エロ本と官能小説
今日はなんとなく、2つ目の更新。
父様を見送って、玄関には僕とリリーとレリックが残っていた。
さて、図書室の本は読み込んだし、何をしようかな?
「レリック、うちにある本は図書室にあるのが全て?」
「はい、基本的には。他は各個人の私物の本が私室にあるくらいです。旦那様や奥様の個人的な趣味の小説であったり、ロイヴィス様やフローネ様がお持ちの絵本ですとか、そういうものですね」
そうか、とりあえずそれも読み込んでみるかなぁ…
屋敷全部を範囲指定すれば、いけるか?
「じゃあ…《エリア》からの《リーディング》」
僕を中心に光が一斉に広がる。
大体5秒くらいで全ての確認が終わった。
さっきより量が少ないからか、慣れたからなのか、今度は呻くほどじゃなかったな。
でも、一瞬見えたあの本は…
「…誰だよ、エロ本と官能小説持ってるやつ」
「「は?」」
つい呟いてしまった言葉に、2人が反応する。
そしてリリーの顔は赤く、レリックの顔は笑顔になっていった。
「ユージェリス様、どちらでその本を見つけられたのか、お判りでしょうか?」
あ、レリック、笑顔だと思ったけど、目が全然笑ってなかった。
すっげぇ怖い、知らん振りはしない方が良さそうだ。
「えっと、どこかな…ちょっと待ってね。《エリア》からの《サーチ:エロ本と官能小説》」
『サーチ』はさっき図書室で見た無属性魔法一覧に載っていたものだ。
探し物をする時に役立つとあったので、試してみた。
あ、なんか引き寄せられる感じがする!
こっちって事かな?
同じ場所にあるっぽい。
「こっちだよ、レリック。どこに行くかわかんないから、付いて来てくれる?」
「もちろんです。よろしくお願い致します」
絶対零度の微笑みで、レリックが頭を下げる。
リリーはまだ少し頰を赤らめたまま、レリックの後ろに付いた。
僕は引っ張られる方に歩き出す。
2階に上がり、魔法の赴くままに歩いていく。
どこだろう、ここ。
「…この部屋っぽい」
「…チッ、セイルの野郎…」
こっえぇー!!!舌打ちしたぁー!!!
ってかセイルって誰?!
ちょっとオロオロしつつ、リリーに目線を向けた。
リリーは少しため息をつきつつ、僕の耳元へ口を近付けた。
「セイルとは、この屋敷の料理長になります。見た目は少し厳つい感じの男ですが、中身は軽いというか、その…ちょっと下品と申しますか…」
リリーの言葉が淀む。
なるほど、メイド達からするとめんどくさい感じのセクハラ上司か?
レリックにとっては部下ってよりかは同僚かな?
一応、料理長なわけだし。
そんなレリックは怒気を隠さず、勢いよく部屋の扉を開けた。
扉は壊れそうな音を立ててる。
「うぉっ!びっくりした!」
部屋の奥にあるベッドに寝っ転がっていた男は、驚いたように飛び起きた。
中々ガタイのいい体に、肌が地黒のスキンヘッド。
瞳の色は茶色かな?
全体的に、確かに厳つい。
「なんだよ、レリックじゃねぇか。脅かすなや。俺は今、昼食までの休憩中なんだよ」
「セイル、厨房の片付けが終わったら私の所に来なさいと言いましたよね?」
「あー、なんかそんな事言ってたナァ、忘れてたぜ」
あ、レリックの顔に青筋がっ…!!
思わずリリーの後ろにしがみついた。
体の年齢に引きづられてるのかな?
超怖ぇ!!!
