瞬殺
「よし、では出発する!」
「「「「「はっ!!」」」」」
父様の号令に、魔法師団と騎士団の両方が返事をする。
…なんか、父様だけいれば良くない?
騎士団長いる?
にしても、この人数で移動って大変だな…
「父様、ちょっといい?」
「ん?どうした?」
「転移魔法で行かない?」
「…この人数、行けるのか?」
驚愕の表情をする父様に、僕は頷く。
転移に必要な魔力って、人数じゃなくて距離なんだよね。
『エリア』で範囲指定すれば、多分飛べる。
「…魔力、足りるのか?」
「余裕だよ」
実は、僕の今のステータスは凄まじい事になっている。
こーんな感じ。
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ユージェリス=アイゼンファルド
職業・アイゼンファルド侯爵家次男、リリエンハイド王立学院生(第1学年)
称号・精霊の愛し子
年齢・12歳
属性・火/水/地/風/雷/光/闇/聖/時/無
HP・2050/2050
MP・制限なし
戦闘スキル・剣術∞、槍術∞、弓術∞、投擲∞、格闘∞、体術∞、狙撃∞
生活スキル・料理∞、清掃∞、作法∞、歌唱∞、舞踊∞、乗馬∞、錬金∞、調薬∞、付与∞、採取∞、裁縫∞、演奏∞、彫刻∞、作成∞
特殊スキル・気品∞、暗記∞、身体強化∞、鑑定∞、幸運∞、手加減∞、察知∞、危機回避∞
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なんとMP制限なし。
10歳くらいでこんな状態になってた。
最初見た時、普通に固まったわ。
こんなん誰にも言えません。
他にもこの数年で増えたスキルもある。
「可能なら早速頼む」
「はーい!《エリア》!」
僕を中心に、白い光が周りを照らす。
「討伐参加者はこの光の中に入るように!王都民は少し離れるんだ!!」
父様がさっと指示を出す。
少し騒ついた後、人々は移動を始めた。
うん、良さそうだな。
「では…《ワープ》!!」
白い光が僕達を包み込み、目の前の景色が揺れる。
次に目を開くと、そこは森の入口だった。
転移を始めて経験した全員は、なんだかさっきよりも騒がしくなっていた、特に魔法師団。
…テンション上がっちゃった感じかな?
父様が声を上げて黙らせてる。
それにしても、まだ魔物達が森から出てなくて良かったなぁ。
緊急時の結界が起動してるみたいで、森には光の壁が張り巡らされてる。
人間の出入りは可能でも、魔物の出入りは不可能って感じだ。
でも場所によっては結界が薄いなぁ…
…察知スキルが、魔物の位置を示している。
「父様、ご指示を下さい」
「…そうだ、な…」
おや?父様があのおっさんをチラリと横目で見た。
おっさんは未だに転移魔法にテンションが上がってなんか叫び声上げてる。
「…ユージェリス、お前はこの森に天災級が何匹いると思う?」
「えっと…察知してるのは20匹かな?後は災害級が10匹、自然級が50匹いないくらい?多分何匹か自然級が既にここから出てっちゃってると思う」
「私と同意見だな…現在、魔法師団が私と第1〜6までの計49名と、騎士団がアイツと第1〜3までの計61名いる。今回はスタンピードなので騎士団の第3〜5は王都の周りに配置予定で我々とは別行動だ。第7魔法師団と第6騎士団は王都内にて警備に当たっている。私は最近のお前の力がどこまで上がっているかは知らないが、毎日トレーニングをしている事は知っている。だからあえて聞くが…何匹倒せる?」
いやん、筋トレしてたのバレてた。
うーん、何匹かぁ…
ぶっちゃけた話、森の中に1人で入ってバトルロイヤル出来る自信はある。
でもそれやっちゃうと、父様達の功績がなんもないんだよねぇ…
でも普通なら天災級1匹で殆どの人が出動案件なわけだし、ここは天災級と災害級だけ僕担当としてもらおうかな?
自然級50匹でも凄い功績でしょ。
約100人いるわけだし、それはなんとかして下さい。
「じゃあ、僕は天災級と災害級を討伐するね。自然級はお願いします」
「…簡単に言ってくれるな。まぁ頼もしい限りだが、油断はするなよ?何かあれば私を呼びなさい」
父様が少し呆れたように笑い、僕の頭を撫でてくれた。
ちょっと照れくさいけど、めちゃくちゃ嬉しい。
よーし、張り切っちゃうぞぉ!!
「今より作戦を発表する!魔法師団は私と師団長以外で新たにこの場を囲むように結界を張れ!森の結界と一部を融合させて、少しずつこの場に魔物を引き込むんだ!騎士団全員と魔法師団長、騎士団長と私の計68名で自然級約50匹を討伐する!災害級、天災級は全て愛し子様が討伐して下さるので、現れても手を出すな!!」
父様の言葉に、動揺が走る。
特に騎士団の方で不満げな顔をしている人が何人か見られた。
「おいおい、ルートレール!バカな事言ってんじゃねぇよ!!」
おや、あのおっさん、もしかして僕の事心配してくれてるの?
意外だなぁ。
「いくらなんでも全員で手ぇ出さねぇと倒せねぇに決まってんだろ!!このガキは魔物を引き寄せる餌くらいしか使えねぇだろ!!」
…前言撤回。
コイツ、絶対何があろうとも助けない。
僕は心に誓った。
「…それはこの子の実力を見てから言うんだな」
〈GyAgGggLLaaaa!!!!!〉
父様の言葉は、魔物の怒号によって掻き消される。
その声の主は、結界の薄いところを通り抜けてきた狼の魔物だった。
うーん、中々大きい、動物園とかの象より大きそうだ。
【狼の魔物(天災級)→左後ろ足に魔石あり】
さすが鑑定スキルさん、仕事が早い。
やっぱり天災級かぁ。
…おや、さっき不満げな顔をしてた騎士団の人とかの顔が青ざめて震えてる。
君ら、自分でコレを倒す気だったんじゃないのかい?
「で…出やがった…!!!」
おや、おっさんも顔色が悪い。
震えてますけど、武者震いですかぁ?
「ユージェリス」
「はい、父様」
僕は全員の前に立ち、鞘から剣を抜く。
そのまま魔物に向かい合い、軽く深呼吸。
そして、身体強化スキルで一気に駆け出した。
元々は狼、動きは素早いが僕の速さには付いてこれないらしい。
真横に現れた僕に警戒の目を向けた時点で、全ては終わっていた。
「…残念、もう終わりだよ?」
〈GgYAAaaaa…?〉
訝しむような声を発しながら、狼の魔物の首が地面へと落ちる。
その数秒後、辛うじて立っていた胴体部がゆっくりと崩れていった。
鈍く大きな音を立てた魔物の死体を前に、全員が言葉を失っているようだ。
あ、父様はため息ついてる。
しかもあの表情は見覚えあるな。
確か誇ればいいのか自分を情けなく思えばいいのかって悩んでた時と同じ顔だ。
とりあえず僕はあの時と同じように笑顔でサムズアップしておく。
おぉ、父様、力なく手を振り返してくれた。
「…なんだよ、今の…化物じゃねぇか…」
…この混乱に乗じて切り刻んでやろうか、このおっさん。