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苛立つ師長《sideルートレール》

半刻前に伝えられた内容は、緊急を要した。

まさか天災級のスタンピードなど…

確かに、ユージェリスと数年前に行った際にも2体の天災級に遭遇した。

その後、騎士団数名と共にうちの師団が現地にて調査をしたが、ただ森の奥で潜んでいた個体が出てきたという結論に達して終えていた。

それ以外に要因が考えられなかったからだ。

あれ以降天災級など出現しなかったというのに…


「師長、そろそろ地の門です。門が閉まったと同時に最高速度での移動に変更という事でよろしいでしょうか?」

「あぁ、それで構わない。騎士団の方はどうだ?」

「何名かが先走って駆け出そうとしていますが、別の者に止められています」

「全く、協調性に欠ける奴らめ…」


現在、王都内では馬や馬車に乗って移動しているが、速度は通常通りとしている。

何故なら道を歩いている王都民の人数が多く、事故が起こる可能性があるからだ。

また、我々が焦った表情や行動を見せる事で、不安を煽るような事をしてしまう事を避ける目的もある。

既にスタンピードの情報はどこからか流れているらしく、道行く王都民がこちらを不安げな表情で見ていた。

だが血の気の多い騎士団の若い連中は、早く自分で魔物を倒して手柄を上げたい気持ちが先走る事があり、こうやって和を乱す。

天災級の魔物と遭遇した事のない奴は、これだから…

また騎士団長が注意しないものだから、我々が目を光らせておく必要があるのも億劫だ。

アイツは力こそ全てだと思ってる人間だからな…

なんであんな周りを見れない奴が騎士団長なんだか。

早くまともな右翼の副団長(長女)にその座を譲ってもらいたいものだ。


そういえば、ユージェリスは間に合うだろうか。

屋敷に使いは出したが、屋敷にいなければ余計に時間がかかる。

この案件は王命扱いだからなぁ…

すぐに見つからないとなると、王妃様が前線に出られる必要がある。


「おい、ルートレール。噂の息子は本当に来るのか?」


…少し前を進んでいた騎士団長が、態々並ぶように馬を下げてきた。

急いでるってのに…


「…使いは出してあります。あの森には行った事がありますので、すぐに追い付くでしょう」

「だがなぁ、まだ12のガキだろ?いくら愛し子とは言え、そんな小僧が役に立つのか?」


コイツは…!!

いくら俺の息子だからとは言え、様付けにしないとは…!!

ユージェリスはそれで試験の点数落としたんだぞ?!


「…息子は十分、私よりも強いです。きっとお役に立ってみせますよ」


というか、お前よりも絶対強いからな?

数年前の時点で天災級を一刀両断してるんだぞ?

お前は1人で倒す事も出来ないだろうが!!!


…いかんいかん、荒ぶってしまった。

笑顔が引き攣ってしまう。

…どうやら隣のアレックス達にはバレているようで、そちらも顔が引き攣っている。

魔法師団(うちの連中)はなんだかんだユージェリスと多少の関わりがあったりするからな。

それに何より愛し子様についての発言を許せないんだろう。

既に何人か殺気立ってる奴もいる。

…コイツは、他国からの婿養子だからな…

愛し子様に対して敬うという気持ちが王国民よりも欠けている。

亡くなられた奥方様が唯一の跡取りで、元々はその方が騎士団長だった。

その娘である右翼の副団長が正統な騎士団長の後継者と言える。

つまりコイツは右翼の副団長が経験を積み、騎士団を纏め上げる事が出来るようになるまでの繋ぎだ。

ユージェリスの1つ上の長男というのは、後妻との間に出来た子だと聞く。

きっとその子は家督を継ぐ事はないだろう。

多分陛下や王妃様もお認めにならない。


「お前より強い、ねぇ…それって魔法の腕だろ?魔法じゃ倒せない魔物だっているじゃねぇか、足手纏いはごめんだぞ?」

「お言葉ですが、以前息子が倒した天災級のうちの1体の死因は剣での攻撃によるものです。ご確認いただけていると思っていましたが?」

「あぁ?実物は見てねぇよ、報告書は確認したがな。どうせ魔法で強化した剣で偶然致命傷与えられただけだろ」


…コイツ、実物確認してなかったのか…!!

本当に使えない奴だな…


「…師長、まもなく地の門になりますので」


怒りの篭った声を抑えつつ、ロイドが私に告げる。

…きっと娘と仲の良いユージェリスの為に怒っているんだろう。

優しい男だ。

私はロイドの言葉に頷き、騎士団長から離れる。

地の門を出る前に、王都民と騎士団、魔法師団へ向けての演説をする事になっていた。

本当なら騎士団長であるアイツがやるべきなんだが、生憎王都民からの信頼というか好感度が低い。

しかしそれにも気付かずに、面倒くさいからという理由で私がやる事に不服を申し立てた事がない。


地の門前の広場に魔法師団と騎士団を整列させて、私は王国の紋章のモニュメント像前の階段に登る。


しかしその瞬間、その場の魔力が乱れた。

私の察知スキルによって反応したのは私と魔法師団、騎士団の間だった。

その場に目をやると、空間が歪んだように揺れる。

周りの騎士団の人間達は突然の事に臨戦態勢を取った。

だが魔法師団の我々には見覚えのあるものであり、少し呆気に取られている。

そうして現れたのは…黒いマントに黒い仮面を付けた、銀髪の少年だった。


…これ、ユージェリスだよな?

なんだかいつもと雰囲気が違うが…


「…ユージェリス?」

「…あ、父様。良かったぁ、間に合って」


あははは、と軽く笑いながら、ユージェリスが頭を掻きつつ立ち上がる。

…どうやら間に合ったようだな。

以下、補足。


騎士団には騎士団長の下に副団長が2人いますが、『右翼の副団長』と『左翼の副団長』という通称があります。

現在の『右翼の副団長』は騎士団長の長女(24歳)、『左翼の副団長』は右翼の婚約者候補のゴリマッチョ伯爵子息(38歳)です。

ただし右翼は左翼にそういう興味なし、ゴリマッチョなおっさんは好みじゃない。

左翼は右翼にベタ惚れです、美人だし強いし。

どちらも剣の腕はピカイチ、きちんと実力あります。

ぶっちゃけ騎士団長よりも強い可能性があります。

そして騎士団長よりもお仕事が出来ます。

なので騎士団員達もさっさと世代交代してほしくてたまらない。

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