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幽幻亭~人と妖狐の不思議な事件簿~  作者: 倉谷みこと
第3話 鼠

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第3話‐1 依頼の手紙

 窓から見えるのは、雲一つない青い空。


 時折聞こえる蝉の声に、本格的な夏の到来を知る。


 便利屋『幽幻亭ゆうげんてい』は、本日も開店休業状態である。


 来客がないのは、それだけ平和な証拠なのだろう。そう考えた二階堂誠一にかいどうせいいちは、珍しく相棒の蒼矢そうやとともにテレビを見ていた。


 テレビでは連日のように、『今日は今年一番の暑さになるでしょう』と天気予報士が告げている。


 つい先日梅雨明けしたばかりだというのに、これでは体調を崩してしまうのも無理はない。熱中症で病院に搬送された人はかなりの数にのぼるらしく、その危険性や対策などが各メディアで報じられていた。


「……熱中症か。気をつけないとな」


 二階堂が何気なくつぶやくと、


「部屋にいれば大丈夫だろ」


 と、短いカーゴパンツにタンクトップという涼しそうな格好をした蒼矢が、冷えた麦茶入りのグラスを片手にまったりした雰囲気を漂わせている。


 冷房がきいた室内は、猛暑の暑さを忘れる程快適だった。


「確かに、この快適な空間で麦茶飲んでたら、そんな心配はいらないかもな。でも、気をつけるに越したことはないさ」


 そう言って、二階堂は立ち上がり、昼食を作るためにキッチンに向かった。


 本日の昼食のメニューは、冷やしうどんと野菜炒め。


 大きめの鍋に多めの湯を沸かし、二人分のうどんを茹でる。その間に、大葉やネギなどの薬味をきざんでおく。


 冷蔵庫から豚肉、キャベツやピーマンなどの野菜類を取り出し、一口大に切る。


 うどんが茹であがったら、ざるにあけて流水でしめ、器に盛る。


 肉と野菜をある程度炒め、おろし生姜、醤油、酒、みりんを加えて味をつける。塩コショウで味を整えれば、二階堂特製野菜炒めの完成である。


 各料理と食器をテーブルに配膳していると、先程までくつろいでいた蒼矢が郵便物を手にして戻ってきた。


「誠一宛てみたいだぜ」


 そう言って、蒼矢は持っていた封筒を差し出した。


 二階堂は礼を言って受け取り、差出人を確認する。


 真っ白な封筒には、丁寧な文字で『花江はなえ木綿子ゆうこ』と書かれていた。


「知り合いか?」


 蒼矢に尋ねられたが、知らない名前だった。忘れているだけかと思い記憶を辿ってみるが、思い当たる人物はいない。


「お、美味そうだな」


 蒼矢の弾んだ声に、二階堂は昼食の準備をしていたことを思い出す。


 封筒をテーブルの端に置くと、冷蔵庫から麦茶を取り出してきて二人分のグラスに注ぐ。


「とりあえず、食べるか」


 先に椅子に座っていた蒼矢に声をかけ、二階堂は食卓についた。


 いただきますを言って、うどんから取りかかる。めんつゆに浸したうどんは、コシがあってのど越しもよく、ちょうどいい茹で加減だった。


 次に野菜炒めに箸をつける。肉の旨味とキャベツの甘味に生姜醤油のアクセントがきいていて、実に白米が欲しくなる味だ。


「なあ、誠一。何で、うどんにしたんだよ」


 白米が良かったと言外に告げる蒼矢だが、言葉とは裏腹に箸の勢いは止まらない。


「冷たいうどんが食べたかったんだ。おかずは、熱中症のニュース見て、うどんだけじゃまずいかな~と思って適当に作った」


 二階堂は、めんつゆが入っている器にうどんを取りながら答えた。


 蒼矢は納得したのか、そうかと短く返事をして野菜炒めを頬張る。


 それ以降、会話らしい会話はなく、二人はただひたすら料理を堪能していった。


「……ごちそうさん」


 満足そうな表情でそう言うと、蒼矢は麦茶を飲みながら食事の余韻に浸る。


 二階堂もごちそうさまと言って、食器をキッチンに運んでいく。食器と調理器具を洗って居間に戻ると、少しぬるくなってしまった麦茶を飲み干しひと息ついた。


 テーブルの端に置いたままになっている封筒に手を伸ばし封を開けると、一枚の手紙が入っている。


 そこには、こんなことが書かれていた。


 ――家で飼っている猫が、何者かに殺されていく。警察に被害を訴えても取り合ってもらえず、どうしたら良いものかわからない。助けてほしい――。


「どうかしたのか? 珍しく、眉間に皺寄せてるけど」


 蒼矢に聞かれ、二階堂は無意識に険しい顔をしていたことを知る。


「これ、読んでてな」


「さっきの封筒に入ってたやつか?」


「ああ、仕事の依頼みたいだ」


 と、二階堂は手紙を蒼矢に差し出す。


 それを受け取った蒼矢は黙読し、


「……正直、これだけじゃ何とも言えねえな」


 事件なのか事故なのか。仮に事件だとして、人間による犯行なのか。それとも、人ならざるものの仕業なのか。手紙の内容だけでは判断がつかない。


「とにかく、花江木綿子さんに会いに行こうと思う」


 会って詳しい話を聞かなければと、そう思った。


 家の場所はわかるのかと問う蒼矢に、二階堂は封筒を見せて、住所なら書いてあるから大丈夫だと告げる。


「それじゃあ、行こうぜ」


 蒼矢の言葉に二階堂はうなずき、花江家へと向かった。

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