表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幽幻亭~人と妖狐の不思議な事件簿~  作者: 倉谷みこと
第4話 猫

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/64

第4話‐6 露店巡り(前編)

 二人が大通りに戻ると、人通りはさらに増えていた。


 夏の一番暑くなる時間帯ではあるが、先程よりも活気づいている。


「……っ!」


 人が増えたことに恐怖を覚えたのか、朱音は息を飲んで立ち止まった。足がすくんでしまい、路地から一歩踏み出すことが出来ないでいる。


「大丈夫だよ」


 自分がついているからと、二階堂が優しく告げた。


 朱音はこくりとうなずき、呼吸を整えるように深呼吸をくり返す。自己暗示をかけるように、大丈夫と何度も心の中でつぶやきながら。


「……もう、大丈夫です。行きましょう」


 しばらくして、落ち着きを取り戻した朱音は二階堂に笑顔で告げた。


 うなずいた二階堂が優しく朱音の手を引き、二人は大通りへと一歩踏み出した。


 強い日差しと屋台から漂うとても美味しそうな匂いが、二人を襲う。


「さて、朱音ちゃん。どの屋台から行こうか?」


 子どものような笑顔で、二階堂はあえて選択を朱音に委ねた。二階堂が決めてもよかったのだが、 彼女に自信を取り戻してもらうには、この場ではこれが最善だろうと踏んだのである。


「え~……、どうしよう?」


 朱音は悩みながら、周囲を見回す。


 周囲には、かき氷、たこ焼き、アイスクリーム、フライドポテト、りんご飴の屋台が設営されている。どれも美味しそうで、この中から一つを選ぶには、少なからず時間を要するだろう。


「う~~~……」


 唸りながら、朱音は各屋台を順番に見やる。


 そんな彼女を、二階堂は何も言わずに待っていた。どれを選ぶのか、期待した表情を浮かべながら。


「……よし! あれにしよう」


 悩みだしてから十数分後、朱音はようやく五軒の中から初めに向かう屋台を選んだらしく、小さくつぶやいた。


「どれにするか、決まったかい?」


「はい。あれにします」


 と、朱音が一軒の屋台を指差した。



 かき氷の屋台である。二人は意気揚々とそこへ向かった。


「らっしゃい!」


 かき氷の屋台の主は、威勢のいい声で二人を出迎えた。


 テーブルには複数のシロップが入った大きなビンが並べられている。


 二人は少し迷った末、いちごシロップを選択した。


 注文を受けて、店主がかき氷を作り始める。氷を削るシャリシャリとした音が心地よく、期待に胸が高鳴っていく。


 大きめの紙コップにこんもりと盛られたかき氷に、ほどよくかけられたいちごシロップ。赤と白のコントラストが絶妙だった。


 会計を済ませてかき氷を受け取った二人は、屋台を離れるとさっそく一口食べる。


 氷の冷たさとシロップの甘さが、口の中に広がる。


「ん~、美味しい!」


 朱音が、満面の笑みで感嘆の声を上げる。


「うん、夏はやっぱりこれだよな」


 二階堂も満足げである。


「寒い時には食べないんですか?」


 かき氷を堪能している朱音が、ふと思った疑問を口にする。


「寒い時期に食べると、もっと寒くなるからね。かき氷を食べるなら、やっぱり夏かな」


 なるほどと納得する朱音に、二階堂は敬語は使わなくていいと告げた。


 自分よりも長く生きているであろう妖怪に敬語を使われることに、どこか違和感を覚え、相手との距離を感じてしまうのだ。


「そういうことなら、今から敬語はなしにするね」


「そうしてもらえると、ありがたいよ。そうだ! 食べながら、他の屋台も見て回ろう」


 二階堂の提案に、朱音は目を輝かせながらうなずいた。


 並んで歩く二人は、他の人にぶつからないように気をつけながら先へと進んでいく。


 焼きそばやいか焼き、わたあめといった定番の露店から、昔懐かしいねりあめの露店、帽子屋など珍しい露店までいろいろと出店している。


 あれもいいこれも捨てがたいと、次に購入するものを迷っている朱音だが、その表情は終始笑顔だった。


 楽しそうな彼女を見て、二階堂もまた笑顔になる。


 端から見ると、二人は微笑ましい恋人同士のようである。当の本人達には、その自覚はないだろうが。


「あ! 二階堂さん、あれ食べたい!」


 かき氷を食べ終えしばらく露店を物色していた時のこと、朱音は何かを見つけたのか一軒の屋台を指差した。


 そこには、チョコバナナの屋台が設営されている。二人はそこへと向かった。


 屋台のテーブルには、色とりどりのチョコレートに身を包んだバナナ達が鎮座していた。甘い香りが鼻腔をくすぐる。


 二階堂はそれを二本購入し、一本を朱音に渡した。


「ありがとう!」


 受け取った朱音は、さっそく一口食べる。パリッとしたチョコレートの後にねっとりとしたバナナの食感がやってきて、口の中にちょっとした驚きが広がる。チョコレートとバナナの甘さと香りに、朱音は至福の表情を浮かべた。


「美味しそうだね」


「うん、めちゃくちゃ美味しい! 今まで損してたんじゃないかってくらいだよ」


「それはよかった」


 そう言って、二階堂も食べ始める。


 チョコバナナを食べながら、二人は次の露店へと足を向けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