表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幽幻亭~人と妖狐の不思議な事件簿~  作者: 倉谷みこと
第3話 鼠

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/64

第3話‐5 バトル後半戦

 旧鼠はゆらりと立ち上がると、


「なぜ、人間の肩を持つ?」


 と、蒼矢を見据えたまま尋ねた。


 思いの外低い声だったので、それが旧鼠の声だと気づくのに、蒼矢も二階堂も多少の時間を要した。


「……お前、しゃべれたのかよ!?」


「そんなことは些末なこと。それより、なぜ人間の肩を持つ?」


 旧鼠は同じ質問を繰り返した。忌むべき存在ではないのか、と。


「なぜって言われてもなあ……」


 そんなこと考えたこともなかったと言いたげな蒼矢は、少しの間思案する。


「人間とか妖怪とか、そんなことで肩入れしてるつもりはねえよ? まあ、相棒が人間だからってのは、多少影響あるかもな。でも、困ってる奴を助けたいと思うことに、種族とかは関係ねえと思うんだけど?」


「そうか。お前にとっては、忌むべき存在ではないということか」


 何かに納得したのか、そう言うと旧鼠は、何やらぶつぶつとつぶやきだした。


 不穏な空気を感じた蒼矢は、武器を構え直し警戒する。


 二階堂も怪訝な表情で旧鼠の動向を注視していた。


 呪文のようなつぶやきが進むにつれ、旧鼠の妖気が濃くなっていく。


 このままではまずいと感じ取った蒼矢が、攻撃をしかけようとする。しかし、それは叶わなかった。


 どこから現れたのか、旧鼠の妖気を纏った小さな鼠の群れが、蒼矢の足にまとわりついて動きを封じていたのである。


 それだけではない。小鼠達は、二階堂と猫達がいるクローゼットの方にも猛然とやってきていた。しかし、二階堂に襲いかかる直前で、青い光の壁に弾かれて次々と消えていく。青い光は、二階堂の前に置かれている瑠璃色の勾玉から発生していた。それは、先月解決した事件の際に蒼矢が作り出していたものだった。


 それを横目で確認した蒼矢は悪態をつきながら、自分にまとわりつく鼠の大群を何とかしようと試みる。しかし、いかんせん数が多すぎた。ちぎっては投げ、ちぎっては投げを繰り返すが終わりは見えない。


(くっそ、このままじゃ埒が明かねえ!)


 そう思った刹那、


「蒼矢! 危ない!」


 二階堂が叫ぶ。


 呪文をつぶやいていたはずの旧鼠が、鋭い爪を振り下ろそうと目の前まで迫っていたのである。


 とっさに左腕で顔をかばう。その直後、旧鼠の鋭い爪が蒼矢の左腕を切り裂いた。


 蒼矢の表情は痛みに歪み、くぐもったうめき声が漏れる。


 悲痛な声音で蒼矢の名を呼ぶ二階堂に、


「来るな!」


 蒼矢は鋭く告げる。


 そう断固として言われてしまえば、二階堂としては従わざるを得ない。自分が出ていったところで、邪魔にしかならないのだから。


「……やってくれるじゃねえか」


 低くつぶやいた蒼矢の表情には、先程までの余裕と相手を嘲笑する笑みが消えていた。


 妖気の炎をまとい、未だまとわりついている小鼠の大群を焼き払う。


 危険を察知したのか、数歩後退した旧鼠は、また小鼠を作り出そうと詠唱を始める。


「させるかよ!」


 蒼矢は旧鼠に一瞬で迫り、鎌を振り下ろす。


 青白い炎を宿した刃は、無防備な旧鼠を無慈悲に切り裂いた。


 旧鼠は、断末魔の叫びをあげ霧散消滅した。


「蒼矢! 大丈夫か?」


 二階堂が駆け寄る。


「ああ、何ともねえよ」


 蒼矢は、切られた左腕をひらひらと振りながら、大丈夫だと告げた。


 見れば、左腕の傷はいつの間にか綺麗に消えていた。どうやら、妖気の炎を纏った時に、自然治癒能力が飛躍的に上がり治ったようである。


「それより、ほら」


 と、蒼矢があごで示した先には、まだ怯えている三匹の猫が身を寄せあっていた。


 そうだったと、二階堂は猫達に歩み寄り、


「もう大丈夫だよ」


 と、声をかけて優しく頭をなでる。


 甘えたような声で一鳴きすると、二階堂の足に体をすり寄せてきた。


 二階堂は猫達の頭をもう一なですると、部屋の角に向かい乳白色の勾玉を手に取る。それは、弱々しいながらもまだ光を発していた。二階堂がそれを持つ指に少し力を入れると、パリンと乾いた音を立てて粉々に割れて消えていった。


 同時に、部屋を覆っていた結界の気配も消える。


 二階堂が残りの勾玉も割っていくと、後ろでどさりと音がした。


 驚いて後ろを振り返ると、蒼矢が大の字に倒れていた。


 何事かと駆け寄れば、


「……つっかれた~」


「まったく、驚かすなよ」


 二階堂は笑顔で抗議する。


 蒼矢は申し訳程度に謝罪すると、


「俺、ここで寝るわ」


「せっかく、部屋用意してもらったのに?」


「もう、動きたくねえっつの」


 疲れた表情で告げる蒼矢は、二階堂の足もとへと視線を移しにやりとした。


「お前も、ここで寝ることになりそうだぜ」


「……そうするしかなさそうだな」


 と、二階堂は苦笑した。


 しゃがんでいる二階堂の足に、三匹の猫が甘えるように顔や体を擦りつけていたのである。


 二階堂は、猫を下敷きにしないように気をつけながらその場に横になった。とたんに、眠気が襲ってくる。


 二人と三匹は、どこか安心したように眠りについたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