お帰りなさいませ。ご主人様。 前編
ハロウィン用に書いていましたが、間に合いませんでした。
「これが制服だよ」
そう言ってニヤリと笑う目の前の女性をギルバートは絶望的な気持ちで見つめた。
そもそもの始まりはつい数十分前に遡る。
新しい街にやって来たサフィアとギルバート。街の雰囲気を楽しみながら歩いていると、そこに突然一人の男が飛び出して来た。
エプロン姿ににハンチング帽をかぶった二十代前半ぐらいの男で、顔を真っ赤にして「おおおお俺と結婚してくださいぃっ!」といきなりサフィアにプロポーズをしてきたのだ。
呆気に取られポカンと口を開けるサフィアとは反対に、ギルバートはサフィアの前に出て男の視線を遮ると、剣の柄に手をかけ殺気を放ちながら男を睨んだ。
「ひ、一目惚れで…ヒィっ! 」
真正面からギルバートの殺気を受けた男はそのまま後ろに倒れて気絶してしまった。
しかも運の悪い事に倒れた先に木の廃材などが置いてあり、男は全身傷だらけで悲惨な姿になってしまった。
「何? どうしたの? 」
ギルバートの背に隠れていたため何が起こったのか分からないサフィアは慌てて男に駆け寄ろうとするが、それを許すギルバートではない。
「サフィアは近づくな」
「でも……」
「ヘンリー! どうしたんだい! 」
そこへ現れたのは倒れた男と同じエプロンを着た女性。男と似た顔をしている事から母親と思われる。
「なんだい、こんなとこでひっくり返っちまって。ーーーお前さんがやったのかい? 」
殺気を収めたギルバートではあったが、未だ男を睨む様子は平常時より恐ろしい。そんなギルバートに物怖じせず睨み返してくる女性に内心驚きながら、ギルバートは片手でサフィアを抱き寄せながら口を開いた。
「そいつがいきなり妻に求婚してきたんだ」
「はあ? 求婚って……ああ、そんなに綺麗な奥さんじゃ仕方ないね。 ったく、いきなり店飛び出して行くから何かと思ったら。 それにしたっていきなり求婚だなんて……。 悪かったね、うちのバカ息子が。 ヘンリー起きな! これから昼時なんだ。 急いで戻んないと店が回んないよ! 」
女性が男の肩を揺すっても頬を叩いても、一向に意識は戻らなかった。
「参ったね。 ちょいとアンタ。 悪いけど息子をうちの店まで運んでおくれ」
「何故俺がそんな事を……」
「アンタがやったんだろ。 アンタの奥さんにちょっかいかけたのは悪かったけど、息子は同意のない相手に手を出すなんて最低な真似はしないはずさ。なのに息子は傷だらけで倒れてる。 口説いただけでこれはちょっとやりすぎじゃないかい?」
殺気を放っただけで特に何もしていないが、この状況では信じてもらえないだろう。
サフィアに求婚してきた男を助けるなど業腹だが、サフィアにも「お願い、運んであげて」と言われてしまえば頷くしかない。
「どこに運べばいい? 」
ギルバートは荷物のように男を肩に担ぐと、先導する女性の後ろを歩き出した。
着いた先は食堂の裏口。
「ここはアタシの店だよ。 息子もここの料理人として働いてるんだ」
開けてくれた扉を潜り中に入ると中は厨房になっており、お昼の営業に向けて準備をしている若い女性が一人いた。
「母さん、兄さんはどうし……キャアッ! 」
持っていたお玉を落とし、恐怖に青ざめながらギルバートを見る女性。
「うちにお金なんてありません! 」
「大丈夫。 この人は強盗じゃないよ」
娘の横を通り過ぎ奥の棚を漁って戻ってきた女性が手に持っていたのは服やら靴やら小物一式。
「ヘンリーは上の部屋に寝かせといてくれ。 エラ、案内しな。 あと綺麗なお嬢さん、アンタはこれに着替えて手伝いを頼むよ」
「は……?」
「え……?」
