盲目の男
ありきたりではありますが、喜んでくれれば幸いです。
あるところに、絵に描いたように心優しくて仕事熱心な男がいました。しかし、彼は生まれつき目が見えません。
男は、パンを焼いて売るパン屋でした。
目が見えずとも確かな実力で焼くパンは非常に美味しく、人柄の良さも手伝ってか、近所だけではなく遠方までその名は知れ渡り、大変繁盛していました。
ある日、男が店を閉じようとしていた時に、ふらりと初老の男が訪ねてきました。
「ちょっといいかい。この近所で評判の目が見えない人が焼く、大層美味いパン屋があるって聞いてきたのだけれど、ここであってるかい?」
「ええ、たぶんそうですよ」と男が言うと初老の男は安心したと言いました。
男は顔に、満面の笑みを浮かべて「何をお求めですか?」と聞いた。すると訪ねてきた人は慌てて言いました。
「いや、別にパンを買いに来たわけじゃないんだ」
男が怪訝な顔をするのを構わずに初老の男は続けます。
「あんたは真面目で、お腹を空かせた子供に何も言わずにパンをやるほどに優しい。だからどんな願いでも三つだけ叶えてやろうと思ってな。大金持ちになるもよし、何処かの国の王様になるもよし。勿論、目を見えるようにすることだってできる」
それを聞いた男は喜んだ。疑うことを知らないその様子に、初老の男はおどけて言いました。
「おっと、その代わり代金が必要だ」
私に払えるものならと男が言い、訪ねてきた人は一言、パン、と言いました。
パンを渡した男が最初に願ったのは勿論、目を見えるように――
……ではありませんでした。
男はまず、
「私を世界で一番美しく綺麗なところに移動させてください。最初に見る景色にそれが見てみたいのです」
初老の男が、わかったと言った途端にパン屋の店内から移動しました。男は目が見えませんが風をいきなり感じたのでわかりました。いよいよ嬉しさを抑えきれません。男は矢継ぎ早に次の願い、目を見えるようにしてくれと言いました。
再び初老の男がわかったと言うと男の目は見えるようになりました。
「……どうだ。初めて見る景色は」
黙り込んだ男に初老の男が尋ねました。すると男は訪ねてきた人を見ずにこう言いました。
「私の目を見えなくしてください」
驚いた初老の男はそれは何故かと聞き返します。すると男は、
「これが何か私にはわからないのです。これが美しいのかすら。ただ、恐ろしいと思っています。これではとてもパンなんて焼けません」
やはり初老の男を見ずに言いました。
初老の男は納得した様子で、美味かったとパンの感想を言って、一言、
『わかった』
と言いました。
そしてそこに残ったのは男だけになりました。
残った男は、暫く佇んだ後、思い出したようにポツリと言いました。
「そう言えばここは何処だろう?」
残った男は暫く思案しましたが、
「まぁ、いいか。パンを焼く所が僕の居場所だ」
と言って歩き始めました。
初めて書いた話ですが、どうでしたか?忌憚ない意見をお願いします。駄目なら改善します。よくても精進します。