第1話‐8 帰り道
「あいつ……」
帰り道の車内で、蒼矢がおもむろに口を開いた。
「ん?」
「あの狸、逝く直前に言ってたぜ。『ありがとう』ってな」
「やっぱり、供養してもらいたかったんだろうな」
「じゃねえの? 穏やかな顔してやがったぜ」
憎らしいくらいにと、蒼矢は悪態をつく。
運転中の二階堂は横目で蒼矢を見やり、素直じゃないなと内心で独りごちた。蒼矢の表情は、非の打ち所がないほど晴れやかなものだったのだ。
それを指摘すると面倒なことになりそうなので、二階堂は話題を変えることにした。
「昼食、どうしようか?」
「あ?」
蒼矢はまったく考えていなかったのか、まぬけな返事を返した。
カーナビに表示されている時計を見ると、午後二時三十分を回ろうとしていた。
「あぁ……もうそんな時間なのか。なんか急に腹へってきた……」
蒼矢が弱々しい声をあげる。
「じゃあ、久しぶりに回転寿司でも行こうか」
二階堂がくすくすと笑いながら告げると、蒼矢は子どものように瞳を輝かせながらうなずいた。
「いなり寿司食うぞ!」
高らかに宣言する。
笑いを堪えながら、二階堂は回転寿司店へと車を走らせて行った。