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明治妖妖記 二つの闇  作者: ながとみコケオ
8/10

誤魔化してみたけど

 姿を現した壱の雰囲気が、妙に意味ありげに笑っているように思えた喜助は眉間に皺を寄せた。

「何、にやけてるの」

 不機嫌な口調で聞くと、今度は楽しそうな雰囲気を伝えてくる。

「いやあ、柴坊の言ったことに納得する辺り、喜助も丸なったと思ってねえ」

「それはどうも。でも壱が邪魔なのは変わらないから」

 はいはいと適当に答えた壱は、処でと話題を変えた。

「お前さんが受けた依頼に関わっているか分からないんだがな、海岸近くの湿地で干乾びた躯が見つかったらしい。男らしいが、誰だか分からないって話を小耳に挟んだんだが、役に立てばと思って来た次第だ」

 相変わらず、何処で何をしているのか分からないと思いつつ、喜助は小さく頷いて見せた。

「ほっかむりのおじちゃん、すげえな。そんな情報何処から見つけたんだよ」

 一緒に聞いていた柴一は、感嘆とした声を上げている。

「海岸の近くに住む者達が話していたのを、偶然聞いたのさ。そんな大した事じゃあない」

「干乾びたって、ミイラ化した躯?」

 柴一に楽しそうな雰囲気を伝えながら答えた壱に、喜助は慎重な口調で聞き返す。聞かれたことに、壱は首を横に振って見せた。

「言葉通り干乾びた、だ。日にちも経っちゃあいない、水分だけが抜けた状態の躯らしい」

 壱の言葉に、喜助は難しい顔をしながら腕を組む。躯の状態から、原因が人なのか妖なのかどちらとも言えない。分かるのは、体の水分を抜き取られて死んだことだけ。

「ねえ。躯には傷があったの?」

「首筋に、何かに噛みつかれた後が残っていたらしい。獣だろうとか言ってたが、内臓は残っていたらしいから、獣じゃあないな」

「妖怪か、それに準する者」

「だろうな。さて、今回は何が出て来るやら」

 壱の言葉を余所に、喜助は腕を組んだまま難しい表情に加えるように眉間を寄せた。

 刀取りではなさそうだが、妙に胸騒ぎがする。胸騒ぎの原因は、依頼の情報が少ないだけではない、何か別のこともあるような気もしている。何がと言われると、答えようのない。依頼が来る前に見た夢見の悪さも加わっているのか、全くもって釈然としない状況だ。

「随分、難しい顔してるねえ」

 黙り込んでしまった喜助に気付いた壱が、声を掛ける。無言で壱をみた喜助は、小さく溜息を吐いた。

「手元の情報も少ないのもあるけど、夢見の悪さもあるかもね」

 喜助の言葉に、柴一が心配そうな表情を見せた。

「親父、何の夢見たんだよ」

 柴一の言葉に、喜助はしまったと思う。あまりの夢見の悪さに、柴一達には話そうとも思わなかったのだ。じっと見詰めている柴一を見た喜助は、どうやって誤魔化そうかと思案する。

「実はね、柴一が女の子になる夢をみてね、それが余りにも現実的だったから、目が覚めた時に柴一を見詰めちゃったんだよねえ」

 聞いた途端、柴一の表情が引き攣った。

「そんな夢見るな、くそ親父。心配して損したじゃねえかよ」

 壱が、柴一に見えない位置で肩を竦めた。壱には、後からでも話が出来るだろう。しかし、柴一には心配させたくはないのだ。喜助の気持ちは壱にも伝わっているせいか、口には出さず柴一に見えない位置で呆れているに留めている。

「あ、でも、柴一の女の子も可愛かったかも」

「気持ち悪いっつうの。俺は、女になる気なんかないからな!」

 満面の笑みで言った喜助に、噛みつかんばかりの勢いで柴一が怒鳴った。

「だろうねえ。女の子になったら、真乃ちゃんと夫婦になれないしねえ」

「だから、何でそこに真乃が出て来るんだよ!」

 怒鳴っている柴一の顔が、真乃の話が絡んだ途端に赤くなっている。

「柴一、顔が赤いよ」

 素直過ぎて可愛いと内心思いつつ、喜助は敢えて顔が赤い事を指摘してみる。

 慌てたように柴一が頬を袖で拭きだして、喜助は思わず噴き出してしまった。

「柴坊。喜助が考えていることは、何となく分かるだろうに。もう少し考えてから、行動した方が良いと思うがねえ」

 仕方がないと雰囲気を伝えて、壱が口を挟む。

 壱の指摘に、柴一の行動が止まる。そのまま壱を振り返りつつ、上目遣いで見上げた。

「そういう行動をするから、喜助が構いたがるんだが」

「んなこと言われたって」

 壱の言葉に、柴一が拗ね気味に呟いている。喜助が満面の笑みを浮かべると、柴一に声を掛けた。

「そのままでいなよ、柴一。お父さんも壱も、柴一みたいに素直じゃないから羨ましく思うよ」

「まあ、喜助と話す時は、狸の化かしあいみたいなもんだからねえ」

 拗ね気味の表情のまま、柴一が喜助と壱を見る。

「狸と狐の化かしあいじゃねえの」

「柴一。壱が言ったからって、態々訂正しないでくれる」

 抑え気味に笑っている壱の向かいで、喜助が苦笑いを浮かべた。

「狸同士っていうよりも、狸と狐って思っただけだ」

「もう良いよ。どっちも同じだから」

 柴一にとって、どちらが狸でどちらが狐なのか。本人だけが分かることだが、喜助は敢えて聞かないでおこうと思った。

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