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第1話‐6 発端の場所へ

 学校と住宅地とに挟まれた路地を進んでいくと、視界に映る緑の数が次第に多くなっていく。心なしか、空気も先程より澄んでいるように感じられた。


 しばらく行くと、周囲の景色は住宅地から多数の木々へと完全にとって変わる。


 時折聞こえる鳥のさえずりが、心地よい。


「静かだな」


「ああ。学校の裏手なのが嘘みたいだ」


 蒼矢と二階堂がそんな感想を口にすると優太が、


「でしょ? いつも静かだから人気なんだ、ここ」


 と、嬉しそうに話す。


「優太もここ、好きなのか?」


 蒼矢が尋ねると、


「うん! 友達と一緒に、秘密基地作ったりしてるんだ」


 優太は目を輝かせながら告げる。


「秘密基地かぁ、懐かしいな」


「二階堂のお兄ちゃんも作ったことあるの?」


「子どもの頃にね、友達と一緒に作ってたよ」


「本当!? どんなの?」


 見たいとせがむ優太に、二階堂は困ったような笑顔を見せる。


 何せ、二十年くらい前のことだ。もう残ってはいないだろう。


 見せることはできないと二階堂が告げると、優太はがっかりしたようで、


「な~んだ。つまんないの」


 と、口を尖らせる。


 秘密基地談義で盛り上がっていると、唐突に視界が開けた。


 小さな広場のようになっていて、ほぼ中央には大きめの切り株が植わっている。その上に腐乱しかけた狸の亡骸が鎮座していた。


 優太が小さく息を飲む。その表情は、心なしか青ざめていた。


「大丈夫かい?」


 二階堂が心配そうに優太に声をかけると、優太は小さくうなずいた。


「さてと……。じゃあ、やるか」


 蒼矢は努めて明るい声で告げると、切り株に近づいて優太をおろした。


 二階堂も後に続き、二人にスコップを手渡す。


「どこに埋めようか?」


 二階堂の問いに、蒼矢は辺りを見回し思案する。ごく自然に二階堂の肩をうかがい見れば、自身の亡骸を懐かしそうに見つめている狸が切り株の側がいいと無言で告げていた。


「ここでいいんじゃね?」


 そう言って、蒼矢はスコップで自身の足もとを指し示してしゃがみこむ。


 うなずいた二階堂もその場にしゃがみ、


「優太君も一緒に」


 と、声をかける。


 優太はうなずいて、大人二人とともに地面を掘る。


 しかし、切り株の根があるおかげで思うように掘れない。場所を変えればいいだけの話なのだが、二階堂も蒼矢も場所を変える気はなかった。お気に入りの場所に埋葬する、それが狸に対するせめてもの手向けだと思ったからだ。


 地面を掘り始めてから一時間くらい経った頃だろうか。根を避けながら掘り進めた穴は、亡骸を埋葬するのに充分な程の大きさになっていた。


 蒼矢がおもむろに立ち上がり、狸の亡骸を抱きかかえる。そして、切り株の根に寄り添うように置いて埋葬する。


 埋葬が終わると同時に蒼矢はすっくと立ち上がり、来た道へと数歩進んで立ち止まる。


 二階堂と優太はというと、狸の墓に向かい手を合わせている。


 二階堂は狸の冥福を祈り、優太は謝罪とこんなことは二度としないという誓いを告げ、狸の冥福を祈る。


 すると、今まで二階堂の肩に乗っていた狸は、優太の肩に移動して優太の頬をペロリと舐めた。


「――っ!?」


 優太が声にならない悲鳴を上げる。


 二階堂が慌てて優太に声をかけると、優太は涙を浮かべながら、


「い……今、何かが……ぼくのほっぺた、舐めた……っ!」


 声が少し震えている。


 二階堂は落ち着かせるように、優太の頭に優しく手を置き、


「大丈夫。狸が許してくれたんだよ、きっと」


 だから怖がらなくていいと告げる。


 優太は半信半疑だったが、二階堂の確信めいた声音と自信に満ちた表情に、疑念は跡形もなく消え去ったようだ。


「よかったぁ……」


 心底安堵したような声音で、優太はつぶやいた。


 二階堂は優太の頭を優しくなでると、


「さあ、帰ろう」


「うん」


 二人は待っている蒼矢のもとへと歩いていく。


「お待たせ」


 二階堂が声をかけると蒼矢はおうとだけ返し、優太に目線をあわせる。


「顔色よくなったじゃねえか。歩いて帰れるか?」


「うん! 体のだるいの、とれた」


「そうか。じゃあ、帰るか」


 蒼矢の言葉に、優太と二階堂はうなずいてその場を後にした。

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