末っ子長女は考える
以前番外編で書いた「例えばこんな未来の話」の続きっぽい話。
本編完結後、サフィアとギルバートの子供である成人済みの双子の男の子が巣立ったあとに生まれた妹視点の話。
私の名前はルティア。十二歳。
山賊やら殺人鬼やらとよく間違われる父さんと、元精霊の母さんと、冒険者となって家を出た双子の兄たち、そして私の五人家族。
兄さんたちとかなり歳の離れた私は初めての女の子という事もあり、それはそれは可愛がられている。主に父さんに。
母さんそっくりな私を目に入れても痛くないと言って実際に目に入れようとして猫姿の母さんに猫パンチをくらい鼻血を出し、こんなに可愛い娘を学校になど行かせたら大変な事になると言って駄々をこねて母さんに脳天チョップをくらい鼻血を出し、友達と遊びに行くと聞けば人攫いに遭うかもしれないから自分も一緒に行くと言っては猫姿の母さんに後頭部を猫キックされて鼻血を……父さん鼻血出しすぎ。
我が家は少し他の家とは違う。
まず父さんがSランク冒険者ということ。
いまだに現役で、どうしても他の冒険者ではこなせない依頼があった時だけ依頼を受けるスタイルだ。
そして母さんが元精霊であること。
これは家族だけの秘密。 当然だよね。私や兄さんたちは昔から猫の姿の母さんを見てるから何とも思わないけど、普通の母親はそんなことできないしね。
でも父さんが初めて母さんと出会ったのが猫の姿だったと言うし、そのうえしばらく猫として母さんと二人で旅をしてたと言うから驚きだ。
猫ってことはペットみたいなものでしょ? そんな相手と恋愛して結婚までしちゃう?
まあ兄さんたちに言わせれば父さんは母さんならどんな姿だって大丈夫って言ってたけど、猫だと思ってた母さんを恋愛的に好きになる方が大丈夫?って聞きたい。
あと元精霊だった母さんの影響なのか、子供の私たちの魔力はかなり高い。
小さい頃から母さんに教えてもらってたからそこそこ魔法は扱えると思う。でも母さんもきちんと学校で習ったわけじゃないから、私が行きたいなら学校へ通って魔法を使えるようにしたらいいと言われ、悩んだ末に私は王都にある貴族ばかりが通う学校に行くことにした。
これに猛反対したのは父さん。
父さんは昔、その学校へ通っていたことがあると言うのだ。
それだけでも驚きだが、なんでもその学校へ通うのは貴族ばかりだから平民の私とは話が合わないだろうし、イジメに遭うかもしれない。そんな所へ私を行かせたくないようだ。しかも王都から遠いこの場所からは通いでは行けないから寮へ入ることになり、父さんと母さんと離れて暮らさなきゃいけない。それが一番反対する理由らしいと、母さんがこっそり教えてくれた。
でも私は自分の将来を考えた時、魔法に関わる仕事をがしてみたいと思った。
兄さんたちは小さな頃から聞かされた父さんと母さんの冒険話に憧れて冒険者になったけど、私は昔から母さんが使う魔法が大好きで魔法にのめり込んでいった。 だから学校へ行ってちゃんと基礎から学んでみたいのだ。
だからもうすぐ私は王都の学生寮へと引っ越す。
父さんの顔が日に日に怖い顔がになってるけど、あれは泣くのを我慢してるだけだと母さんは言ってた。父さんってほんと私を好きすぎると思う。
そうは言っても父さんの一番は今でも母さんなのは子供である私たちはみんな知ってる。
私たちが愛されてるのも分かってるけど、やっぱり父さんの一番は母さんだ。
そもそも私が生まれたのも、兄さんたちが家を出てそれを寂しがった母さんを父さんが全力で慰めたら私がお腹にやってきたと言っていたし。
父さんいい歳して気持ち悪……じゃなくて母さんを愛しちゃってるよね。
だからかな。 私もいつか、私を一番に好きだって言ってくれる人と、父さんと母さんみたいな夫婦になりたいって思ってる。恥ずかしいから二人には内緒だけど。
最近の心配は私がこの家を出たらまた母さんが妊娠してしまわないかということ。
弟か妹ができるのは嬉しいけど、子供が巣立ちをする度に新しい子供を産んでいたら母さんの身が持たない。十二歳の娘がする心配ではないと思うので誰にも打ち明けたことはないけどね。
「ルティア! そろそろお父さん帰ってくるから夕飯の準備しちゃうよ!」
階下から母さんが呼びかけてくる。こうやって母さんと料理をするのもあと少しだから、私は張り切って部屋を出る。母さんが作る料理は他では食べたことがない料理ばかりだから、そのレシピをしっかり教えてもらって王都で食べたくなったら自分で作れるようにしておきたいのだ。
私は父さんが買ってきたレースたっぷりのエプロンを身につけるとキッチンに向かった。
「今日はルティアの好きなドリアにしようか」
「やった!」
母さんが新しく開発した料理グラタンの中身をお米に変えたドリアは私の大好物だ。
これは絶対に覚えておきたい料理なのでホワイトソース作りから真剣に習う。
「うん。 ホワイトソースも美味しくできたし、これなら王都でもこの味に飢えなくてすみそう」
「そうね。 でもこの味が恋しくなったらいつでも帰って来ていいんだからね。 お母さん、ルティアのためなら腕によりをかけて作っちゃうから」
「母さん……ありがとう」
父さんには毎日のように寂しい寂しいと言われてきたけど、そういえば母さんにこうやって王都行きについて何か言われたことはない。