何を言ってるか分からずギルバートとサフィアの目が点になる。
「ヘンリーは起きる気配がない。 うちは食堂。 他の従業員は休暇中。 アタシと娘だけじゃ昼時の店は回らないんだよ。 ただでさえ今は亭主が隣街に行っちまってて人手不足なんだ。 悪いがアンタには店を手伝ってほしい。勿論手伝ってもらった分はちゃんと給金を払うよ」
「……おい。 確かにアンタの息子をこんな状態にしたのは悪かったが、だからってサフィアに手伝いをさせる理由にはならんだろ。 人手が足りないなら他を当たってくれ」
「もう昼だ。 今から他の手伝いを探す時間なんかいよ」
「なら俺が手伝う」
「バカな事言うんじゃないよ。 アンタみたいなのが店に出たら客がみんな帰っちまう」
「だが……」
「ギルバート、私は構わないから。 今日だけならお手伝いします」
「サフィアっ、」
「そうかい。 ありがとう! これがうちの制服だよ。 ここらで一番可愛いって評判の制服だから、恥ずかしがらずにちゃんと着ておくれ」
「恥ずかしがらず……?」
首を傾げつつ受け取った制服を広げると、胸元が広く開き、スカートの丈がこちらの世界では驚くほど短いエプロンスカートのワンピースだった。
フリルやレースが多く確かに可愛いには可愛いが、
如何せん布地が少ない。
「これを着るんですか!? 」
ワンピースを身体に当ててみると胸の谷間はがっつり見えそうだし、膝も出る短さだった。
「だ、だ、駄目だ! 絶対に反対だ! 」
ギルバートだけが見る事を許された、サフィアの胸の谷間や白くすらりとした足を他の男に見せるなど許容出来る事ではない。
サフィアも納得しているし今日一日だけと言うなら店の手伝いも何とか許せるが、こんな破廉恥な服を着るなど絶対に許可出来ない。
「ったく、心の狭い亭主だね。 本人がやるって言ってんだ。 アンタも諦めな。 いいかい、一度やると言ったんだ。 ちゃんと最後までやってもらうし、やるからにはうちの店のやり方でやってもらう。うちの女の子たちにはこの制服を着てもらってるからアンタの奥さんにもこの制服を着てもらう。 それでこれが、うちの制服だよ」
店の制服を着る事を何度も念押しされ、サフィアは残りの小物類も受け取り仕方なくこの服を着る覚悟を決めた。
ここまで胸の開いた服は着た事はないが、膝丈のスカートなど前世では普通に着ていた服なので大して抵抗はない。
むしろ問題はこの世の終わりの様な顔をしている目の前の夫だろう。
どう説得しようか思案するサフィアだったが、ギルバートが呆然と「俺の胸……生足……」と言ったきり戻って来ないので説得は諦めた。
ショックでただでさえ怖い顔がさらに怖くなっているのもものともせず、女性は「時間もないし、さっさと頼むよ」と告げるとギルバートを追い出し、娘のエラに部屋に案内するよう頼みつつ厨房を出て行った。
みんなが出て行き改めて渡された服をまじまじと見るサフィア。これはあれだ。あちらで言うメイド喫茶の衣装みたいだ。メイド喫茶の衣装ほどスカートの丈も短くないし装飾も少ないが、胸の下で絞られたデザインはやたらと胸を主張しそうだ。
サフィアは溜息を一つこぼすと着替えるためにボタンに手をかけた。
本当はメイド喫茶の制服ではなく、
アン〇ミラーズの制服がイメージです。
でも知ってる人が少なそうなのでメイド喫茶と表記しましま。
私の中ではアンナ〇ラーズです。
現在体調を崩しているため次話を更新できるのがいつになるか分かりません。
前書きでも書きましたが元々ハロウィン用に書いていた話なので(ハロウィンとは全く関係ない話になりましたが…)、なるべくハロウィンに近い日付けで更新したくて今回の更新となりました。




