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第2話‐1 憂鬱
視界に映るのは、闇色の壁と床。視線を上げれば、天井さえも当然のように黒で塗りつぶされている。ただ、天井と壁、床の境界線だけは申し訳程度に白で描かれていた。
見慣れすぎたその空間の中央を見やると、たくさんの彼岸花が咲いている。モノクロの世界に似つかわしくないほどの鮮やかな赤。見る人を魅了するだろうそれは、しかし『彼女』の心を明るく照らす効力はなかったらしい。
小さなため息がもれる。
無意識のうちについたそれは、空虚な心を憂いてのものか、それとも静寂が支配するこの世界に向けられたものなのか。
ただ一つ確かなことは、『彼女』以外誰もいないということ。人はおろか、動物や虫さえもいない。『彼女』は本当の意味での孤独だった。
……さみしい。
空虚な心に広がる感情。いつしか、それは形を変えて『彼女』の頬を濡らしていく。
だから、『彼女』は呼び続けた。自分に気づいてくれる『誰か』を……。