「…ユージェリス様、例の物はどちらに?」
「へ?ユージェリス様?」
青筋を立てたまま、レリックが笑顔でこちらを見る。
僕がいる事に驚いたのか、セイルは目を丸くしてこちらを見た。
「えっと、あの…あの机の右の棚の下から2段目と、サイドテーブルの上の本と本の間のやつ…」
「はぁっ?!なんでそれを?!」
僕の説明を聞くと、セイルは目に見えて慌て出した。
その隙に、レリックは物凄い速さで所定の場所を暴いていく。
気付いた時には、2種類ともレリックの手の中だった。
「あぁっ!!俺のとっておきぃ!!」
「子供の教育に悪いものは持ち込まないという掟を破りましたね?これは罰です。《エアカッター》《バーン》」
ふわりと本が手から浮き上がり、突如現れた小さな旋風に切り刻まれる。
そして残った紙の屑は、燃えて灰になった。
なるほど、いい使い方だ!
一方、セイルは涙目で発狂しながらそれを見ていた。
「ああああああああ…!!!!俺の女達が…!!!!」
「全く、情けない」
「何すんだよぉ!!しかもなんでわかったんだよぉ!!」
「掟を破ったのは貴方です。それ相応の罰は必要でしょう。場所の特定はユージェリス様が『リーディング』された事で発覚し、『サーチ』をしていただいた。とても素晴らしい魔法でした、さすがはユージェリス様ですね」
あ、とっても晴れやかな笑顔だ、もう怖くない。
リリーの後ろから現れて、レリックの横に立つ。
目の前のセイルは膝から崩れ落ちていたため、僕と目線が随分近かった。
「…坊ちゃん、本当にお元気になったんすね…それは良かった、けど…あれ?坊ちゃん、魔法使えるんすか?まだ習ってなかったっすよね?しかもなんで俺の部屋を『リーディング』したんで?」
「うーんと、本で読んだから?あと、別にこの部屋を指定して読み込んだわけじゃなくて…」
「…セイル、今から話す事はまだ屋敷の一部の人間しか知り得ません。他言無用です、わかりましたか?」
「え、あ、あぁ…」
「…ユージェリス様は、『精霊の愛し子』様となられた」
「…は?」
セイルの涙が止まる。
口をぽかーんと開き、目も丸くしていた。
「…するってぇと、何か?坊ちゃんも別人みたくなってるってぇのか?」
「えぇ、ちなみに以前の記憶もありません。なので改めてご挨拶なさい」
セイルがこちらを見る。
僕もセイルを見た。
「…アイゼンファルド侯爵家料理長の、セイルと申します。誠心誠意、美味い料理を作りますんで、今後ともよろしくお願いします…」
「あ、うん、よろしくね」
「…確かに、ちょっと雰囲気が違うな…それに、その髪…本当に、愛し子様になったんすね…」
「さて、ユージェリス様。この者へ罰をお与え下さい」
「「はい?」」
レリックが突然不思議な事を言い出した。
え、罰って、さっきレリックがしたじゃん。
どゆこと?
「ユージェリス様へ不快な物を見せた罰をお与え下さい。貴族の方が使用人の全てを許容してはいけません。悪いものは悪い、ときちんと罰を与えなければ、付け上がってしまいますからね」
「お前それ俺に嫌がらせしたいだけだろ!!!」
「何を言ってるんですか。正当な意見ですよ」
まぁ、確かにわからんでもない。
不快からどうかと言われれば、ぶっちゃけどうでもいいし、あれくらいのものなら前世のエロ本とかのがエグかった。
この世界のエロ本ってまだまだ可愛いもんだよね!
でもまぁ、掟を破ったなら罰するのは主人の役目か。
うーん、何にしようかなぁ。
「…あ」
「決まりましたか?」
「なんでもいいの?」
「はい。減俸だろうが鞭打ちだろうが、お好きな事をお申し付け下さいませ」
「レリックてめぇ!!!」
「じゃあさー…」
僕はセイルの頭に手を乗せた。
さっきのレリックの晴れやかな笑顔を真似して。
セイルは何故か、顔を真っ青にして涙目で震えていた。
「僕、料理してみたいから、セイルは何が出ても食べ切ってね」
味見(毒味)役、ゲットだぜ☆
大丈夫大丈夫、僕、(多分)料理上手いから!