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幽幻亭~人と妖狐の不思議な事件簿~  作者: 倉谷みこと
第5話 天狐

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第5話‐6 激化する戦い

 時は少しさかのぼり、朱音が『胡蝶』に心奪われている時のこと。


 蒼矢が放った蝶の群れは、紫縁の周囲を旋回し、彼を完全に包囲してしまっていた。


 包囲された人物は、幻覚に惑わされて術者がいることなど記憶の外に追いやってしまうのが通常である。


 だが、今回の相手は神様だ。この術に効果がないだろうことは、蒼矢も重々承知していた。だから、これは単なる時間稼ぎ。


 蒼矢は気配を完全に消すと、紫縁の背後に回り武器を勢いよく振り下ろした。大鎌の刃に巻き込まれ、直線状に蝶が霧散していく。しかし、途中で固いものに阻まれてしまった。


 甲高い金属音が響く。その音で、蝶達の動きは完全に止まり、蒼矢が切り裂いたところから左右に波が退くように霧散消滅する。


 蒼矢の刃を受け止めたのは、紫縁が作り出した刀だった。


 小さく舌打ちをする。


 彼が、こちらの動きを読んで行動するだろうとは想定していた。しかし、想定内だとしても、やはり悔しいものは悔しい。


「術の使い方、上手くなったな」


 そう言って、紫縁は優しく微笑む。


「昔の俺だと思うなって言ったろ?」


「そうだったな。だが、あの術を使うには、ちと相手が悪かったな」


 自分には通用しない、と。


 蒼矢を見つめる紫紺の瞳が、そう告げている。


 蒼矢は無言のまま一旦後退し、間合いをとる。武器を大鎌から刀に持ち変え、構え直した。


「ほう? 武器を変えるか」


 紫縁が感心したようにつぶやく。


 以前の蒼矢は、武器を持ち変えることなどなかった。たとえ不利だとしても、気に入った武器をずっと使い続けていたのである。


「ならば、俺もちゃんと相手をしてやるか」


 そうつぶやくと、紫縁は片手で持っていた刀を両手で持ち直し、蒼矢を正面から見据えた。


 両者の間に張りつめた空気が流れる。息をするのも忘れるくらいの緊張感。そんな中、にらみ合う二人。闘志むき出しのその姿は、獰猛な獣のようである。


 にらみ合いが永遠に続くかと思われた刹那、動いたのは蒼矢だった。


 一気に間合いを詰め、刀をふるう。しかし、渾身の一撃は、容易に防がれ弾かれてしまった。


「くっそ!」


 悪態をつく。


「剣筋が甘いな。もっと、鍛練しておくべきだったんじゃないか?」


 紫縁が指摘する。


「うっせえよ」


 そう低く吐き捨て、蒼矢は次の攻撃をくり出した。しかし、攻撃をすれば弾かれる。それのくり返し。何度やっても結果は同じだった。


 一旦後退し、体勢を立て直す。


 紫縁は一つため息をついて、


「まったく、慣れない武器で俺に勝とうとしてるとはな」


 そう、呆れたように言った。


 しかし、蒼矢は無言。どうしたら紫縁に一矢報いることができるのかと、考えを巡らせる。


 たしかに、この武器には慣れていない。しかし、いつもの武器よりもこちらの方が勝算はあるはずだと、そう踏んだのだ。


 だが、いくら策をろうしてもおそらく紫縁には通用しないだろう。神様なのでわりと何でもお見通しなのだが、それ以上に蒼矢の考えがわかりやすいというのもあるのかもしれない。


(……あ~もう、考えてたってわからねえ! とりあえず、手数増やしてみるか)


 とりあえずの結論に至った蒼矢は、紫縁との間合いを詰めるべく足を一歩踏み出した。刹那、殺意を持った銀色のきらめきが視界に入る。


(――っ!)


 驚きもつかの間、体は瞬時に反応し自身が持つ刃でなんとか受け止める。


「戦いの最中に考えごととは、ずいぶんと余裕だな?」


 紫縁が煽る。


「あんたに勝つ算段を考えてたんだよ」


「ほう? それで、何か考えついたのか?」


「さあ、な!」


 言い放ち様、力いっぱい押し返し紫縁を弾き飛ばす。


 紫縁は身をひるがえし華麗に着地すると、


「どうせ何も思いついてないのだろうが、策があるなら見せてみろ!」


 そう言って、蒼矢に斬りかかった。


 ぎりぎりのところで受け流すも、紫縁の攻撃は止まない。それどころか、徐々にスピードが増している。


(くそっ! このままじゃまずいな)


 この状況を打開する策はないかと思考を巡らせる。その瞬間、ほんのわずかだが相手の得物えものから目をそらしてしまった。


 その隙を紫縁が見逃すはずもなく。


(……しまっ――!)


 気づいた時にはすでに遅く。彼の刀は蒼矢を刺し貫こうと、かわすことも刀で受け流すことも出来ない位置にまで届いていた。


 とっさに身をよじり、致命傷だけはなんとかける。が、脇腹に耐え難い痛みが走った。


「ぐっ……――!」


 よろめいて後退する。


 脇腹が痛いだけではなく、熱い。傷口に手を添えると、温かく湿った感触があった。それは次第に自らの手を濡らしていく。どうやら、傷は思った以上に深いらしい。

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