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お帰りなさいませ。ご主人様。 後編

 「エラ! 今日はめちゃくちゃ可愛い子がいるって聞いてーーーうぉお! 可愛い!めちゃくちゃ可愛い! やばい! 結婚して…グハァッ!」


 速攻でトレイが飛んできて入って来たと同時に外へ消えて行く客に、「いちいち反応してんじゃないよ!」と厨房から怒声が響く。


 「サフィアさん、これ四番テーブル!」


 「はーい! 」


 カウンターにドンっと置かれた料理を受け取り、サフィアは忙しく店内を動き回っていた。




 渡された制服に袖を通し、みんなの前に出た後は大変だった。主にギルバートが。


 胸の下でギュッと絞られたデザインのエプロンスカートは予想通りこれでもかと胸を強調し、強調した胸元は惜しげも無く開けられ谷間が見せつける様に覗いていたし、膝丈のスカートによってサフィアの生足はがっつりと見え、全体的にタイトな形をしている事でボディラインがよく分かった。


 こんな姿を野郎共に見せるられるか!と鼻を押さえながら全力で反対していたが、女将さん(こう呼べと言われた)とその娘エラには手放しで褒められた。


 サフィアが着替えてる間にエラへの説明も済んでいた様で、騒ぐギルバートを無視してすぐに仕事内容を説明をしてくれる姿は頼もしく、サフィアもギルバートを丸っと無視して説明を受け、昼の営業の時間になった。

 最後まで反対していたギルバートには厨房で皿洗いをするなら店内にいる事を許され(ホールに出る事だけは許されなかった)、サフィアの説得のかいもありしぶしぶ皿洗いを引き受けてくれた。


 女将さんとエラが厨房で料理を作り、サフィアがホールでウェイトレスをする形でスタートしたが、多少のもたつきはあっても何とか上手くいっている。

 客が常連ばかりで今日の食堂の人手不足を理解してくれた事と、みんながサフィアに見惚れているので待たされても全く気にしていなかった事が大きな要因だ。

 

 「にしても本当に綺麗なお嬢さんだな。 どうだい、うちの息子の嫁に来ないかーーうひぃ!」


 男性が発言した瞬間、その頬を掠めてフォークが飛んできて後ろの壁にトスっと刺さった。


 「悪いけどその子は立派な人妻だよ。 冗談でも口説くと怖い亭主が黙っちゃいないよ!」


 女将さんの声が店内に響き渡り、サフィアは困った様に笑いながらごめんなさい、と一言謝ると刺さったフォークを抜いて何事もなかった様にカウンターに戻して次の料理を運び出した。


 元々人気のある店だったようだが、今日はとんでもなく綺麗な子がいると話題になり一向に客足が途絶えない。


 サフィアにとってこんなに忙しく動き回るなど前世ぶりで、身体は非常に疲れても心はとても充実していた。

 実はギルバートと夫婦になってからサフィアが働きたいと言った事は何度かある。

 ギルバートが依頼をこなしている間、短期だけでもとお願いしてもギルバートは許してくれなかった。依頼中にサフィアに何かあったら心配で集中出来ない。と言われてしまうとサフィアも反対を押し切ってまで働こうという気になれなかった。


 お金に困っているわけではないしギルバートが望むならそれでもいいと思っていたが、先日とある村に行った時にその村の風習を聞き、サフィアも是非その風習をやってみたいと思ったのだ。

 それには道具が必要でありそれを買うお金が必要だが、このお金をギルバートに用意してもらうのだけはどうしても嫌だった。

 どうしものかと悩んでいるところへ今回の食堂での手伝いの話が出て、サフィアは思わず飛びついてしまった。

 ギルバートには随分と反対されたがこのチャンスを逃すと次はいつになるか分からないので我慢してもらう事にする。


 それにしても楽しい。


 お金を稼ぎたいという目的はあるが、それを抜きにしても久々の労働は楽しかった。

 楽しくてつい笑顔が零れて口説いてくる野郎共が増え、その度に何かが飛んでくるが概ね上手くいったと思う。



◇◇◇



 「お疲れ様。遅くなっちまったけど昼食にしよう」


 最後の客を見送ると、女将さんが今日のランチを出してくれた。


 「お腹ペコペコ~。 アタシここまで長く厨房入ったの初めて。 もうホント疲れた」


 「私もこんなに働いたの初めてです」


 「ええ? 初めてであんなに出来るって凄い。アタシがやり始めた頃ってあんなに動けなかったよ~。 やたらとオジサンたちがお尻触ってくるしさ。それを避けたせいで何回も料理の皿落としたよ。 サフィアさんは大丈夫だった?」


