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幽幻亭~人と妖狐の不思議な事件簿~  作者: 倉谷みこと
第8話 未来のために

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第8話‐4 修行(実戦編‐1)

 二階堂が柚月のもとを訪れてから、十七日目のことである。


 その日も、前日と同じく力のコントロールの特訓をしていた。だが、今日は昨日までとは少し違っていた。テラスの椅子に腰かけながら二階堂の様子を見ていた柚月の姿がないのだ。


 とは言え、二階堂にはそんなことを気にしている余裕などない。一刻も早く強くなって、元気になっているであろう相棒を迎えに行かなければならないのだから。


 ふと、近くに気配を感じた。顔を上げてそちらを見ると、柚月が二振りの刀を携えて立っていた。


「感心、感心。ちゃんとやってるね」


「おはようございます。今日は遅かったんですね」


 と、二階堂。もちろん、模擬刀の光を持続させたままである。


「そろそろいい頃合いかと思ってね」


 そう言うと、柚月は修行を第二段階に移行することを告げた。


「第二段階……?」


 構えを解いて彼女に向き直ると、二階堂はどういうことなのか問いかける。


「これから、模擬戦を行う」


 そう言って、柚月は、持っている二振りの刀の片方を二階堂へと差し出した。


「え……模擬戦、ですか?」


 二階堂はうろたえる。


 戦闘経験は、ほぼ皆無と言っていい。そんな自分がいきなり模擬戦をするなど、あまりにも無謀だと思えてならない。


「大丈夫だよ、本格的な模擬戦じゃないから。実戦形式の修行とでも思ってくれ」


 二階堂の心情を察したのか、柚月は軽く言ってのける。


(何だよ、本格的な模擬戦って……)


 と、苦笑しながら心の中でツッコミを入れる二階堂。


 先程まで使用していた模擬刀を地面にそっと置いてから、差し出された刀を受け取った。


 先程の刀と違い、しっかりとした黒いさやに納まっている。ずっしりとした重さが、その存在感を主張していた。


「これって、真剣……ですか?」


 鞘から刀身を抜きながら二階堂が尋ねた。


「いや、それも模擬刀だよ。ちゃんとした刀鍛冶に打ってもらったものさ」


 柚月はそう説明する。


 ちなみに、先程まで二階堂が使用していた方は、彼女が作り出したものらしい。


「なるほど……」


 二階堂はそう言って、その刀身をじっくりと眺める。どうやら、その美しさに魅了されたようだ。


「さて、そろそろ始めるとするかね」


 と言って、柚月は刀を抜いて構えた。


 彼女を取り巻く空気の変化を感じて、二階堂も構える。もちろん、刀に自身の霊力を乗せるのも忘れない。


「いい面構えだ。それに、力を乗せるスピードも格段に上がってる。確実に成長してるじゃないか」


 嬉しそうにつぶやくと、柚月は自分の攻撃を受けてみろと告げて、二階堂に向かって大地を蹴った。


「え!? ちょっ……い、いきなり――!?」


 まだ武器のきちんとした扱い方も把握していないのにと、焦り戸惑う二階堂。


 だが、そんな二階堂の心情などお構いなしに、柚月は間合いを詰めて刀を振り下ろす。


「――っ!」


 二階堂は、とっさに体をひねり、紙一重で攻撃をかわした。


「……ほう、やるじゃないか」


 柚月は、まさか二階堂が自分の攻撃をかわせるとは思っていなかったようで、感嘆の声をあげた。


「……せめて、武器の扱い方くらい教えてくださいよ。初めてなんですから」


 二階堂が苦言を呈すが、柚月はそれを鼻で笑って聞き流す。


「こういうのは、習うより慣れろ、さ」


 そう言うと、すぐさま次の攻撃をくり出した。


 二階堂は、不快感をにじませながら盛大に舌打ちをすると、ぎりぎりのところで攻撃をかわす。


「ほらほら、逃げてばっかりじゃ修行にならないぞ」


 笑顔でそう言いながら、柚月は攻撃の手を緩めない。


(そう言われても、これじゃあ反撃のしようがないって……)


 そんなことを思いながら、二階堂は避け続ける。


 だが、このままでは埒が明かないのは明白で。二階堂は意を決したように柚月の攻撃を自身の刀で受け止めた。


 金属同士がこすれあう耳障りな音が辺りに響く。両者の力は拮抗しているのか、しばらくの間つばぜり合いが続いた。


(くっ……! さすがに、力が強い。このまま続くとやばいな……。だけど――っ!)


