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明治妖妖記 二つの闇  作者: ながとみコケオ
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微妙に旬を外して

 飯が冷めては、旨いものも不味くなる。喜助も柴一に倣って膳の前に移動すると、三人揃って両手を合わせて頂きますと言って食事を始めた。

 椀を左手に持ち、箸で味噌汁の具を摘まみ上げた喜助は、無表情に見詰めた。味噌汁には、何処から採ってきたのか淡竹が入っている。

「ねえ、賢治。この淡竹、何処から採ってきたの」

 淡竹の時期は5月中旬からの筈で、今はまだ旬ではないのだが。

「ん? 妖霊山の近く。丁度時期やけん、採ってきた」

 確かに妖霊山付近は時期なのだろうが、ここにはここの時期というものがある。

「賢治。こっちは後一カ月くらいしないと、旬にはならないのだけれど」

 淡竹を食べた賢治が、喜助を見た。閉じた口を動かして噛み砕いた淡竹を飲み込むと、不思議そうな表情をした。

「一カ月くらいやったら、気にせんで良いやん」

「あのね、大樹と同じ感覚で食事作らないでくれる。こちらには、こちらの時期っていうものがあるのだから」

 どうも連と似ているのか、賢治は時々斜め上の思考を当たり前のように言ってくれる。本人の感覚がこちらの者達と違うのか、天然なのかは分からない。

「親父、旬にこだわり過ぎだろ」

 焼いた鯵の身を器用に箸でとって、柴一は白米を口に放り込んだ。柴一の横で、太月と陽影が仲良く出された猫まんまを美味しそうに食べている。

「あのね、同じ食べ物でも旬の時に食べるのと、時季外れに食べるのとでは美味しさが全然違うんだよ。どうせ食べるなら、こっちの旬に合わせて食べたいよ」

 特大の溜息を吐いて、喜助は淡竹を口に運ぶ。

「とか言いよる割には、しっかり食べよるし」

「文句言ってねえで、黙って食えよ」

 賢治と柴一の言葉に、拗ねた表情をしつつ喜助は味噌汁を啜る。旬を気にしていない賢治ではあるが、味は文句の言いようがないくらい美味い。

「旬はどうかと思うけど、賢治ってさあ良いお嫁さんになるよね」

 独り言のように呟いた喜助に、賢治と柴一がまじまじと見詰めいる。

「料理も出来て、掃除も洗濯も出来て、その上裁縫まで出来るもんなあ」

 納得したのか、柴一が頷きながら言う。

「俺、別に嫁に行く気ないんやけど。それ処か、良い人すらいませんけど。誰か嫁に来てほしい」

 最後の一言は、完全にぼやきになってしまった賢治に、雀の涙程の同情を感じつつ、椀を置いて茶碗に手を伸ばした喜助は、ところでと話題を変える。

「お縁さんから話聞けたの?」

 情けなさげな表情と化していた賢治が、表情を戻して大きく頷いた。

「聞けた。お縁さんが知ってたのは三人。仙太郎≪せんたろう≫、一馬≪かずま≫、清≪きよ≫っていう人。行方不明になる前の状況も、特に変わった様子はなかったらしいよ。仙太郎はもうすぐ子供が生まれるって嬉しそうだったし、一馬は明るい性格で、家を出るような問題もない。清は茶屋の看板娘で、働き者。勿論、なんの問題も無し」

 賢治の言葉に、喜助の表情が徐々に険しくなる。知ってか知らずか、賢治はそのまま続けた。

「仙太郎、一馬は何時から行方不明なんかは分からんかったけど、清は三日前で、知り合いの春≪はる≫っち人が見かけたらしい。見かけた時に清に声を掛けたらしいけど、全然気付かんかったみたいで、妙に急いどったんて。で、何度か振り返りながら深川の方に行ったっち言いよったよ」

「行方不明者は分かっても、目ぼしい情報は無し、か」

 行方不明になる直前の状況も、後ろを気にしていた事も、既に糸井さんから聞いている情報で、話好きのお縁に聞いても新しい情報はない。

 さて、どうしたものか。茶碗に盛られた白米を見詰めて、喜助は壱の言葉を思い出す。海岸の湿地帯で見つかった躯。身元が分からない躯は、既に警官が回収している。身元が判明すれば、糸井さんから連絡が来るだろう。躯は、放っておいても問題ない。ならば、見つかった湿地帯にでも行ってみるか。

「二人共。明日、海岸沿いの湿地帯にでも行ってみようか」

 喜助の言葉に、柴一が勢いよく頷いた。賢治は軽く首を捻って、疑問気に喜助を見ている。

「干乾びた躯が、見つかったらしい。躯自体はもう警官達が運んでいるだろうから確認出来ないけど、見つかった場所は確認したいんだ」

「そういう事。やったら別に行っても良いけど、依頼と関係あるん?」

 賢治が納得しつつも聞いた言葉に、喜助は分からないと答えた。

「でも変死体が見つかったっていうのはやっぱり気にかかるから、確認くらいはしておきたいな」

 言葉を返した喜助は、白米を口に運んだ。

「まあ、気になると他の事に集中も出来んし、情報も一つずつ確認していかんと解決にもならんしね」

 左手の椀を茶碗に持ち替えた賢治が、鯵の身を取って口に運ぶ。

「で、連さんは何時戻るの?」

 口に運んだ白米を飲み込んだ喜助が賢治に聞くと、食べながら無言で首を傾げた。

「分からないんだ」

 喜助の言葉に、首を縦に振った賢治が口の中の物を飲み込んだ。

「気まぐれやけん、何時戻るか知らん。でも、刀を持って来るのは確実やね」

「そう。すぐ帰ってくるのなら、連さんも一緒にって思ったんだけど、無理そうだね」

 連の行動に関しては、賢治でも把握出来ない。分かっているせいか、喜助も無理に行動を共にする気はない。本人が来れば連れていくかと思いながら、喜助は鯵に手を伸ばした。

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