王命
まさかの100話目です。
これからも頑張りますので、よろしくお願いします!
「レオ、はしたないぞ」
「そうですわ、まずはご挨拶なさったらいかが?」
「レオ、やっほー!」
「やぁ、レオ。僕ならここだけど?」
いつものレオらしくない、切羽詰まったような声と表情だった。
こんな声出したの、あの『ティッキーディッキー』以来かな?
あー、最近あの人達のところ行ってないなぁ。
どうやら僕達がラペルピンを社交界で付けるようになって、ヒット商品になったみたいだけど。
「いやいやいや、今それどころじゃないんだってばぁ!ユージェ、今すぐ王城か地の門に向かった方がいい!」
「王城か、退場門の地の門だって?なんでまた」
「親父殿に情報が入ってきたんだよ!グリーディアの森に天災級のスタンピードだって!!」
「「「「なっ…!!!」」」
レオの言葉に全員が固まる。
ちょっと待て、意味がわからない。
グリーディアの森って、確か僕が初めて魔物と戦ったところでしょ?
いやまぁ、あれ以来倒した事ないけど。
いくら王都から離れてるとはいえ、馬車で1〜2時間程度のところだったよ?!
天災級の馬とかいたら、1時間以内で王都に着くでしょ!!
「…これ、王命案件?」
「絶対に。僕、親父殿にユージェと今日会う事言ってたから、出かけるの引き止められてこの話されたんだもん」
「もしかして、父様、僕を探してるかな…僕の今日の予定知らないんだよね…母様もどこかのお茶会行ってていないし…」
「なら余計に王城行った方がいいかもな」
「いや、王城にはもういないかもしれない。第1〜6までの魔法師団はすでに騎士団と共に出発準備を終えてるらしいから、きっと地の門から王都を出ようとしてる」
うん、つまり、さっさと追いかけた方がいいかもしれないって事だね!!
本当は陛下からキチンと王命として『王命嘆願書』っていう書面を頂いて、愛し子としてそれに署名しなきゃいけないんだけど、そんな時間が勿体なさそうだ。
折角勉強しておいたけど、これは事後承諾扱いかな?
僕は素早くアイテムボックスを開き、例のマントと剣を取り出す。
ちなみに剣は身長が伸びた分、去年の誕生日に新しい物をもらいました。
見た目は一緒だけどね。
「ふわぁ、ユージェカッコいい!!」
「そのマント、デビューの時の物ですね。そうやって丈の長い方が素敵です」
「確かにいいが、それじゃ顔が丸見えだぞ?」
「あー、確かにそれで地の門に現れたら、ちょっとねぇ…『ユーちゃん』の時の顔見知りがいたらバレちゃうよ」
…それもそうか。
じゃあ顔を少し隠していこう。
僕は再びアイテムボックスを開き、その中に手を突っ込んだ。
取り出したのは、◯キシード仮面様的な目元を隠すタイプの黒い仮面だった。
アクセントとして、右側に白いラインストーンが模様のように付いている。
前になんとなく作ったやつの1つだけど、ちょうど良かった。
他のはゴテゴテしてたり、色が派手だったりするから、黒いマントに合わせるなら黒だよねぇ。
「え、何それ!」
「使用者が念じないと外れない仮面。つまり暴れても外れない」
「うん、それなら顔半分隠れるし、わかんないかも?」
「では、さらにこうして…ルーファス君、整髪料あります?」
「ん?…ほら、これでいいか?」
「ありがとうございます。こんな感じで…うーん、ここをこうして…よし、いかがでしょう?」
ナタリーにされるがまま、髪を弄られる。
鏡の前に立つと、いつもと違った雰囲気になっていた。
右側の前髪だけ後ろに向かってかき上げて、ワックスで固定。
全体的にワックスで纏めている。
いつもサラサラヘアーを右耳にかけてるだけだしなぁ。
それで仮面を付けてポーズを取ると、ナタリーは満足そうに微笑んだ。
「うわぁ、もっとカッコよくなった!仮面のキラキラ光ってるのも目立っていいね!」
「いつものユージェっぽくないな、凄い」
「ルーファス、いるか?!?!」
なんと今度は焦ったような表情で、宰相さんが飛び込んできた。
そして僕の姿を見て、一瞬固まる。
「…えっと…?」
「ジェイク様、ご無沙汰しております」
「…ユージェリス殿か?!」
「はい、こんな格好で失礼します」
「これは僥倖!実はユージェリス殿に伝えねばならん事が…!!」
「父上、レオから聞きました。魔物の事でしょうか?」
「…さすがだな、レオナルド」
「恐れ入ります」
「今から父と合流してきます。地の門でいいですか?」
「あぁ、それで構わないんだが…その前に、ここに署名を頼めるか?」
宰相さんが手で握り込んでいた紙を僕に差し出す。
受け取って開くと、それは『王命嘆願書』だった。
あれっ?なんで宰相さんが持ってんの?!
「…この書面は歴代の陛下が管理するものなんだが…どこにしまったか忘れてしまったそうでな…王妃様が『サーチ』で王城内を隅々まで探して下さったんだが、陛下の管理が杜撰で見つかったものは半分千切れていてな…直すにもあれは特別な紙を使っていて、すぐに用意出来るものではないから、こうして予備に我が屋敷にしまってあった陛下の署名済みのこれを取りに来ていたんだ…」
あぁ、宰相さんの目から光が消えていく…!!
陛下が最近ダメな子過ぎてツライ。
…いや、昔からか。
そろそろベティ様が本気で雲隠れしそうだ。
「え、えっと、記入していいですか…?」
「よろしく頼む」
力なく、宰相さんが頭を下げる。
いつもなら止めるんだけど、今はそれどころじゃないので一旦スルー。
寧ろ申し訳なさでいっぱいなんだろうな、きっと。
僕は自分の右手の人差し指を剣で少し傷付けて、少量の血を流す。
署名に必要だとはいえ、地味に痛いし。
そして詠唱が恥ずかしいけど、致し方ない。
「《我が名は精霊の愛し子、ユージェリス=アイゼンファルド。古よりの誓いのもと、我らに敵対する者共を葬ってみせよう。今ここに誓約する、“プロミス”》」
詠唱と共に、嘆願書に血を垂らす。
血が染み込んだ嘆願書は一瞬光り、そして落ち着いた。
…うん、署名欄に僕の名前があるね。
こうしないと書けないとか、微妙に不便。
でもその代わりに、誓いを破る事は出来ないようになっている。
もし僕が相手を倒せなくて死んでしまうと、僕の代わりに精霊が国を守ってくれる…らしい。
いや、実際に破った人いないからわかんないんだよね。
ちなみに自然災害の時の王命なら、詠唱内容が少し代わります。
「ジェイク様、こちらを」
「すまない、ユージェリス殿。こんなところで…」
「構いませんよ、時間がないですしね。では、行って参ります」
「ユージェ、気をつけろよ」
「油断しちゃダメだからね!」
「待ってるから、ここに帰ってくるんだよぉ?」
「ずっと待ってますからね!」
「うん、ありがとう。じゃあ、行ってきます。《ワープ》」
みんなの不安そうな顔を見つつ、僕は地の門まで転移した。