 奥歯をかみしめながら全力で、全体重を刀に乗せて二階堂は柚月をはじき返した。


 よろけて後退する柚月だが、不敵な笑みを浮かべながらすぐに体勢を立て直す。


「あたしの攻撃をよく受け止めたな。実戦経験なしで倒れなかったのは、あんたを含めても数えるくらいしかいないよ」


 と、素直に称賛する。


「それは……ありがとうございます」


 少々肩で息をしながらも礼を言う二階堂だが、表情は険しく武器は構えたままだった。


「二階堂。次は、あんたが攻撃する番だ。あたしを敵だと思って全力で来い」


「まったく、無茶言うよ。……しかたない、見よう見まねでやってみるか」


 ため息をついた二階堂は、そうつぶやいてまっすぐ柚月に向かって駆け出した。


 柚月はと言えば、無防備にも棒立ちのままである。


 間合いを詰めた二階堂は刀を振り上げ、気合とともに振り下ろした。


 しかし、それまで無防備だった柚月に、簡単にいなされてしまう。


「大振りだな」


 冷静に告げる柚月。


 見よう見まねなのだから、しかたがないと言えばしかたがないのだが。


 よろけつつも何とか倒れることだけは回避した二階堂は、それではどうすればいいのかと語気を強めて問うた。


「武器の扱い方は、基本的に振り下ろす時、薙ぎ払う時の速度を上げる。そうしないと、相手に隙を与えてしまうからな」


 と、柚月。


 また、大切なこととして、相手の動向をよく観察することや相手に大技を使用させないことなどをあげた。


 なるほどと納得したように相槌を打つと、


「柚月さん、もう一度お願いします!」


 と、二階堂は改めて頭を下げる。


 柚月はもちろんとうなずいて、


「あたしに傷を一つでもつけられたら、修行は終わりだ。それまで気を抜くんじゃないよ」


 と告げた。


 それを合図に、二階堂が攻撃をしかけるが、簡単に受け流されてしまう。だが、攻撃の手は緩めない。


 先程、柚月が言っていたことはもちろん守っている。それでも、まだ甘い部分があるのか、時折、わずかな隙をつかれて反撃されてしまう。


(くそっ! どうすれば、攻撃当てられる? どうすれば……)


 体勢を立て直しながら思考を巡らせるが、いい方法が思い浮かばない。


 考えていてもしかたがないと、二階堂は思いつく限りの方法で攻撃する。だが、簡単に防がれてしまう。そのくり返し。


 時間が経つにつれ、体力と霊力は消耗していく。


(……ヤバいな。日頃の運動不足が祟ってる。まあでも、霊力の方は関係ないか)


 そんなことを考えながら、柚月との間合いを詰めようと地面を蹴ろうとした。


 その瞬間、がくりと膝から崩れ落ちた。とっさに、刀を杖の代わりにして倒れることだけは回避する。


「あ、れ……?」


 立ち上がろうとするが、両の手足は小刻みに震えて力が入らない。


 ふと、刀を見ると、それまで白い光で包まれていた刀身は、輝きを失ってごく普通の見た目に戻っていた。


(……何だ、これ? どうして――)


 つい先程まで動けていたのに、と二階堂は困惑する。


「そろそろ限界か」


 そうつぶやくと、柚月は二階堂に近づいてひょいと担ぎ上げた。


「うわっ! ちょ……柚月さん!?」


 いきなりのことに動揺する。しかし、柚月は、そんな二階堂の心情など知ったことではないとばかりログハウスへと歩き出した。


「柚月さん、下ろしてください」


「動けないのに文句言うな。……まったく、限界まで無理するんじゃないよ」


 まだ時間はあるのだから焦らなくていい、と。


 そう諭されてしまっては、反論の余地などない。二階堂は、おとなしく柚月に担がれているしかなかった。


 ログハウスに着くと、柚月は二階堂をベッドの上に下ろす。


「明日もあるんだから、今日はゆっくり休め。それと、今後は自分の限界を考えてやること。いいね」


 そう言うと、柚月は姿を消した。


「すみません」


 彼女が消えた空間に、申し訳程度の謝罪を口にする。


 深く息をつくと、二階堂はゆっくりと目を閉じ眠りに落ちていった――。


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