない?
え、何、先代王妃様ってなんかあるの?!
確か昔、父様から先代の2人は旅してるって聞いた気がするけど…
「…あの、何かご存知ですか…?」
「いえ、私は特に…」
小声で尋ねてみたが、どうやら副団長さんも知らないようだ。
しょうがないので、父様に目線で訴えかける。
気付いた父様は少しため息をついてから、唸るように言葉を捻っていた。
「先代王妃様…ソフィア様はなぁ…その、なんというか…色々と問題があるというか…」
「ルート、言いづらいだろうから、俺から話そう」
「陛下…」
「ついでだ、右翼の副団長とメグも聞いておけ。この話は政治に関わる一部の上層部しか知らん事だ」
「はっ!」
「う、うぬ」
陛下がため息をついてから、覚悟を決めたように顔を上げた。
な、何を言われるんだ…?