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答えなき答えの果てにあるものとは……

作者: 月野兎姫

 ここにある一組の若い夫婦がおりました。二人の間には子供はいませんでしたが、とてもシアワセな毎日を過ごしていました。ですが、そんなシアワセな日々は長くは続きませんでした。妻は今の医療では治療が確立されていない『不治の病』になってしまったのです。


 夫の仕事は研究者でしたが余命が少ない妻の看病をするため、仕事を辞めることを決意しました。そのことを妻に話したら「私のためにあなたの大切な研究をやめてはいけない……」そう妻に頼まれてしまい、夫は仕事を続けることにしました。ですが日を追うごとに妻の容態が悪くなり、またいつまで経っても妻の病の治療は確立されませんでした。


 日に日に弱る妻を見守りながら、夫は自分の無力さを嘆きました。そこでふと夫はある事に気付いたのです。「ただ妻の傍で祈ることしか、今の自分(・・・・)にはできないのか? 自分は一体何者(・・)なんだ? 研究者なんだろ? ……なら自分が妻の病を研究して、妻の病の治療方法を見つければいいのではないか!?」っと。


 その日から夫は来る日も来る日も研究に没頭しました。寝る間も食事をとることも惜しみ、毎日欠かすことの無かったはずの妻の見舞いも、二日に一度、三日に一度……っと次第に減っていきました。ですが、妻は研究に没頭する夫に何一つ文句を言いませんでした。


 そして研究から数年が経ち、夫はようやく妻の病の原因を突き止め、ついにその治療法を確立させると「これで妻の病気を治すことができる! そしてあのシアワセの日々を取り戻せるぞ!」っと、急ぎ妻が入院している病院に治療薬を持って行きました。



 ……ですが妻は、夫が治療薬を完成させたその当日の朝、既に(・・)亡くなってしまっていたのです。


 妻が死んでしまい、またその死に目にも会えなかった夫は「自分は一体何のために、妻との残り少ない時間を犠牲にして研究をしてきたんだ! こんなことになるなら病気の研究などせずに、妻の傍にいるべきだったではないか……」っと今は冷たくなったベットを叩きながら後悔しました。そこでふとベット脇にある棚に妻が描いたであろう一枚の絵を見つけました。それは『ラベンダーの花』でした。



 何故、妻は夫に何も言わなかったのでしょうか?



 果たして何が正しくて、何が間違いだったか、きっとその答えは存在しないと思います。ですが、きっと妻は「自分の病の研究などせずに、残り短い余命を夫と共に過ごしたかったはず……」ではないでしょうか?

挿絵(By みてみん)


おしまい

ラベンダーの花言葉には、『あなたを待っています』『期待』『幸せが来る』『許し合う愛』『疑い』『不信』『沈黙』などの意味合いがあるそうです。この物語に答えなど存在しません。あるのは読んだ貴方がどう思い、どう感じ取ったのか、ただそれだけです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 拝読させていただきました。 どこか切ない雰囲気があり、印象に残る作品でした。 また、丁寧語で書かれているところも、作品の雰囲気に合っていて良かったです。 最後のイラストも美しいですね。
[良い点] 等価交換の原則は、ある…。 しかし、時間以外に限る。 「答えはある」が、知りたくはない…残酷な結末。 やはり、ショートショートは著者さんの表現力がでますね。 良作です( 〃▽〃) [気…
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