第2話‐2 休日に訪れた依頼人
その日は朝から雨だった。
梅雨入り直後の日曜日である。今年の梅雨入りは例年より早く、六月に入ってから毎日のように雨が降り続いている。
心地よい雨音を聞きながら、二階堂誠一は自室で小説を読んでいた。好きな作家が執筆しているシリーズの最新刊である。発売日に購入したはいいものの、忙しい日々が続いていたため、読みたくても読めなかったのだ。
本日、便利屋『幽幻亭』は久しぶりの休業日。黒い長袖のTシャツにジーンズといったラフな服装に身を包んだ彼は、遅めの朝食を終えた後、紅茶の入ったティーポットとティーカップを持って自室に戻った。そして、紅茶の香りを堪能しつつ、趣味を満喫しているというわけである。
同居人の蒼矢はというと、まだ姿を見ていない。昨夜は遅くまで酒を飲んでいたようなので、まだ自室で寝ているのだろう。
起こそうかとも思ったが、たまにはいいかと思い直し、二階堂はまた物語の世界へと戻ることにした。
小説を半分くらいまで読み終えたところで、ティーポットに入っていた紅茶がなくなっていることに気がついた。
二階堂のこだわりなのか、小説を読んだり何か作業する時には、必ず紅茶を淹れるのである。しかし、没頭している時に飲んでいるため、飲み終えていることに気づくのが遅れてしまうのだった。
小説にしおりをはさみ、紅茶を淹れ直すためにキッチンに向かう。
小さな片手鍋に水を入れて火にかける。次はどの紅茶を飲もうかと茶箪笥の扉に手をかけた時、玄関の呼び鈴が来客を告げた。
(誰だろう?)
不思議に思いながらも、二階堂はコンロの火を止めてから玄関に向かった。
「どなたですか?」
声をかけながらドアを開けると、そこには紺のサマーセーターを着たショートカットの少女が立っていた。一見、少年かと見間違うほどの顔立ちだが、どこかの制服らしいスカートを履いていたため女子だと確信を持てた。
今にも泣き出しそうな顔をしている。
「……あのっ! 助けてください!」
二階堂が尋ねるより早く、少女が口を開く。
少女の様子からただごとではないと察した二階堂は、彼女を室内に招き入れる。
居間に案内し椅子に座るよう促すと、二階堂はキッチンに向かった。片手鍋に入っている水は、当然ながらまだ冷たい。
わずかの逡巡、二階堂は二人分のガラスのコップを用意する。作り置きの麦茶を冷蔵庫から取り出してそれに注ぎ、居間に運んだ。
「どうぞ」
二階堂が麦茶を少女の前に置くと、彼女は礼を言ってそれを半分くらい一気にのどに流し込んだ。
二階堂は彼女の向かい側に座り、簡単に自己紹介をする。
少女は藤野えりと名乗り、親友を助けて欲しいと告げた。
「えりちゃん。落ち着いて、最初から話してもらえないかな?」
二階堂が優しく声をかける。
えりは謝罪して、気持ちを落ち着かせるように小さく深呼吸する。
「実は、今日の午前中のことなんですけど……」
静かに語りだした。