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にゃんにゃんにゃん

本日が猫の日なので猫繋がりで更新します。

 それはよく晴れた昼下がり。池のほとりでタレ目の軟派な美男子が一人と、その足元で三匹の猫が呆然と佇んでいた。


 軟派な美男子の名前はジョエル。足元にいる三匹のうちの一匹は契約精霊のクインツ。 もう一匹の猫はサフィア。 そして最後の一匹は……。


 「何だこれはっ!」


 「ギルバート!? 」


 「うわっ、怖っ。 猫になっても怖っ」


 最後の猫、それはギルバートが猫になった姿だった。


 「おい、ジョエル! これはどういう事だ! 」


 「あー……、さっき知らない女の子に貰った『疲れが取れる薬』らしいよ」


 「知らない女って、あれだろ。 前からお前につきまとってた奴 」


 「うん。 無理やり押し付けられちゃったから、とりあえず中身だけでも捨てちゃおうと思ったんだけど……」


 ジョエルは空になった小瓶を振りながら申し訳なさそうにサフィアを見た。


 「まさかクインツがあんな悪戯をするとは思わなかったから手が滑っちゃって。 ごめんね、サフィアちゃん」


 「悪戯じゃねーよ。 ちょっと滑っただけだろ 」


 そう、たまたまこの池のほとりで再会した二組の冒険者たち。

 二組でここで休憩を取っていたら、知らない女の子に押し付けられたという怪しげな薬を思い出したジョエル。

 今のうちに捨ててしまおうと小瓶の蓋を開けたところ、木の上の果実を取っていたクインツが脚を滑らせジョエルの上に落ちてしまった。その衝撃でジョエルの手から小瓶が離れそれがサフィアに向かっていき、咄嗟にサフィアを庇ったギルバートが小瓶の中身を被ってしまったのだ。


 この薬が本当に『疲れが取れる薬』ならそれで終わった事だろう。 だが問題はその後だ。突然ギルバートの身体が小さくなりだした。

 みんなが驚きに目を丸くしているうちにギルバートは真っ黒の猫へと変化していったのだった。


 「ギルバートが庇ってくれたから私には何もなかったけど……これどうしたらいいの? 」


 「ギルバートが猫ねぇ。 君ってどんな姿してても凶悪な見た目は変わらないんだね 」


 「そんな事はどうでもいい。 どうすれば俺は元に戻れる 」


 愛くるしい猫の姿といえど、その禍々しく放たれる魔力によって全く可愛く見えず、むしろ全力で距離を取りたくなる様子は何一つ変わっていない。

 そんな猫ギルが隠す事なく禍々しい魔力をジョエルに向けてバシバシ放っているが、ジョエルは臆する事なく平然と受け止めている。


 「って言われてもねぇ……」

 

 「そもそも『疲れが取れる薬』なんだろ? 何で猫になるんだ? 」


 「ううん、でもまぁそのうち戻るんじゃない? 」


 「なんて無責任! 」


 「ギルバートだったら大丈夫かなって 」


 「なんか否定出来ない」


 「サフィア……」


 がっくりと項垂れる猫の姿のギルバートの肩をポンポンと叩くサフィア。


 「この姿で目線が同じなのって変な感じ」


 「そうだな。 というか俺は猫の目線が初めてで落ち着かない 」


 そう言うとギルバートは前脚を目の前に持っていき、しげしげとそれを見つめた。


 「ねぇねぇ。 ちょっと猫の真似してみて」


 「猫の真似?」


 「うん。 ニャアって鳴いてみて! 」


 これはサフィアのちょっとした好奇心から出たお願いだったが、サフィアのお願いを叶えない選択肢などないギルバートは素直に「ニャア」と鳴いた。


 「ブフッ! ちょ、君は何になろうとしてるのっ」


 「アッハッハッハッハッ!! 声低っ。 全っ然可愛くねぇ! 夢に出るな! 」


 「た、確かに、子どもは泣いちゃいそうね……」


 涙が出るほど笑い続けるジョエルとクインツ。 そして必死に笑いを堪えるサフィアとそれを静かに見つめる猫ギル。

 自分でお願いしといて笑うのは失礼だと思い笑いを堪えるサフィアだったが、サフィアと同じ目線で猫サフィアを見つめるギルバートはただただサフィアが可愛くて仕方なかった。

 口に前脚を当て必死に笑わないようにしているサフィア。それを同じ目線で見ている。こんな機会は滅多にないだろうと、自分が笑われている事など全く気にせず貴重な同目線サフィアを目に焼き付けていた。


 そうこうしているうちに時が経ち、猫になった時と同じように突然ギルバートの姿が大きくなった。そしてまたみんなが驚いている間に元の人間の姿へと変わってしまった。


 「戻った……」


 「やっぱり勝手に戻ったじゃない」


 「良かったな、変な呪いとかじゃなくて」


 「ギルバート!」


 すぐにサフィアがギルバートの肩へと飛び乗り頬擦りをした。

 条件反射のように鼻を押さえるギルバートに構わずサフィアはさらにグリグリと今度は額を押しつけた。


 「良かったぁ。 どうしようかと思った」


 「心配かけてすまない」


 「いいの。 それよりどう? 気分が悪いとかない? 」


 「いや、どこも平気だ」


 ギルバートは鼻を押さえたまま、反対の手でいまだグリグリと額を押し付けるサフィアの頭を優しく撫でた。


 「お前らそうやってすぐイチャつくのやめろよな! 」


 「まぁまぁ、いいじゃない」


 「ご、ごめんっ、」


 サフィアとしては人前でイチャつくのは恥ずかしくて嫌なのだが、普段二人でいる時間が長いため自然とくっついてしまうのだ。


 「ジョエル、今後はそんな変な薬を貰ってくるな。 いや、貰うのは勝手だが俺たちを巻き込むなよ」


 「ああ、悪かったね」


 「ではサフィア、もう行こう」


 「うん。 じゃあね、二人とも」


 そしてその場を離れるためギルバートはサフィアを肩に乗せたままクルリと後ろを向いた。そしてーー


 「「ブフーっっ!! 」」


 ジョエルとクインツ、二人が一緒に吹き出した。


 ジョエルは腹を抱えて声も出ないほど笑い、クインツは高らかに笑い声をあげた。


 「尻尾って! 尻尾って! 」


 そう。 人間の姿に戻れたと思ったギルバートだったが何故か尻尾だけ残ったままだった。マントの下からゆらゆら揺れているのをジョエルとクインツは見てしまい、さらに深い笑いへとハマってしまったのだ。


 突如笑い出した二人に驚いて振り返るギルバートだったが、自身に尻尾が残っている事を指摘され、どうせすぐ戻るだろうと二人を残して再び歩き出した。

 残されたジョエルとクインツはしばらくその場を動けなかった。




 「っつーかあんな怖い男に尻尾って誰得だよ!」


 クインツのその叫びだけが響き渡ったのだった。

 

にゃんにゃんにゃんの日(2月22日)なら(にゃん)は三匹いなければ……ということで猫ギル爆誕です。

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