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ゴーストホープ  作者: ぷーたろう
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霊法基監督署

「最善を尽くしました」

私達の仕事は正す事ではない。

怒りや憎しみを流す事だ。


私達は霊の払いをやっている。ただ、エクソシストとか陰陽師のような徐霊とは違う。霊法に則り然るべき処置を施す、所謂霊専用のお役所なのだ。

一昔前はオカルト機関と呼ばれ、世間の笑われ物だった。

しかし、一度霊の存在が認められると、私達の機関はなくてはならないものとなった。そう、「霊法基監督署」。

巷では期待を込めて「ゴーストホープ」なんて呼ばれ方もされているそうだが、実際の所は希望もへちまもない。

なんせ死人の想いは生者の比ではないからだ。本来私達の仕事は、この世をさ迷う死者の迷い理由のヒアリングと、霊法と照らし合わせた際に必要性があれば成仏のお手伝いをする、といったものだが、如何せん。成仏出来ない死者の8割以上は、誰かや何かへの怨みや憎しみを抱えているのだ。人間の汚い感情の行き場を提示してやる役割は、倫理観を捨てなければ務まらない。私達は人よりも厚情であり、そして非情でなければならない。


「人間てえのは、、」

シャムはへらへらと笑いながら仕事の内容について愚痴をもらした。仕事から帰ってくるといつもこうだ。

「生前旦那に酷い扱いを受けた上に、死んでからもジーさんが自分の貯金を好き放題使いやがるって怒ってた。ジーさんをとり殺そうとしていたから、説得するのが大変だったよ」

事務所のソファーに寝転がると、彼はそのまま目を閉じた。

「なんでこう、人間てのは争いばかり産むのかね」

しばらくすると、寝息をたて始めた。

私達の職場は政府管轄のお役所と別棟にある。

地域毎に規模は違うようだが、東京の中心部に構える私達の事業所は他よりも大分広い。しかし、職員は私とシャムとボスの三人だけだ。一体どうしてこんな少人数なのかと言うと、人手不足もあるが、私達の元にくる案件はどの事業所も手に負えなかったもの。つまり、私達は最終兵器と言うわけだ。とりわけ、シャムの事案解決率はほぼ百パーセント。普段のいい加減さ(事業所での居眠り常習犯)から全く想像がつかないが、どうやら凄い人らしい。そして、全く謎の人物だ。そもそも彼が日本人なのかどうかも分からない。顔はどう見ても西洋だし、金髪だ。そのくせ、流暢に言葉を紡ぎ出す。年齢は私と同じくらいの二十代にも見えるし、もっと三十代くらいにも見える。外国人(顔)の年齢判定というのは生粋の日本人の私には難しい。

国の裏組織で働いていたなんて噂もあるが、眉唾物である。

「お疲れだね。」

シャムの間抜けな寝顔を写メしていると、ボスが微笑しながらドア口に立っていた。

「西管轄からまたクレームさ。尻拭いってのも大変だな。」

ボスはメガネをクイッと掛け直すと、ははっと笑った。

ボスこと恐山(おそれやま)恭一は霊法基監督署の中央署の部長で、私達の上司だ。年齢は30後半だが、引き締まった身体に目元が涼しげななかなかの美男子である。髪は7・3分けで、常に漆黒のスーツを着こなしている。香水のいい匂いと爪先まで手入れが行き届いている。父親が政治家で母親が大企業の令嬢という正にサラブレッドだ。平凡な家庭で育ち、血の滲む努力でここまできた私とは月とスッポンの差がある。そんなエリートが一体どうしてこの管轄に来て、そしてこのちゃらんぽらん男をサポートしているのかは全くの謎だ。どうやら、二人の過去に解決の糸口がありそうだが、新卒3ヶ月の私には未知数な事だらけだし、プライベートに入り込める程の親しさも無い。

「、、さん。伊太子さん。」

「は、はい。」

いつの間にか意識が飛んでいたようで、目の前でボスが私の顔を覗きこんでいる。

「な、何でしょうか」

どぎまぎしながら返事をすると、一枚の紙を手渡された。

「3ヶ月の研修も終わりだし、実習と行こうか」

「お~、、イタコも初仕事かあ」

いつの間にかシャムは上体を起こして、碧色の目で私を見つめている。(慌ててスマホを隠したが、バレているな)

「どれどれ~」

「あっ ちょっと」

シャムにとられた紙を覗き込む。

㈱仲本 花山義郎

半年前 自殺


「いきなりヘビィなのきたね~。haha」

シャムは私の頭をくしゃくしゃと撫でると楽しそうに笑った。



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