 「私は……イタタタタ。 ギルバート痛い。 大丈夫だから。触られてないから。 ちょっと腕緩めて」

 

 「この仕事向いてるんじゃないかい? 今日はアンタのお陰で客の入りも良かったし、何ならうちでこのまま働くかい? 」


 「駄目だ」


 休憩だと言われた途端、人目もはばからずサフィアを膝に乗せ椅子に座ったギルバートがこれでもかと低い声で応える。

 ただでさえ暗いオーラを放っていたギルバートだったが、サフィアを勧誘された事でさらに重苦しいオーラを漂わせてエラを怖がらせた。

 すかさずギルバートの脳天にチョップをくらわせ止めさせたサフィアにエラから驚愕の表情が向けられた。


 「まぁ、そんな怖い亭主がいたんじゃ客が寄りつかなくなっちまうね。 ああ、そうだ。これは今日働いてくれた分だよ」


 「ありがとうございます!」


 念願の給料をもらえてホクホクのサフィアにギルバートは不思議そうに首を傾げた。


 「なんだ。 サフィアは金が必要だったのか? だったら言ってくれれば良かったのに。 そうしたらーー」


 「女心の分かってない亭主だねぇ」


 わざとらしく溜息を吐きながら女将さんがギルバートの言葉を遮った。


 「自分で稼いだ金が必要だったんだよ。 そうだろう?」


 「……はい」


 全てを見透かしているような女将さんに、サフィアは恥ずかしそうに笑った。

 その表情がたまらなく可愛くて、ギルバートは人前であるにも関わらずサフィアを押し倒しそうになり慌てて下を向いた。ーーが、それがマズかった。

 下を向いた事で膝に乗せていたサフィアの胸の谷間が至近距離で視界いっぱいに広がった。

 

 「がはっっ」

 

 「ギルバートッ!? 」

 

 だがこのサフィアの滑らかな肌に血など落としてなるものか。

 懸命に垂れてくる鼻血を押さえていると、「母さん、俺何で寝ちゃってたの? 店どうした~? 」と間の抜けた声が割り込んできた。


 「え? あれ? 君、さっきの……ああああの、もしかして俺の求婚を受けてくれた……ぎゃあ! 魔物がいる! 」


 「サフィアに近づくな」


 「きゃあ! 兄さん!」


 「店ん中でそんな物騒な殺気を放つんじゃないよ!」

 

 「ギルバートやめて! 落ち着いて! 血が止まらなくなっちゃう!」


 こうして店はカオスと化したのだった。



◇◇◇



 「やっと出来たー!」


 サフィアは完成したばかりの作品を掲げると、その出来栄えを確認した。


 「ちょっと雑な部分はあるけど、まあいいでしょ」


 「ただいま。 サフィア」


 そこへ依頼を終わらせたギルバートが部屋に帰ってきた。


 「あ、おかえりなさい。 ごめんね。全然気づかなかった」


 「いや、それは構わないが……それは? 」


 「あー……、あの、ええと……」


 扉に向かって突き出すように掲げていたものだから、当然扉から入ってきたギルバートには一発で見つかった。

 心の準備の出来ていなかったサフィアは少し動揺した後、結局押しつける様に手に持っていた物を渡した。


 「これは……紐か?」


 「あの、前に行った村で聞いた風習なの。夫婦になった奥さんが相手の旦那さんに組紐を贈るって。その贈った紐がお互いの心を繋ぐ紐になるんだって。それで繋がった相手としか心を交わす事が出来ないから浮気もされないっていう迷信があるみたいなの。だから……あのね、」


