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明治妖妖記 二つの闇  作者: ながとみコケオ
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魔刀と妖刀

「で、完全に話が逸れましたけど、柴一に妖刀を持たせるのはまだ早い気もしますが」

 和結正人の話は一旦止めて、喜助は話を戻す。

「そうかもしれん。正直に言うと、まだ素振りしかさせていないからな。だが、刀取りがこれからどう動くのかを考えると、持たせるべきだろう。満足に刀を振れない柴一に、力を貸してくれそうな妖刀を見繕うつもりだ」

 一体、連はどんな妖刀を持ってくるつもりなのか。疑問に思う喜助の気持ちを代弁するように柴一が口を開いた。

「連さん、刀がどうやって俺に力を貸してくれんだ?」

「お前が未熟なうちは、妖刀自体がお前を上手く動かしてくれる。言っておくが、渡すのは魔刀ではなく妖刀だ」

 連の答えに、柴一は小首を傾げた。

「なあ、魔刀と妖刀の違いって何?」

「一番の違いは、主の意識を支配するかしないかだな。魔刀は、持つ者自体を支配する。体も意識もだ。支配して、魔刀の欲望のままに動く。逆に、妖刀は持つ者の意識を優先する。使いこなせないうちは持つ者の体を動かすが、使いこなせるようになれば、妖刀として本来の力を発揮する。神刀も妖刀と同じだ」

 主の意識も支配する、か。心の中で呟いて、喜助は自分の中に居る相刹を思う。相刹は魔刀だ。何時かは、自分も相刹に支配されてしまうのだろうか。相刹を手にした時、喜助の意識を支配しようとしたが失敗した。喜助の意志が勝っていたのか、人として生きていた間は大人しくしてくれていた。妖になってから相刹の意志を抑えるために術を施しておいたお陰か、今も自分の意志を持てている。だが、相刹に意志も支配されてしまった時、自分は相刹の欲望のままに動いてしまうのかもしれない。

 益々分からないと表情に出している柴一と、何れ分かると意味ありげに笑みを浮かべる連を余所に、喜助は小さく溜息を吐いた。

 喜助自身が妖で、刀術も呪術もある程度使いこなせる成果、人や刀術、呪術の心得が多少ある大樹の妖では、抑えることは難しい。山の主やその一族なら、太刀打ち出来るだろうが、喜助自身の持っている能力を考えると、連や妖利山の主が経ちはばからない限り無理だろう。

 相刹に支配されてしまうと大事処ではないなと思いながら、喜助は連が見ていることに気付いて、慌てて思考を打ち切った。

「お前、何を考えていた」

「相刹の事を少し」

 溜息に近い吐息を吐いた連は、相刹と呟いた。

「お前、相刹の意志は抑えているのだろう」

「ええ。妖になってから術を施していますから、問題はないです」

「ならば、別段気にすることも無かろう。お前は、昔から心配性なところがあるからな。必要のないことにまで気を遣うな」

 さすがに、師匠なだけはある。性格を見抜いての言葉に、喜助は小さく肩を竦めた。

「それが出来れば、もっと気楽に生きれるんですけどねえ」

 苦笑いを浮かべて言った喜助に、柴一の視線が嘘だと言いたげに見上げられている。

「柴一、視線で言いたいこと言うの止めてくれる。視線が痛いんですけど」

「だって、親父が心配性とかあり得ねえ」

 そうでもないよと、賢治が口を挟んでくる。

「人やった頃っち、真面目過ぎて考え込むことが多かったけん、精神的に持つっちゃろかっち思いよったもん」

「賢治。何なら今から荷物まとめて妖霊山に戻る?」

「げっ。嘘やん」

 賢治に向けられた喜助の視線が、氷点下を下回るような冷たさを伴っていたらしい。賢治と、賢治に釣られるように見た柴一が、二人して固まっている。

「放っておけ。それよりも、今は行方不明者の件だな」

 視線を連に向けた喜助は、頷いて見せた。

「そうですね。情報が少ないから、少しでも集めないと」

「それもそうだが、刀取りが関わっていないかが気にかかる」

 連に言われ、確かにと呟いた喜助は両袖に互いの腕を通した。

「気にかかりますが、今は何とも言えませんね」

「ああ。羽音もまだ、刀取りの行方は掴めていない。居場所が分かれば、連絡を寄越すとは思うがな」

 幽霊騒動で柴一が刀取りの子だと分かってから、羽音は刀取りの居場所を探し、行動を監視するべく動いている為、二ヶ月の間に羽音と会ったのは二度程。月に一度、連が柴一と刀術の手合わせをする為に、妖霊山に連れて行った時くらいだ。柴一が連の振るう刀に軽く吹き飛ばされているだけの手合わせを眺めて、どうも刀取りは常に移動しているようで、居場所を掴むのも苦労すると呟いている羽音を思い出し、喜助は思わず苦笑いを浮かべてしまった。

「羽音さんに、面倒事を引き受けさせてしまいましたね。今更ですが申し訳ないと思います」

「気にするな。羽音も暇を持て余しているんだ。刀取りを探すくらいさせておけ」

「それなら良いですけど。今度会った時にでも、お礼を言っておこう」

 そうかと一言呟いて、連はそれ以上何も言わなかった。

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