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夢で逢えたら5

 (気持ち悪いっ!)


 無遠慮に撫で回される腿の感触にサフィアは吐き気しかしなかった。


 (触らないでっ、気持ち悪いっ、触らないでっ!)


 サフィアは力の限り腕を振り回し、殴り、蹴り上げたが、偽物ギルバートを止める事はできなかった。


 (大体私の夢の中なのになんでアンタの好きにされなきゃなんないのよ!)


 先ほど術が使えなかったのもそうだが、猫になる事もできなかった。ちょっと思いついただけでフレディは出てきたというのに理不尽すぎやしないか。


 「ちょっと、ほんといい加減に……」



 

 スパッ_______________。




 目の前にあった偽物ギルバートの顔が遠くに飛んでいった。


 「え……」


 呆気に取られ偽物ギルバートの顔があった場所をポカンと見つめるサフィア。次いでサフィアを押し倒していた身体も横に吹っ飛んだ。


 「え……」


 飛んで行った身体を呆然と目で追っていると、突如腕が引きちぎられるかという勢いで引かれ、圧死させられそうな強さで抱きしめられた。


 「ぐふぅっ、」


 偽物ギルバートの首が飛んで行った衝撃と、ギュウギュウと抱きしめられている今の状況に目を白黒させていると、自分を抱きしめているのが愛しい夫だとやっと気づいた。


 「ギルバート?」


 「遅れてすまない」


 今度こそ本当にギルバートだろうか。ついギルバートの頬に触れると嬉しそうにその目が細められ、サフィアはやっと安心してギルバートに抱き着く事ができた。


 「急いで戻ろう」


 「うん。 でも、どうやって?」


 「それはこっちで誘導する」


 突然聞こえた熊男の声にサフィアはあたりを見渡すがその姿は見えない。


 「俺が外から引き上げる。 抵抗せずに身を任せてくれ」


 サフィアがギルバートを見つめると、ギルバートは落ち着かせるようにサフィアの頭を撫でた。


 「大丈夫だ。 あの男の言う通りにしてくれ」


 分かったと口に出すやいなや、身体が引っ張られ二人は宙に浮いた。……が、


 「きゃっ、なに!? 」


 サフィアの足に黒い蔦のようなものが絡まった。


 すぐさまギルバートが剣で切り離すが、黒い蔦は次から次へとサフィアの足に絡みついてきた。


 「いやっ!」


 切っても切ってもキリがない。そうすると、上に引っ張られる力が強くなった。


 「無理やり引っ張るぞ。嫁さんを絶対放すなよ」


 熊男の声にギルバートはサフィアを痛いくらい強く抱き込んた。


 「しっかり掴まってろ」


 ギルバートが構えた剣が輝きを放ち薙ぎ払うように振り抜くと蔦が一気に霧散した。だがすぐにまた蔦の形を取りサフィアへと向かってきた。


 (捕まる!)


 サフィアはギュッと目をつぶるが、いつまでたっても蔦の感覚はしなかった。


 「え? ……あ、れ?」


 そうっと目を開けてみると天井が見えた。


 「サフィア!」


 「ぐえっ、……ギ、ギルバート?」


 サフィアは見た事のない部屋のベットで横になってギルバートに抱きしめられていた。


 「良かった……。 本当に」


 戻ってきた。多分、今度こそ。


 安堵の溜め息をついたところで無意識にギルバートの背に回していた腕が目に入りギョッとした。


 「こ、れ、」


 そこには夢の中でサフィアに絡みついてきた蔦のように、呪いのアイテムが巻きついていた痕がはっきりと残っていた。

 

 「まぁ目立つ痕だが時間が経てば消えるはずだ」


 ギルバートの肩越しに熊男の姿が見え、じきに消えると言われたので気にならなかったが、サフィアの髪に顔を埋めていたギルバートは相当堪えたようだった。


 「サフィアの肌に俺以外がつけた痕が残るなど……」


 「あ、この度は大変お世話になりました」


 長くなりそうなギルバートの独り言を遮り、サフィアは熊男に向かってお礼を言った。


 「いや、久しぶりに手応えのある依頼だった」


 だから気にするなと首を振る熊男には感謝しかない。


 「ギルバートもありがとう。私一人だったらどうしていいか分かんなかったよ」


 「サフィアに何かあれば助けるのは当然だ。サフィアが無事なら、それでいい」


 「じゃあこいつはこっちで処分しとくぞ」


 そう言って熊男の手のひらに乗っていたのはサフィアの腕に巻きついていた呪いのネックレス。


 「呪いのアイテムは物理的に壊してもすぐ再生する。 破壊するにはそれなりの手順が必要なんだ」


 「頼む。 あ、それと報酬だがーー」


 ギルバートが熊男と話し始めるとサフィアは精神的な疲れから眠たくなり、瞼が落ち始めてしまった。


 「サフィア?」


 「寝かせてやれ。 呪いに抵抗するのは存外疲れるもんだ」


 二人の会話もどこか遠くなり今にも眠ってしまいそうなサフィアだったが、また夢で殺人鬼が出てきたらと思うと怖くて眠りたくなかった。


 「大丈夫だ。 もうあんな奴は夢に出てこない。 もし出てきたとしても、また俺が助けてやる」


 ーーそうだ。この腕の中にいれば怖い事なんてない。


 安心したサフィアはギルバートの腕の中から出ないように、もそもそとギルバートの膝に乗り、首にギュッと抱きついて眠りについた。


 可愛すぎる……! と鼻を押さえた夫の姿を見る事なくすぐにサフィアは眠りに落ちたのだった。




 その後サフィアを抱いて宿に帰り着いたギルバート。無事に妻の呪いが解け、心底安心したギルバートはまだ知らない。宿に帰る道すがら、嵐のようにギルドに駆け込んだ冒険者が女神と見紛う女性を妻などと虚言を吐き連れ込み、あまつさえ腕に縛られた痕をつけ気絶した状態で街中をその冒険者に抱えられて歩いていたと噂が立った事を。

 そして数時間後には女神を救えと幾人もの冒険者が宿に突撃をかまし、妻の眠りを妨げるものはなんびとたりとも俺が許さん!と宿屋の前で大立ち回りを繰り広げる事になるとは、このときのギルバートには想像もつかない事であった。







これにて今回の番外編は終わりです。

お付き合いいただき ありがとうございました!

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