 次第に熱くなる頬を見られないように下を向いたままサフィアはギルバートの手首に組紐を結んだ。


 「これでギルバートの心は私と繋がったから。だから、あの……」


 そこで意を決してサフィアは顔を上げ、ギルバートの顔を正面から見据えた。


 「これからも浮気なんてしないで、 私だけを見ててね。 愛しい旦那様 」


 はにかんだ笑顔でそう告げるサフィアは、これでもかとギルバートの心臓を撃ち抜いた。

 

 いつもはギルバートからの愛を受け取るだけのサフィアが、ギルバート程ではないにしろ独占欲を滲ませとんでもなく可愛い事を言っている。


 ただただ呆然とギルバートがサフィアを見つめていると……


 「あっ、忘れてた。 ちょっと待ってて 」


 全く動かなくなったギルバートを置いてサフィアは隣の部屋に行ってしまう。衝撃の抜けないギルバートは魔法で封印されたかのように指一本動かせないままだったが、数分後部屋から出てきたサフィアを見た瞬間、グワッと目を見開いた。


 「……これ、あの店の制服。 次来た時にまた手伝ってほしいからあげる言われたでしょ? でもギルバートは私がこの格好するの嫌がってたし、私も組紐の材料買えたからもう働く必要ないんだけど、でもせっかくもらったから今日はギルバートの専属のウェイトレスになろうかと思って。 組紐の材料買って残ったお金で美味しい茶葉買ったの。私が用意するからギルバートは座ってて」


 そう言って未だに動けないでいるギルバートの手を引いて席に着かせる

 言われるままにイスに座ったギルバートを見下ろし、サフィアはにこりと笑って、


 「お帰りなさいませご主人様。美味しいお茶を淹れますのでお待ちください。 それとも……先にわたくしを召し上がりますか?」


  と言ってみた。

 サフィアにとってはただのお巫山戯であり、少し前世を思い出してメイド喫茶と新婚さんのやり取りを混ぜて言ってみただけだ。すぐに「なーんちゃって。嘘。嘘。 すぐお茶淹れるね」と言って支度を始めるつもりだった。

 

 だがサフィアに関しては冗談の通じない男。それがギルバート。


 「いい……のか」


 「ん? なにが? 」


 お茶かサフィアかと訊かれれば迷わずサフィアを選ぶ男。それがギルバート。

 というか何があってもサフィア一択しかない。当然だ。


 「なら俺はサフィアがいい」


 「え……」


 そうしてサフィアは風のように寝室に攫われ、到底お茶など淹れられない状態にされてしまったとさ。

 めでたし。めでたし。



 





 「何がめでたしよ! こんな終わり納得できない!結局お茶淹れてあげられなかったし! 」


 「大丈夫だ。 サフィアは充分美味かった。 なんならおかわり……」


 「せっかく女将さんに美味しいお茶の淹れ方教わったのに! エラとお兄さんに付き合ってもらって練習したのに! 」


 「それは……あの男が俺より先にサフィアが淹れた茶を飲んだと言う事か? 」


 「え? うん。 私一人じゃ飲みきれなかったし……って、どうしたの!? 急に剣なんて持ち出して」


 「ちょっとあの男を斬って来る」


 「なんでよ!」


 「大丈夫だ。 サッと行ってサクッと斬ってくるだけだ。 すぐ戻る」


 「答えになってない! っていうかそんなのダメに決まってるでしょ!」


 「サフィアはあの男を庇うのか……?」


 「そういう意味で庇ってるわけじゃないから! なんの罪もない人を斬ってはいけません」


 「俺にとっては重罪人だ」


 「私の練習に付き合ってもらっただけじゃない。はぁ。ねぇギルバート。 おかわり、する?」


 「なっ、そ、それは……」


 「こちらはギルバート限定商品でございます。今を逃すと本日はもうお求め出来ない一品です。 おかわり、いたしますか? 」


 「サフィア!」


 こうしてサフィアの犠牲により一人の男の命が救われましたとさ。

 (今度こそ)めでたし。めでたし。

お待たせいたしました。

やっと回復したので続きを更新します。


お待たせしましたので今回は小話のオマケ付き。


本日(11月10日)の活動報告に小話載せておきます。

よろしければ読んでみてください。

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