「こんなに早く家を出て行くとは思わなかったけどルティアが選んだ道だから応援したい。 辛いことや苦しいことがあったらいつでも帰ってきなさいって言いたいところだけど、とりあえず限界までは頑張ってみなさい」
母さんはとても澄んだ湖のような瞳で私を見て言った。
「この世界で魔力を持つ者はそれほど多くないわ。 持っている者も大半は貴族ばかり。 だから平民のルティアに学校は辛い場所になるかもしれない。 でもそれを選んだのはあなたよ。 だから多少辛いぐらいで逃げ帰ってくることは許しません」
いつも優しい母さんの顔がとても真剣で、私は少し圧倒されてしまった。
「まぁ、お父さんやお母さんに会いたくなったらいつでも帰ってきたらいいわ。お母さんもルティアに会えなくなるのは寂しいから」
さっきまでの真剣さから一変し、パチリとウィンクをして笑う母さんは私から見ても綺麗だと思った。
「……ぐふっ、」
母さんとの会話で気づかなかったが、どうやら父さんが帰ってきていたようだ。
私が今の父さんの姿を想像しながら振り返ると、予想通り鼻を押さえて母さんから目を離せないでいる父さんがいた。
「ギルバート! おかえりなさい」
母さんはそんな父さんの姿には触れず帰宅の挨拶をした。
「あ、ああ……、ただいま。 サフィア、できれば今のウィンクを俺にも……」
「さ、早く手を洗ってきて。 今日の夕飯はほとんどルティアが作ってくれたのよ」
「わ、わかった」
さすが母さん。 父さんを転がすのはお手の物だ。
「うん、美味しい! これなら安心してルティアを送り出せるわね」
「母さんの料理は美味しいけど、どの食堂でも味わえないからね。 私、友達ができたら食べさせてあげたいんだ! 」
「じゃあ気になってる男の子にも食べさせてあげたらいいんじゃない? 」
ブフゥっっっ、と向かいから盛大にむせる音が聞こえるが気にしない。
「男の子の心を掴むにはまず胃袋からって言うしね。 こんなに料理上手な女の子だって分かったらモテちゃってしょうがないわね」
ふふっと笑う母さんの方がよっぽどモテるでしょって言いたいけど、そんな母さんにそっくりな私だし、もしかしたら人生初のモテ期というものを経験できるかもしれない。でも……
私は咳き込む父さんの背中を優しくさすってあげてる母さんの姿を見て、やっぱり私の理想はこの二人だと再認識する。
「うん。 じゃあこの人って思った人にだけ料理を作ってあげることにする」
誰にでもモテるのは私の本意じゃない。
「ル、ルティアっ! ルティアは他の男になんて作らなくていい! ルティアは父さんにだけ料理を作ってくれたらいいんだ!」
「ん〜、でもこの前ジョエルさんが来た時私も料理したよ」
「ガハッ!」
何やら大ダメージを受けて固まる父さんの肩を母さんが笑いながらポンポンと叩いた。
「もう、それくらいでショック受けないの。 これじゃ彼氏連れて来たら大変なことになるわね」
「か、か、か、か、彼氏っ!?」
「そりゃいつかできるわよ」
「駄目だ! ルティアはずっと父さんと一緒だ!」
「なに馬鹿なこといってんのよ」
流れるように父さんの脇腹に拳をめり込ませる母さん。父さんはすかさずその手を掴んで撫で回して怪我がないか確認する。 昔同じように突っ込みを入れて突き指をした母さんを心配してだ。決して疚しい気持ちからではないと父さんは言っていたがこの家でそれを信じる者はいない。
「子供はいつか親元から旅立つもの。それを親である私たちが邪魔しちゃダメよ」
「だがルティアにはまだ早いのでは……」
「あら。 ギルバートは私だけじゃ不満だって言うの?」
母さんが拗ねた顔で父さんを見つめれば、父さんはそれまで不満気だった顔を焦った顔に変え、必死に母さんに縋り付く。
「そんなことはない! 俺にはサフィアがいてくれたら、それだけでいい」
「私と一緒ね。 私もギルバートがずっと傍にいてくれたらそれだけでいいわ。だから、ルティアがこの家を出てくのも、彼氏ができるのも、ゆっくりでいいから認めてあげて」
父さん曰く女神の微笑みだと言う顔を浮かべる母さんに、父さんは顔を赤くして何度も頷いていた。
……鼻血出ないといいけど。
父さんの手は母さんの手を握っているから今鼻血が出ても押さえられない状態だ。
「さ、じゃあ冷めないうちに食べちゃいま……ギルバート!」
「うわー、やっぱりー」
やはり堪えきれずに鼻血を噴く父さんに、母さんが慌てて台布巾を鼻に当てる。
「ちょ、母さん、それさっき使ったやつだから!」
「あ、つい! ルティア、別の布持ってきて!」
いっきに慌ただしくなった食事風景に、私はこんな日常もあと少しなんだとちょっと寂しくなってしまう。 でもそれ以上にこれから新しい場所での新しい出来事に胸を踊らせる期待の方が大きく、やっぱりいつまでも父さんの傍にはいてあげられないなと思った。
なんかルティア主人公で学園ものが書けそうな気がしたり、しなかったり。
サフィアの膨大な魔力を受け継いでるうえにサフィアから魔法を習っていたことと、ギルバートから護身用に剣を教えられていたことで学校でチート状態に。
おまけにサフィア譲りの美人顔と平民出身の気さくな人柄で男女問わずモテモテだったりしたら楽しいなと思いました。




