第4話‐6 露店巡り(前編)
二人が大通りに戻ると、人通りはさらに増えていた。
夏の一番暑くなる時間帯ではあるが、先程よりも活気づいている。
「……っ!」
人が増えたことに恐怖を覚えたのか、朱音は息を飲んで立ち止まった。足がすくんでしまい、路地から一歩踏み出すことが出来ないでいる。
「大丈夫だよ」
自分がついているからと、二階堂が優しく告げた。
朱音はこくりとうなずき、呼吸を整えるように深呼吸をくり返す。自己暗示をかけるように、大丈夫と何度も心の中でつぶやきながら。
「……もう、大丈夫です。行きましょう」
しばらくして、落ち着きを取り戻した朱音は二階堂に笑顔で告げた。
うなずいた二階堂が優しく朱音の手を引き、二人は大通りへと一歩踏み出した。
強い日差しと屋台から漂うとても美味しそうな匂いが、二人を襲う。
「さて、朱音ちゃん。どの屋台から行こうか?」
子どものような笑顔で、二階堂はあえて選択を朱音に委ねた。二階堂が決めてもよかったのだが、 彼女に自信を取り戻してもらうには、この場ではこれが最善だろうと踏んだのである。
「え~……、どうしよう?」
朱音は悩みながら、周囲を見回す。
周囲には、かき氷、たこ焼き、アイスクリーム、フライドポテト、りんご飴の屋台が設営されている。どれも美味しそうで、この中から一つを選ぶには、少なからず時間を要するだろう。
「う~~~……」
唸りながら、朱音は各屋台を順番に見やる。
そんな彼女を、二階堂は何も言わずに待っていた。どれを選ぶのか、期待した表情を浮かべながら。
「……よし! あれにしよう」
悩みだしてから十数分後、朱音はようやく五軒の中から初めに向かう屋台を選んだらしく、小さくつぶやいた。
「どれにするか、決まったかい?」
「はい。あれにします」
と、朱音が一軒の屋台を指差した。
かき氷の屋台である。二人は意気揚々とそこへ向かった。
「らっしゃい!」
かき氷の屋台の主は、威勢のいい声で二人を出迎えた。
テーブルには複数のシロップが入った大きなビンが並べられている。
二人は少し迷った末、いちごシロップを選択した。
注文を受けて、店主がかき氷を作り始める。氷を削るシャリシャリとした音が心地よく、期待に胸が高鳴っていく。
大きめの紙コップにこんもりと盛られたかき氷に、ほどよくかけられたいちごシロップ。赤と白のコントラストが絶妙だった。
会計を済ませてかき氷を受け取った二人は、屋台を離れるとさっそく一口食べる。
氷の冷たさとシロップの甘さが、口の中に広がる。
「ん~、美味しい!」
朱音が、満面の笑みで感嘆の声を上げる。
「うん、夏はやっぱりこれだよな」
二階堂も満足げである。
「寒い時には食べないんですか?」
かき氷を堪能している朱音が、ふと思った疑問を口にする。
「寒い時期に食べると、もっと寒くなるからね。かき氷を食べるなら、やっぱり夏かな」
なるほどと納得する朱音に、二階堂は敬語は使わなくていいと告げた。
自分よりも長く生きているであろう妖怪に敬語を使われることに、どこか違和感を覚え、相手との距離を感じてしまうのだ。
「そういうことなら、今から敬語はなしにするね」
「そうしてもらえると、ありがたいよ。そうだ! 食べながら、他の屋台も見て回ろう」
二階堂の提案に、朱音は目を輝かせながらうなずいた。
並んで歩く二人は、他の人にぶつからないように気をつけながら先へと進んでいく。
焼きそばやいか焼き、わたあめといった定番の露店から、昔懐かしいねりあめの露店、帽子屋など珍しい露店までいろいろと出店している。
あれもいいこれも捨てがたいと、次に購入するものを迷っている朱音だが、その表情は終始笑顔だった。
楽しそうな彼女を見て、二階堂もまた笑顔になる。
端から見ると、二人は微笑ましい恋人同士のようである。当の本人達には、その自覚はないだろうが。
「あ! 二階堂さん、あれ食べたい!」
かき氷を食べ終えしばらく露店を物色していた時のこと、朱音は何かを見つけたのか一軒の屋台を指差した。
そこには、チョコバナナの屋台が設営されている。二人はそこへと向かった。
屋台のテーブルには、色とりどりのチョコレートに身を包んだバナナ達が鎮座していた。甘い香りが鼻腔をくすぐる。
二階堂はそれを二本購入し、一本を朱音に渡した。
「ありがとう!」
受け取った朱音は、さっそく一口食べる。パリッとしたチョコレートの後にねっとりとしたバナナの食感がやってきて、口の中にちょっとした驚きが広がる。チョコレートとバナナの甘さと香りに、朱音は至福の表情を浮かべた。
「美味しそうだね」
「うん、めちゃくちゃ美味しい! 今まで損してたんじゃないかってくらいだよ」
「それはよかった」
そう言って、二階堂も食べ始める。
チョコバナナを食べながら、二人は次の露店へと足を向けた。




